アクセスカウンター
アクセスカウンター

iPS細胞に未来はあるか?2009年08月10日 08時19分59秒

人間の様々な細胞や器官になり得るiPS細胞。
人工多能性幹細胞。
発明したのは日本の山中先生。
いまや医学研究の最大課題の位置をしめており、その実用化を目指して世界中がしのぎを削っています。

iPS細胞のすごいところは以前に僕がこのブログで書いた通り。
3大新聞の社説よりも、僕の記事の方が1日早かったです。

今朝の朝日の一面に載っていたのは、iPS細胞を効率的に作る方法。
それは、、、p53遺伝子の働きを抑えるのだそうです。

p53とはゲノムの守護神。
がん化しかかった細胞の細胞周期を止めて、遺伝子DNAの傷を修復しますが、それがうまくいかないとその細胞を殺してしまいます。
つまり「がん抑制遺伝子」という訳です。

もともとiPS細胞を作る時には4つの遺伝子を細胞の中に放り込んでいます。
そのうちの一つがc-myc遺伝子。
これは「がん遺伝子」。
今回はそれに加えて「がん抑制遺伝子」を働かなくするというのですから、それって研究の方向性はどうなのかな? と思ってしまいます。

もちろん安全性が担保されたiPS細胞を作って初めて、実用化への道が開く訳ですが、1980年代に見つかった「がん遺伝子」や「がん抑制遺伝子」から研究が離れられなければ、大きなブレーク・スルーは無いような気もしますが、それは杞憂でしょうか?

あと最低20年はiPS細胞を中心に医学サイエンスは回っていくことは間違いないでしょう。

世紀の大発見! か?2008年10月21日 20時09分45秒

先日の朝日新聞に「神経芽腫の原因遺伝子が解明された」との記事が載りました。
早速、その元になった論文を調べてみると、Nature電子版に4つの論文が同時に掲載されていることが分かりました。

アメリカのマリスとルックの2つのグループ、フランスのグループ、日本からは東大のグループです。
東大グループのうちの一人は滝田順子先生。
昔からの知りあいです。
千葉県がんセンターの中川原先生も共同研究者に名前を連ねています。

さて、これは本当に神経芽腫の原因が明らかになったという世紀の大発見なのでしょうか?
にわかには判断できません。
細かいことは書きませんが、最終的にこの知見が神経芽腫の治療に結びつけば、これは大発見だったと言えると思います。
つまりALK阻害剤が神経芽腫に効けばです。

でも僕の直感からすると、その可能性は少ないと思います。
神経芽腫はそんな簡単な病気ではありません。
神経芽腫の歴史を書き換えるのか、それとも歴史の1ページにとどまるのか、それを知るにはあと10年は必要でしょう。

ぜひ、僕の勘がはずれることを望みましょう。

ノーベル化学賞2008年10月08日 19時52分56秒

またしても日本人です。
ノーベル化学賞に「緑色蛍光タンパク質」の発見により下村脩先生が輝きました。
おめでとうございます。
これは、どういう発見かというと、、、。

つまりね、生物学でいろいろなことを調べる道具を見つけたということです。
一般の人にはちょっと直接は関係ないかもしれませんね。
僕もこの「緑色蛍光タンパク質」を使って実験をしたことがありますよ。

ただ、ひとこと言うと、この発見ってけっこう昔のことです。
下村先生はすでに80歳。
昨日の南部先生だって87歳ですよ。
もっと早く評価しなくてはだめです。
受賞前に命を落としてしまった研究者だっていますよ。

それにしてもこうして歴代のノーベル賞受賞の業績を見ていると、医学生理学賞をとった利根川先生の業績が突出していることがよく分かります。
利根川先生の受賞にあたってノーベル委員会は100年に1度の業績だと言ったといいますが、よく分かります。
それにくらべて佐藤栄作のノーベル平和賞ってまったくの意味不明。
なんでこんなウルトラ右翼の反動政治家が平和賞を取ったのでしょう。
誰か理由を知っていたら教えてください。

ノーベル物理学賞2008年10月07日 22時14分19秒

本日、ノーベル物理学賞の発表があって、日本人の三氏、南部先生・小林先生・益川先生がめでたく受賞しました。
素粒子の研究で受賞した訳ですね。
では、それが具体的にどういう業績かと言うと、、、。

素粒子の世界に存在する「破れ」と呼ばれる非対称性の理論化だそうです。

ん? 意味が分からない?
はい、僕も全然分かりません。

とにかく僕の高校時代は、物理学はまったく苦手でした。
化学もまったく苦手。
おまけに数学も苦手。
ですから、医学部受験は本当に苦労しました。

昨日書いたツール・ハウゼンの業績なら、日本の小児外科医の中で一番詳しく解説できますが、今日の物理学賞となると全然ダメ。
誰か簡単に解説できる人がいたら、教えてください。

万能細胞で大騒ぎ2007年12月24日 19時52分38秒

京都大学が行った研究で世間は大騒ぎです。
ヒトの皮膚細胞から万能細胞を作ったのです。
しかし、これは研究の流れとしては当たり前。
というのは、彼らは以前にマウスでそれを実現していたからです。
僕は、マウスの報告の時に、これは大発見!と、このブログで書きました。
読売新聞の社説が、僕のブログに1日遅れて取り上げましたがね。
まあ、三大新聞の科学部の人たちは、このニュースの価値を即座には理解できなかったという事でしょう。
歴史が動くような科学の大発見って、10年とか20年に一度かも知れません。
それが科学を揺るがす発見か否かは、報道する人間が判断しなければいけません。
こういったサイエンスの目をもった人は、新聞社とかにはあまりいないのかもしれませんね。
それはそうでしょう。
科学者は、記者にはなりませんから。
今回の発見で、国は何十億円というお金を万能細胞の研究に注ぎ込むようです。
これはとても良いことなのですが、同時にまた悪い意味でたいへん、日本らしい。
今回の万能細胞の発明は言ってみれば、「応用技術」なんです。
「基礎的研究」にはお金を出さず、応用研究、つまり、すぐにお金に結びつくような研究には開発費をかけるんですね。

日本の国際的な学力が落ちたと文部科学省は大騒ぎですが、あの世界ランキングにアメリカが入っていないことに、みなさん、気付いていますか?
学力なんて、人間の持っている能力の一つに過ぎないので、全員がテストの点が良い必要なんて、無いんです。
アメリカを礼賛する気持ちはまったくありませんが、アメリカではごく一部の人だけがサイエンスをやって、それに対して日本の数10倍の予算がついて、でもって、世界のサイエンスなんてアメリカ一国だけで成り立つんです。

サイエンスとか、「学力」みたいなもの対する日本の発想って、本当に官僚の減点主義の裏返しみたいなつまらないものですよね。

脳梗塞を起こす遺伝子2007年01月08日 18時49分22秒

脳梗塞を起こしやすい遺伝子を突き止めたと新聞に載っていました。
SNPの違いで発症に差があるそうです。SNPとは遺伝子の個性です。個性の違いが病気のリスクの違いに結びつくのだそうです。
今後、数年間、いや10数年間はこのSNPと病気の関係がサイエンスの中心課題となって行くでしょう。
しかし。
今回のこの報告は本当なんでしょうか?脳梗塞は生活習慣病です。これがSNPによって左右されるとは僕には信じられません。症例数を増やして解析すると、関係無かった、、、なんてことにはならないのでしょうか?
そもそもSNPとは遺伝情報から考えると意味の無いものが多いのです。あと数十年たってすべてが否定されなければ良いのですが。
あ、ちなみにSNP研究は生物学ではありません。これは工業です。もちろん、サイエンスですが。

科学の普遍的価値とは?2006年12月24日 19時49分46秒

小児がんを研究テーマにしている人なら、WT1というがん抑制遺伝子の名前を知らない人はいないでしょう。
成人のがんを専門にしている人でも、最近は、WT1ワクチン療法の治験によって、WT1という名前を知らない人はいないでしょう。
では、この遺伝子がどうやってクローニングされたか知っている人は、日本に一体どれだけいるでしょうか?
おそらくほとんど誰も知らないでしょう。遺伝子クローニングの方法に関する日本語の総説を僕は目にしたことがありません。この遺伝子がクローニングされたのは1990年。僕が大学院に行っていた頃です。研究をしていたウイルス学教室の抄読会でこの論文をみんなに僕が紹介したことを今でもよく憶えています。1990年当時って、分子生物学が理解できる小児外科医は日本で数えることができるほどでしたから、この論文だってほとんど理解されなかったでしょう。
ただ、あの頃よりも、今の方がこの論文に書かれている内容を僕は深く理解することができます。細胞融合による雑種細胞や染色体ジャンピングを理解できないと、この遺伝子クローニングの道筋が分かりません。これに関連する論文は『サイエンス』などに目白押しです。
でも、ポストゲノムの時代となった今、こうした論文は歴史の渦の中に消えて行ってしまい、もう引用されることもないのでしょうか?
もちろん、こうした先人たちの努力があったから今のサイエンスの現況があるのですが、こういった歴史的論文が顧みられなくなるのは、何んとも残念です。そこにはやはり普遍的な価値がまだまだあると思うのですが。

遺伝子は2個、ではない2006年11月24日 19時38分51秒

今朝の新聞を見ていたら、びっくりするようなニュースが。
僕たちの体を構成するすべての細胞の中には、46本の染色体が入っています。父親から23本、母親から23本もらう訳です。
そうするとすべての遺伝子も2個ずつペアーで持っていることになります。遺伝子の数は約25,000個とされています。25,000個の遺伝子を2つずつ持っている訳ですね。これが定説でした。
ところが、なんと、このうち、2909個の遺伝子でその数が1個だったり、3個だったりするそうです。すべての遺伝情報(これをゲノムと言います)のうち、12%の領域でこのような「数の個人差が」が見られることになります。
発見したのは東大の油谷(あぶらたに)先生です。僕もよく知っている先生です。
何故なんでしょう?何故、多かったり少なかったりするんでしょう?
これは偶然なんでしょうか?それとも意味のある現象なんでしょうか?ヒトの全ゲノムが解析されても分からないことが次から次へと出てきます。
この現象は、病気のかかりやすさなどの個人の体質と関係すると言いますが、それはこの現象をどう役立てるかの話しに過ぎません。そんなことよりも、「物質である生命」がどのように形作られているかに僕は強烈に興味をそそられます。

がん遺伝子を発見したのは誰?2006年10月20日 20時25分59秒

今、がん遺伝子に関する古典をいくつか読んでいます。
僕が大学院に進学したのが1989年。この年のノーベル医学・生理学賞は、ビショップとバーマスのプロトがん遺伝子理論に対してでした。しかし、その頃の最大の「スター」といえば、ロバート・A・ワインバーグです。
この人は天才なのか強運なのか僕にはよく分かりません。ヒトのがん遺伝子として膀胱がん(細胞株EJ)からrasを初めてクローニングしたのは、確かにワインバーグ研究所グループです。しかし、その方法がなんとも常識はずれです。マウスの正常細胞に膀胱がん細胞のDNAを取り込ませてがんを作り、そのマウスのがん細胞に紛れ込んだヒトDNAを取り出したのです。
この方法自体、この発想自体が常識はずれです。こうやってras遺伝子の活性化(点突然変異)が発見されたのですが、現在の基準からすると、ワインバーグの発想は結果オーライでしかなかったような気もします。なぜなら、ヒトのがんってこんなに単純には出来上がらないからです。実際は、複数のステップを経て発癌するんですね。
しかし、ワインバーグのこの「変な」発想が無ければrasの活性化は永遠に分からなかったかも知れませんね。ワインバーグ研はその後も網膜芽腫からがん抑制遺伝子RBをクローニングします。しかし、B・フォーゲルシュタインのような多段階発癌理論までは展開できませんでした。その理由は、ワインバーグは常に新しい発見、パラダイムシフトを起こすような発見にこだわり、フォーゲルシュタインは大腸がんの発癌のメカニズムにこだわったためでしょう。結果として皮肉な事にフォーゲルシュタインのほうが普遍的な理論を産み出しました。
実は、rasを最初にクローニングしたのはワインバーグでは無いんです。ウイグラー研、バルバッシド研に続いて3番目だったんですね。それもすべてがタッチの差、数週間の違いです。
ということは、DNAでがんを「移す」という発想はワインバーグだけでは無かったということですよね。
つまりは「時代」が遺伝子をクローニングしたということでしょうか?

勉強しないと気が済まない!2006年10月12日 20時43分49秒

クリニックを開院して5ヶ月。大学在職中の高度先進医療とは一転して毎日が『日常疾患』との格闘です。今では大学で外来を行なうのは月に1回。もう最新の知識を仕入れる必要はありません。
なーんて、とんでもありません!
僕がライフワークとしてきた小児固形がん。知りたいことがまだまだ山ほどあります。勉強しないと気が済みません。今日もM製菓のKさんに文献検索をお願いしました。お昼休みには、英語の教科書を2冊並べて、知りたいところを交互に読みました。
僕の専門は「神経芽腫」の分化と増殖のメカニズムでした。この病気は1万人に1人の病気です。え、そんなまれな病気、聞いた事も無い?はい、でも(正確な統計はありませんが)子どもが命を失う一番数の多い病気かもしれません。
世界中の医者や研究者がこの病気を研究しています。僕自身もさんざん研究をしてきましたが、すべての研究を把握して理解している訳ではありません。
そうなると、無性にすべてを知りたくなるんです。嫌なんですね、無知が。この病気を直接治療することは今後あり得ないと思いますが、それでも僕はこの病気に関して世界で一番詳しい医者でありたいと思っています。
そんな勉強をする暇があったら、もっと上手に風邪を治せ?
はい、おっしゃる通り。僕に取っては風邪も小児がんと同じくらい大事です。