町の本屋はいかにしてつぶれてきたか: 知られざる戦後書店抗争史(飯田一史)2026年01月12日 15時55分14秒

町の本屋はいかにしてつぶれてきたか: 知られざる戦後書店抗争史(飯田一史)
町の本屋さんの苦境を綴ったエッセイかなと思って読み始めました。
まったくそういう本ではなく、データを駆使して分析、論述する学術書のような作品でした。
現況を描くだけでなく、歴史も描いており、資料的な価値も十二分にある本に仕上がっていました。
町の本屋さんが戦ってきたのは、大型チェーン店やネット書店だけでなく、キヨ(オ)スクとかコンビニとか図書館とか、広い視点で戦後書店抗争史を見ており、新書でありながらヘビー級の内容でした。
誰もがおもしろい本とは思わないと感じますが、この業界に関心のある人は必読でしょう。

運転者( 喜多川泰)2026年01月11日 08時48分38秒

運転者( 喜多川泰)
小説はあまり読まないし、詳しくありません。
ですので、この作家さんも知りませんでした。
Amazonをぐるぐる見ていて、17,575個もレビューが付いていて、興味を持ちました。
ジャンルとしては何になるのかな? ヒューマンドラマの軽いファンタジーでしょうか?
おもしろくて、すぐに読んでしまいました。
一番驚いたのは言葉(表現)の豊富なことです。いや、次から次へとよく言葉が出てきます。
とても真似できません。
やっぱりぼくには小説は書けないな。そう思いました。
いい話を読みたいひとに、お勧めです。

作家で食っていく方法(今村翔吾)2026年01月09日 23時05分26秒

作家で食っていく方法(今村翔吾)
日本テレビの「バンキシャ」にときどき出演していて、話が滅法おもしろいので、この本を読んでみました。それに元々、こういう「作家になる!稼ぐ!」という本が好きというのもあるし。

今村さんが直木賞を受賞していたのは知っていましたが、こんな超売れっ子作家さんだとは知りませんでした。
毎年、億を稼ぐそうです。
事務所(会社)を構えていて、20人ものスタッフがいるそうです。
とても真似できません。
才能ありすぎです!
今、ネットで調べたら、ぼくより23歳も若いじゃないですか。
これはもう天才と言っていいでしょう。
プロットを作らないって、どういうこと??
そういう意味で、参考になりませんでした(笑)。

そんな天才はこの業界に一握りです。決して真似はしてはいけません。
専業作家になってはいけませんよ(笑)。
ぼくならこういう本を書くな。
『副業としてのアマチュア作家入門』。
いいでしょ? (笑)

正しすぎた人 広岡達朗がスワローズで見た夢(長谷川晶一)2026年01月07日 23時08分13秒

正しすぎた人 広岡達朗がスワローズで見た夢(長谷川晶一)
1978年のプロ野球。
強烈に覚えていますね。
とにかく打線が強力でした。
ヒルトン、若松、大杉、マニエル。
エースの松岡もすごかったけど、打撃で勝ったと思います。
当時ぼくは、高校生で熱烈に長嶋巨人を応援していましたが、とにかくヤクルトの強さは神がかっていました。
そういうわけで、本書を読んでみました。

この本はちょっと特殊な書き方で、1978年のヤクルトを描くのがもちろんメインなんですが、90歳になった広岡達朗から話を聞くことの難しさが繰り返し描かれます。
最初はちょっとどうかと思ったのですが、最後までそれを貫くことで、広岡さんの一生というか、人生そのものを描き切れたように思えます。

ヤクルトが勝つことを目指したのではなく、、、巨人に勝つことを目指し、そして川上哲治を見返すことを人生の目標にしていたのですね。
「正しすぎた人」というのは、どういう意味でしょうか?
広岡さんは1979年に、前年優勝の立役者だったマニエルをトレードで放出します。
足が遅い上に、守れないからです。
このトレードは、当時のぼくも鮮明に覚えています。
そしてチームは崩壊し、1979年は最下位に沈みます。

このトレードがすべてじゃないでしょうか?
つまり正しすぎたのですね。
広岡達朗の人生をたっぷりと堪能できました。
すばらしい1冊でした。

70歳のたしなみ(坂東眞理子)2026年01月04日 17時17分08秒

70歳のたしなみ(坂東眞理子)
読んでみた理由は、献本を受けたからです。
でも、ぼくは60歳代だし、ちょっとピンと来るのかなと少し放っておきました。
だけど、ちょっとずつページをめくるうちに止まらなくなりました。

70歳からの「たしなみ」。
確かに大事ですね。歳を取ると、いろいろなことを諦めますので、生き方が雑になりがち。
きちんとたしなみを持てば、カッコよく生きられるんじゃないでしょうか?

この本を読んで感心したのは、実は内容よりも、坂東さんの文章です。
非常に文章がうまく、テーマの選び方とか話の転がし方が知的なんですね。
ああ、ぼくも70歳になってもこういう文章を書けたらいいな。

楽しい1冊でした。

見るまえに跳べ(大江健三郎)2026年01月03日 08時31分19秒

見るまえに跳べ(大江健三郎)
大江さんの小説は、ときどき無性に読みたくなるんですよね。
本作は、初期短編集。
大江さんが何を描こうとしていたか、とても明確です。
『奇妙な仕事』がデビュー作なんですが、出だしの文は実に印象的。でもそこから先は、まだまだ大江さんの本領発揮となっていません。
『見るまえに跳べ』は、このあとの作品の原型になっているような気がします。
また、しばらくしたら読むと思います。

暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ(堀川惠子)2026年01月01日 22時37分27秒

暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ(堀川惠子)
文庫化されたので読もうと思っているうちに時間が経ち、今になってしまいました。
電子書籍で読みました。

原爆はなぜ、ヒロシマに落とされたのか?
著者の疑問の出発点はそこにあったと思いますが、本書の内容は、広島県宇品港から見たアジア太平洋戦争を描きます。

宇品とは、陸軍の輸送基地であり、日本最大の軍港です。
日本は島国で周囲を海に囲まれている割には、船舶を十分に保有していませんでした。
堀川さんは、膨大な未公開資料を掘り起こし、なぜ日本は失敗したのか、「失敗の本質」を船舶によるロジスティックスの面からクリアにしていきます。

先の大戦での軍艦といえば、戦艦大和とか戦艦武蔵とかがすぐ頭に思い浮かびますが、そんな立派な船は戦争の本質ではなく、陸軍が中国へ進出するときや、あるいは「南下」するときは、民間の船を徴用して、兵士や食糧、武器を輸送していたのです。
そうした船を動かしていたのは、実は兵士ではなく、船員だったというから驚きます。

要するに、日本はアジア太平洋戦争を遂行できるだけの戦力をはなから持っていなかったのです。
戦争が泥沼に突っ込んで、引き返せなくなるポイント・オブ・ノーリターンも明確に示されます。

そんな日本に対して太平洋戦争でアメリカは基本的に「兵糧攻め」に出ます。
これは非常に重要な示唆で、現代にも通用する示唆です。
日本は増税までして防衛費を倍増させる予定ですが、そんなことをして一体何の役に立つのでしょうか?
日本は食料とエネルギーを輸入に頼っています。
日本を巻き込んだ全面戦争になれば、日本は再び「兵糧攻め」に遭います。
つまり、もう一度負けます。

過去を徹底的に描いたことで、未来が見えるノンフィクションの大著に仕上がっています。
さすがですね。

中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと(和田靜香)2025年12月29日 17時14分42秒

中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと(和田靜香)
評論だと思って読み始めましたが、内容はルポルタージュでした。
中高年のシングルの女性。
この世代、このジェンダーの人たちは多くの困難を抱えて必死に生きています。
そのしんどさを、たくさんの人から和田さんが聞き取っていきます。

日本の経済はこの30年で底が抜けたと思います。
小泉パパが「がんばった人が報われる。どこがおかしいんだ!」と言って、こんな国になってしまいました。
がんばっている人、努力をしている人はたくさんいます。
いえ、みんながんばっています。
ですが、経済には勝つ人と負ける人が必ず出るわけです。

勝負というのは公平でなくてはなりません。
しかし日本はどうでしょうか?
明らかに男性有利で、男性が勝つようにできている八百長社会です。
女性は就職に泣き、賃金格差に泣き、昇進に泣き、男の暴力・暴言に泣き、住むところに泣くわけです。
こんな日本に誰がしたのか?
これは美しい国でしょうか?

貧困が人を苦しめる最大の理由は、経済ではなくて尊厳なんですよね。
尊厳を奪われた中高年シングルたちの言葉をぜひ、本書で聞いていただきたいと思います。

また、こういう本を世に出すと、男女(逆)差別だという悪罵が必ず投げつけられます。
まず、現実を見なさい。
社会の構造を見て、何をどう変えていく必要があるのか、私たちは、男であれ、女であれ、シングルであれ、それ以外であれ、中高年でも若者でも考えるべきです。
見ること、知ること、そして考えること。
それが大人だということだと思います。

みなさんも読んで、考えてみてください。
岩波らしいいい本でした。

トランスジェンダー入門(周司あきら, 高井ゆと里)2025年12月14日 22時08分55秒

トランスジェンダー入門(周司あきら, 高井ゆと里)
仕事の必要上から、トランスジェンダーに関して知識を整理しよう、そんな軽い気持ちで読み始めました。
最初は、ちょっと観念的というか抽象的というか、「手触り感」に欠ける記述が続いて、重たく読んでいました。
しかし途中から、ふと、気がつけばぐいぐい引き込まれていました。

トランスジェンダーの人が抱える困難。
それは学校であり、就職であり、メンタルヘルスです。
言い換えれば、学校でいじめられ、就職ができず、パニック症やうつ病になったりするということです。

なぜ、トランスの人たちはそういう困難を生きなければならないのでしょうか?
それは日本という国が、差別と包括的に向き合わないからです。
地球単位で見てみると、(いわゆる)先進国は差別を乗り越えてきました。
そういう国々にあって、日本は「地球上の田舎」だと思います。
人権意識に乏しく、差別を解消しようという意思のない国です。
江戸時代のまま、時が止まっているという感じ。

もちろんそういう国を作ったのは自民党で、その自民党を圧倒的に支持しているのは、われわれ国民です。
つまり日本人は、人権感覚において田舎者だということです。

この本は「入門」となっていますが、決してかんたんな本ではありません。
ちょっとした学術書になっていますし、最小限の知識がないとこの本は理解できないでしょう。
そういう意味で、「入門」ではありません。
思っていた本とは違っていましたが、それはいい意味で違っていました。
ちょっと感動的にいい本でした。

みなさんも、ぜひ、どうぞ。

下手(したて)に居丈高(西村賢太)2025年12月08日 19時38分55秒

下手(したて)に居丈高(西村賢太)
西村賢太さんの小説は、ほぼ全部読んだと思うのですが、今回はエッセイを読んでみました。
エッセイの名手って確かにいるんですよね。
なんで、こんな名文が書けるのかと驚くような人が。
で、今回は小説ではなくエッセイ。
感想はシンプルで、あんまりおもしろくありませんでした。
文章がいいと思わない。小説の文章の方が段違いに優れています。
やっぱり西村さんは私小説の人ですね。