「まさか」の人生 (読売新聞社会部「あれから」取材班)2025年07月02日 19時34分30秒

「まさか」の人生 (読売新聞社会部「あれから」取材班)
「あれから」シリーズ、第2弾です。今回もおもしろかったです。
やっぱり最も興味があったのは、日本で最初に行われた島根医大の生体部分肝移植の話です。
あれは本当に突如として出てきた話なので、当時、ぼくらはぶっ飛んだ記憶があります。
でも、お子さんは亡くなっているんですね。
免疫抑制がうまくいかなかったのかな。
今と違ってノウハウがゼロですからね。

そのほかにもおもしろい話がたくさんありました。懸賞生活のなすびさんとか。
要は、「あなたの人生、教えてください」なんです。街録チャンネルと同じです。
これってノンフィクションの王道ですよね。

最大の謎は、これがなぜ、中央公論から出版されていないかです。
中央公論って読売新聞ビルの中にあるんですよ。
何か、大人の事情ですかね??
電車の中でサクッと読んでしまいました。
みなさんも、ぜひ、どうぞ。

2030―2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路(熊谷賴佳)2025年06月26日 19時56分07秒

2030―2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路(熊谷賴佳)
発売、即重版で現在ベストセラーです。
未来の医療年表をとてもリアルに描いていました。
また、厚労省が執念を持って医療費を削減しようとしており、民間の「病院」はどんどん赤字になっていく構造もよく分かりました。
厚労省は、病院をわざと潰して統廃合を進めようとしているのではないでしょうか?
大変暗い内容の本でした。

この本は、ブックライターさんが書いたのだと思われますが、いくらなんでももうちょっと良い文章を書いてほしかったです。
内容も整理されていませんし、読点の使い方など、ちょっと文章が拙かったと思います。
せっかくデータが充実していてよかったのに。

潤日(ルンリィー): 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う(舛友雄大)2025年06月26日 15時17分38秒

潤日(ルンリィー): 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う(舛友雄大)
現在、大ベストセラー中です。
日本へ逃げてくる中国の富裕層。なぜ彼らは中国を脱出し、そして日本を目指すのか。
そして日本で何をやっているのか?
そういうことを描いたノンフィクションです。
今という時代をよく表していると感じました。

どうでもいい感想ですが、ぼくは晴海のタワマンなんかとても住みたいと思わないな。
なんだか、日本語が通じないような気がして(笑)。

よかったら、どうぞ。

やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく(梯 久美子)2025年06月14日 20時41分54秒

やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく(梯 久美子)
現在、大ベストセラー中です。
評伝の名手、梯久美子さんの作品ですから、おもしろくないはずない・・・と思って読みました。
やっぱり、おもしろかったです。
ぼくは、アンパンマンに関する知識も、やなせたかしさんに対する知識もゼロ。
ああ、こういう人生なんだとしみじみと思いながら読みました。
家族の死、戦争の悲惨さ・・・そういうものが人生のバックボーンになっているのですね。

しかし、梯さんはさらりと評伝を書きますが、案の定、参考文献は膨大でした。
そういうことを感じさせないで、軽いタッチで書けることが真骨頂ですね。
うらやましい。
とても真似できませんが、死ぬまでに1作くらいは評伝を書いてみたいです。

みなさん、ぜひ、どうぞ。

日本人拉致(蓮池 薫)2025年06月08日 19時26分44秒

日本人拉致(蓮池 薫)
北朝鮮による日本人拉致を風化させないために書いたそうです。
当然それは大事なことですし、拉致問題のすべてが完全に解決することをぼくも切に願っています。
この本を読んで、北朝鮮に憤慨する人も、拉致問題に強く関心を寄せる人も多いでしょう。
でもぼくは、この本の文学としてクオリティの高さに感心しました。
24年間、拉致され異国の地で暮らす。
こんな経験のある人は、文明国では普通はありえません。
そこでの生活を静謐な文体、美しい日本語で、怒りを抑え込みながら淡々と綴る本作は、回想録の枠を超えた貴重な記録文学に昇華しています。
蓮池さんは1957年生まれ。記憶力も素晴らしいなと思いました。
現在、ベストセラー。おススメします。

国立大学教授のお仕事 ――とある部局長のホンネ(木村 幹)2025年05月18日 17時33分22秒

国立大学教授のお仕事 ――とある部局長のホンネ(木村 幹)
おもしろく読みました。
大学の教授先生は大変ですね。しんどい話が多くて、ちょっとしんどかったです(笑)。
大学は一人一人の仕事が、個人の業績として残るのが魅力であると述べていました。
また失敗が許されるとも。
確かにそういう部分は、営利を追求する企業とは違いますね。
でも、独法化されてしまったので、そこもしんどかったりします。

現在、ぼくは『大学病院の正体』という本を書いています。
同じ大学でも、文系と理系(医学)ではちょっと違いがあるなとも思いました。

ケアと編集(白石正明)2025年05月09日 19時28分08秒

ケアと編集(白石正明)
もしかしたら日本で一番有名な編集者かもしれない白石正明さんの著作です。
本書の一番いい点は、文章がめちゃうまいことです。
なるほど、こう表現するかー。やられた・・・という感じです。
ケアと編集の似ている点を探すテーマはおもしろく、ここまで豊かに語れるというのは実に見事だと思いました。
ケアという領域に関心のある人にはたまらないと思います。

ちなみに、ぼくが2021年に出した『ぼくとがんの7年』(医学書院)も、白石さんを通じて書籍化されたんですよね。
本の生みの親です。
感謝しかありません。

ブラック郵便局(宮崎拓朗)2025年04月26日 21時57分27秒

ブラック郵便局(宮崎拓朗)
ブラックというタイトルなので、どんなに労働条件がひどいのかと思って読みましたが、そういうレベルを超えていました。
『対馬の海に沈む』を想起させるような異常な営業が行われていたり、政治との強い癒着が報告されていました。

町の郵便局ってみんなの公共財産で、庶民の味方だと思っていたのですが、こんな裏があったとは。
あまりに酷い話で、読みながら不快で仕方ありませんでした。
良質なノンフィクションです。おススメします。

それでも、安楽死の話をするのなら(西智弘)2025年04月08日 19時45分49秒

それでも、安楽死の話をするのなら(西智弘)
安楽死を進めるか、立ち止まるか。
そのための議論を整理した本でした。
論点を明快に示しており、多くの人に役立つ本かなと思いました。
ただ、実は日本って安楽死に関心のある人とか、詳しく知っている人はかなり少ないのではと思います。
論じられるのは常に「安楽殺人」みたいなもので、生きる価値のない人を死なせた方がいいという論調なような気がします。

実は、安楽死問題ってすでに解決しているんですよね。
東海大学病院事件で安楽死が訴追されない条件が示されているので、ある意味で日本は安楽死が認められた国なんです。
ところが、医療費の高騰とか、高齢者の延命治療とかを問題視する人から安楽死が語られる現状があり、これは根本的に間違っていると思います。

僕には鳥の言葉がわかる(鈴木俊貴)2025年04月02日 20時39分41秒

僕には鳥の言葉がわかる(鈴木俊貴)
現在、大ベストセラー中の作品です。
いったいどんな本なのかと思って読みました。
研究者としての記録でした。シジュウカラには言葉があることを発見したのですね。
鈴木先生は、研究成果を英語論文で発表したり、国際学会で脚光を浴びたり、メチャ、かっこよかったです。
ぼくも大学時代には似たような経験をたくさんしましたが、先生の研究は世間からの関心も強くて羨ましいと思いました。

ぼくは、小児がんの遺伝子診断をやって論文を書いていたのですが、世間的には関係のない話ですものね。

優しいタッチで描かれた本で、これは先生のお人柄かなと思いました。