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言葉はいのちを救えるか? 生と死、ケアの現場から(岩永直子)2023年07月02日 23時24分05秒

言葉はいのちを救えるか? 生と死、ケアの現場から
本書は、医療専門記者としてBuzz Feed Japan に連載してきた記事に加筆して仕上げた400ページにわたる大著です。
テーマはさまざまですが、その一つひとつに読み応えがあります。
書き手にとって、立場のない立場というものはないとぼくは思っています。
筆者の岩永さんの立場はなんでしょうか?
それは表層的には医療問題に関心があるという立場でしょう。
でも医療問題ってなんでしょうか? サイエンス? そうじゃないと思います。
もちろん医療を論じる基盤はサイエンスで、サイエンス抜きの議論は意味がありません。
医療がサイエンスとイコールでないので、そこには患者という存在がいるということです。
患者とは、困っている人、悩んでいる人、耐えている人、そして弱い人です。
医療はそういう人を少しでもいい状態にしてあげたいと考えています。
岩永さんの立場というのは、結局のところ、そうした患者の立場、弱い人の立場に立つことであり、報道によって弱い側を支援しているのだと思います。
そこに読者は安心感と信頼感を持つのだと思います。

記者として優れている点が、この本では随所に現れています。
それは簡単に言えば、取材力です。
本書の中で印象に強く残ったのは、「LGBTには生産性がない」という言葉を批判する熊谷先生、安楽死について述べる幡野さん、グリーフケアについて語る入江さん。
言葉がとても深いんですよね。語る力がとても強い。
でもある意味それを引き出しているのは、岩永さんの聞く力です。
インタビューには下準備が相当必要で、聞く内容に関して深く勉強し、資料を集めて研究し、相手がどういう答えをするかまで事前にみっちり考え抜いておく必要があります。
記者なのだから当然なのかもしれませんが、そういったインタビューの力が遺憾無く発揮されていました。

この本の最大の読ませどころは、最終章でしょう。これは強烈なインパクトでした。
「言葉はいのちを救えるか?」
この命題が揺らぐ1章です。
ここは医療記事というカテゴリーを超越していて、壮絶な人生ドラマになっていました。
筆者の自分語りも深い余韻を与え、生きることの大事さと難しさが抜き身の刃のように、読む者の心に迫ってきます。
分厚く取材を重ねて時間をかけたことが、この最終章を大著の締めくくりに相応しいクライマックスにしたのだと思います。

命をめぐるヘビー級の1冊でした。
みなさんも読んでみてください。おススメします。

『1文が書ければ2000字の文章は書ける』の見本が届きました2023年07月04日 20時14分47秒

『1文が書ければ2000字の文章は書ける』
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幡野広志さんの安楽死論に反応する2023年07月05日 20時26分56秒

岩永直子さんの『言葉はいのちを救えるか?』を読んでいろいろと考えました。
その中の一つが、幡野さんの安楽死論です。
幡野さんが写真家であること、血液のがんで闘病していることは知っていましたが、安楽死論を広く展開していることは、この本を読むまで知りませんでした。
ぼくは医師として幡野さんの言いたいことは大変よく分かります。
だからこれは「反論」ではなく、「反応」したに過ぎません。

安楽死とはなんでしょうか?
それは死を直前にした病人に対して致死量の薬物を投与して患者を死なせることです。
苦しむ前に死ですべてを終わりにするのです。
もう一つは患者が自殺するのを医師が幇助することです。

ぼくは、安楽死というシステムが日本で合法になることに賛成していません。
1番の理由は、誰が「それ」をやるのか?という疑問があるからです。
漫画のドクターキリコのように、死を請け負う医者がいて、殺し屋のように患者のもとに現れるのでしょうか?
そんなことは日本ではありえないと思いますよ。

安楽死をやりたいなんて考えている医師なんて日本には全然いないと思います。
いたら、そいつはトンデモ医のような倫理観が麻痺した人間でしょう。
大学の医学教育で安楽死の方法を授業でやり、それを試験で点数化するなんてあり得ないです。
だからあと30年経っても日本では安楽死は合法化されないと思います。

ですが・・・日本の臨床の現場では事実上の安楽死はどこでも行われていると思います。
調査をしたわけではないので、正確な統計はありませんが、今の日本で無意味な延命なんてまったく行われていないと思います。

ぼくは医師として子どもの死に100回以上立ち会ってきました。蘇生をしたのは、2回くらいです。いずれも外傷ですね。
それ以外はがんの末期などですから、そこから回復することは100%あり得ません。
いかに子どもに苦痛を与えず、家族の心に傷を残さず、そればかりを真剣に考えていました。
だから、最期はとにかく苦痛の除去です。麻酔科の医師にも手伝ってもらいましたが、ほぼすべて自分たちで徐痛をしていました。

具体的にどういうことをしたか、それはちょっと公の場では言えません。
でも、ぼくが行った終末期医療に不満を持った家族はいないと思います。
子どもたちも苦しまなかったと思います。

そういう意味では幡野さんは、ちょっと心配しすぎなような気がします。
主治医とよくコミュニケーションをとれば、疑問は消えるでしょう。
終末期に殺人医が登場する安楽死よりも、主治医が一生懸命に患者の痛みのことを考える医療の方が現実的だと思います。

ただ成人医療では課題が一つあって、それはスピリチュアルな痛みです。
がんの末期で全身が痛い・・・というもっと前の段階で、寝たきりになるとか、排尿排便の世話を他人に委ねる、こういうときに自分は一体何のために生まれ、生きてきたのかと魂が痛くなることがあります。
ここは小児医療と違っています。
だから、幡野さんの安楽死論もこの段階での「痛み」を最も問題にしているんだろうと思います。
これに対しても医師の中では、スピリチュアルケアが進んでいます。
そういうことに期待してもいいのではないでしょうか。

ぼくは死ぬときは病院で。鎮痛と鎮静をたっぷり使って。
苦しんでいるところを、子どもに見られたくありません。

発売になります、『1文が書ければ2000字の文章は書ける』2023年07月13日 20時55分33秒

発売になります、『1文が書ければ2000字の文章は書ける』
新著のお知らせです。

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ご覧いただければ幸いです。ぜひ応援してください!

クラウドファンディングのお知らせ2023年07月15日 22時56分10秒

クラウドファンディングのお知らせ
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みなさん、ぜひ、応援してください。

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ぼくも全力で応援中です。

マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々(速水 由紀子)2023年07月19日 21時16分16秒

マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々 (朝日新書)
3日に1冊本を読むぼくが1か月かかって読みました。
読了したのですから、まあ、おもしろかったのでしょう。
でもちょっと、どういう本なのかと疑問を持ってしまいます。
鎌田さんの『自動車絶望工場』は、潜入取材です。実際に自動車組み立て工場で働いてみて、そこに絶望を見出すわけですよね。
ではこの本は?
本気で婚活していたのでしょうか?
単にマッチング・アプリを利用して、「取材」をしようとしただけでは?
相手にとってはいい迷惑ですよね。
このアプリの仕組みの説明もないし(最終章で少しだけ触れられる)、筆者が何歳でどういう人でどういうルックスなのかなぜ書かないのか?
相手のことはさんざん書いているでしょ?
出会った男どもを次々と「昭和の価値観」と批判していますが、そんなことしか分からなかったのかな?
全体を貫く「流れ」もなく、話が冗長で、本としてページ数が多過ぎると思います。

朝日新書ってこういう本を作る会社でしたっけ?
興味のある人は読んでみてください。

フィリピンパブ嬢の経済学(中島 弘象)2023年07月20日 22時27分53秒

フィリピンパブ嬢の経済学
前作の『フィリピンパブ嬢の社会学 』がめっちゃ面白かったので、続編の本作も読んでみました。
1日半で読了しましたので、面白かったのでしょう。
でも、いろいろ疑問もあります。
まず、この作品は「フィリピンパブ嬢」の話しではありません。
奥さんは、子どもができて、フィリピンパブ嬢を辞めてしまうので。
ま、続編ですからこういうタイトルにせざるを得なかったのでしょう。
前半は出産とか育児の話が語られますが、こういう体験は誰でもしていることです。
本にするような内容ではないと思います。
奥さんが日本語で苦労する話が繰り返し出てきますが、ちょっとくどいかな。
でもこの本を読んでいる限り、奥さんの日本語は相当上手ですよ。
日本語を読めないという苦労はわかりますが。

うちのクリニックにもたくさん外国の人が来るんですよね。
中には、まったく日本語も英語も話せない人もいますよ。
え? どうやって会話しているか? ほとんどゼスチャーです。
本当に彼女たちはタフだと思います。

面白いのは、やはり日本とフィリピンの異文化交流や文化ギャップの話し。
お金をフィリピンに送金しなくてはいけない話も面白いのですが、これは前作ですでに書かれていたことでした。

本書のタイトルとは全然別の話になりますが、フィリピンハーフを生きる人たちの人生模様が最大の読ませどころだったように思えました。
するとやはり、タイトルと中身はちょっと一致していませんね。

前作は映画化されるそうです。
ああ、なるほど。あれは困難を乗り越えて結婚するというストーリーがありましたからね。
そういう意味で本書はどうかな。
興味のある方は、ぜひどうぞ。

国籍と遺書、兄への手紙: ルーツを巡る旅の先に(安田菜津紀)2023年07月23日 23時08分46秒

国籍と遺書、兄への手紙: ルーツを巡る旅の先に
大変すばらしい作品でした。
フォトジャーナリストの安田さんが自分のルーツを辿っていくノンフィクションです。
文章がいい。繊細で瑞々しく、触れれば血が滲むような生命感があります。
家族って何でしょうか?
血でしょうか? 連綿たる系譜のことでしょうか?
必ずしもそうではないと思います。
だけど、自分の過去を辿り、自分がどこからきて、今、自分がどこに立っているのかは誰でも知りたいことでしょう。
ルーツを知ることは、自分を辿ることでもあると思うのです。

出自とか、文化とか、言葉とかはの「違い」は、乗り越えるべきものでも、無くしていくべきものでもありません。
自然と存在していて、そしてそれは当たり前で、過去から現在につながり、そして未来へ伸びていくものでしょう。

みなさんもぜひ読んでみてください。超おススメです。
いい時間を過ごしました。

中村哲 思索と行動 ――「ペシャワール会報」現地活動報告集成[上]1983〜2001(中村 哲)2023年07月26日 15時19分04秒

中村哲 思索と行動 ――「ペシャワール会報」現地活動報告集成[上]1983〜2001
読み応え十分でした。
中村先生といえば、アフガンで「用水路を拓く」医師でした。
先生がなぜ、医療に加えて灌漑工事をおこなうようになったのか、そこに興味を持って読み始めました。
暗いところにまず灯りを点す。そこからすべてが始まることがよく分かります。
下巻は来年の春に出るそうです。