本書は、医療専門記者としてBuzz Feed Japan に連載してきた記事に加筆して仕上げた400ページにわたる大著です。
テーマはさまざまですが、その一つひとつに読み応えがあります。
書き手にとって、立場のない立場というものはないとぼくは思っています。
筆者の岩永さんの立場はなんでしょうか?
それは表層的には医療問題に関心があるという立場でしょう。
でも医療問題ってなんでしょうか? サイエンス? そうじゃないと思います。
もちろん医療を論じる基盤はサイエンスで、サイエンス抜きの議論は意味がありません。
医療がサイエンスとイコールでないので、そこには患者という存在がいるということです。
患者とは、困っている人、悩んでいる人、耐えている人、そして弱い人です。
医療はそういう人を少しでもいい状態にしてあげたいと考えています。
岩永さんの立場というのは、結局のところ、そうした患者の立場、弱い人の立場に立つことであり、報道によって弱い側を支援しているのだと思います。
そこに読者は安心感と信頼感を持つのだと思います。
記者として優れている点が、この本では随所に現れています。
それは簡単に言えば、取材力です。
本書の中で印象に強く残ったのは、「LGBTには生産性がない」という言葉を批判する熊谷先生、安楽死について述べる幡野さん、グリーフケアについて語る入江さん。
言葉がとても深いんですよね。語る力がとても強い。
でもある意味それを引き出しているのは、岩永さんの聞く力です。
インタビューには下準備が相当必要で、聞く内容に関して深く勉強し、資料を集めて研究し、相手がどういう答えをするかまで事前にみっちり考え抜いておく必要があります。
記者なのだから当然なのかもしれませんが、そういったインタビューの力が遺憾無く発揮されていました。
この本の最大の読ませどころは、最終章でしょう。これは強烈なインパクトでした。
「言葉はいのちを救えるか?」
この命題が揺らぐ1章です。
ここは医療記事というカテゴリーを超越していて、壮絶な人生ドラマになっていました。
筆者の自分語りも深い余韻を与え、生きることの大事さと難しさが抜き身の刃のように、読む者の心に迫ってきます。
分厚く取材を重ねて時間をかけたことが、この最終章を大著の締めくくりに相応しいクライマックスにしたのだと思います。
命をめぐるヘビー級の1冊でした。
みなさんも読んでみてください。おススメします。
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