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マリスのPCR2006年10月08日 20時14分10秒

先日、キャリー・マリスがPCRの業績でノーベル賞を受賞した事に触れました。
PCRという言葉は、医者であれば知らない人はいないでしょう。しかし、一般の方でこの技術を知ってる人は反対にまったくいないでしょう。
これは遺伝子解析技術のひとつで、どういったものかの説明は長くなるので省略します。ただ、この技術がもたらしたものの一つに、基礎医学者しか出来なかった遺伝子研究を臨床医に解放したということがあげられます。
僕が千葉大学のウイルス学教室でPCRを初めておこなったのが、1991年。この時点でPCRという言葉を知っていた当時教授は今の千葉大には多分一人も居ないと思います。何しろ日本語の解説本が無かった時代ですから。
で、マリスです。シータス社の「スチャラカ社員」です。サーフィン好きの女好き、真面目に研究はやらず、いつもアイデアばかりを喋りまくり、大発見だと大ボラばかりを吹いていました。PCRのアイデアも口にするだけで全然実証しません。業を煮やした会社の上司が実際に実験を行なわせたのがSaikiという人物です。この当時は、Saikiの名前がたくさん論文に出ていて、僕はこの人がPCRを発明したのかと思っていました。この方は、日系でしょうか?テクニシャンなのでしょうか?
マリスがPCRのアイデアを思いついたのは彼女とのデート中というのは有名なエピソードです。
マリスはノーベル賞だけでなく日本にも招かれて賞を受賞しています。来日して婦人同伴でパーティーで天皇皇后両陛下に謁見した時、皇后陛下から「この方がアイデアがひらめいた時にデートをなさっていた方ですね?」と聞かれたそうです。マリスの答えは「あ、あれは別の女です。」皇后陛下は少しも動ぜずにおっしゃったそうです。「じゃあ、またもう一つ大発見が出来ますね。」

RNA干渉2006年10月02日 21時38分57秒

今年のノーベル賞の医学・生理学部門に「RNA干渉」の発見が選ばれたそうです。
2本鎖RNAがほどけてアンチセンスのRNAになり、本来働いているセンスRNAを不活化するというものです。この説明で分かりました??興味のある方はGoogleで調べて下さい。
もちろん、大発見だとは思いますが、これがノーベル賞級の大発見でしょうか?利根川博士の免疫グロブリンの多様性の解明とか、キャリー・マリスのPCRの発明に比べると余りにもスケールが小さい気がするのは僕だけでしょうか?
基礎医学の価値は、その発見(発明)がどれだけ広く普遍的に時代や地域を越えて応用されるかにあります。RNA干渉も医学に臨床応用されて、患者さんに利益をもたらすようになると素晴らしいことですね。これからの発展に期待しましょう。

万能細胞誕生!2006年08月11日 21時14分00秒

今朝の朝日新聞にはびっくり仰天の大ニュースが載っていました。
万能細胞に関する日本人の大発見です。
万能細胞と言えばこれまで胚性幹細胞(ES細胞)でした。今回の発見は、マウスの皮膚細胞に4つの遺伝子を導入して万能細胞を作ったというものでした。この研究の「きも」は、ES細胞で発現している24個の遺伝子を同定したことです。新聞を読む限り、それがいかなる方法でなされたのか分かりませんが、つまり、ES細胞をES細胞たらしめている遺伝子を確定した訳ですね。
なるほど〜。
僕らはつい、ES細胞と聞くと何か特殊な細胞と思ってしまいますが、よく考えてみればすべての生命現象は遺伝子の発現で決まっている訳です。であれば、ES細胞だって同じはずです。しかし、それがたった24個とは。で、研究グループはそれらの遺伝子を1つずつ皮膚細胞に遺伝子導入していったのだそうです。1個の遺伝子導入では万能細胞は作れませんでしたが、ある4個の組み合わせで万能細胞ができたそうです。
うーん、これは偶然なんでしょうか?必然なんでしょうか?しかし、作ってしまえばこれほど明快な答えはありません。論文を読めば誰にでも追試が可能であり、誰にでも万能細胞が作れるはずです。
10年後はこうなっているかも知れません。
僕は薬局へ行って髪の毛を1本、渡します。で、1000円払います。1週間後、僕は薬局でCDを受け取ります。そこには僕の全ゲノム情報が書かれています。ふむふむ。『あなたは5年後に肝臓を悪くして肝不全になります。』では、近所のクリニックに行きましょう。2000円払って、皮膚の一部を採取してもらいます。はい、2週間後に僕のクローン肝臓ができました。これを移植しましょう。自分の肝臓ですから免疫抑制剤は要りません。
どうです?こんな未来は?え?移植した肝臓のゲノムは同じなので肝不全になる?う。たとえが悪かったようですね。

インパクト・ファクター2006年06月25日 22時46分41秒

今日は久しぶりに弟と電話で話しをしました。
弟は僕とまったく異なった職種についています。サン・マイクロシステムという会社でコンピューターのクオリティー・コントロールをしているそうです。その相手は富士通で、つまり富士通にサンのコンピューター・システムを販売した後、なにか問題が発生した場合に、その背景となるシステム上の問題点を解析するのが仕事だそうです。
同じ兄弟でもまったく違う仕事ですね。
ところで、その畑違いの業種の弟が僕のホームページを見て、僕のインパクト・ファクターがなんか良く分からんがすごいね、と言ってきました。
もちろん、僕も業界(医者)以外の人に、このインパクト・ファクターの意味が分かると思って書いた訳ではありません。自分史として記録したのです。
簡単にインパクト・ファクターを説明しましょう。大学の教授は(異論もあるかと思いますが)インパクト・ファクターで決まるという言い方も可能です。医者を含めた科学者は自分の研究を英語にして雑誌に投稿します。ここで「英語」がミソであり、日本語の論文は(異論もあるかと思いますが)論文とは見なされません。
で、雑誌にはグレードがあります。一流雑誌からその他もろもろまで。もちろん、一流雑誌に論文が採用されるためには、その論文の中に「大発見」が含まれていなければなりません。そして、一流雑誌に掲載された論文は、重要な論文と見なされますから、頻繁に他の論文に「引用」されます。この「引用」の頻度がインパクト・ファクターであり、雑誌ごとにその点数が決まっている訳です(これは年々、点数が変化します)。当然、科学者はインパクト・ファクターの高い雑誌に自分の論文を載せたい訳です。ここに科学の世界における「競争」が生まれるのです。自分の論文の数と、その論文が掲載されている雑誌のインパクト・ファクターの「積」が、その人の全インパクト・ファクターになる訳です。
例えば、小児外科というのはマイナーな学問ですから、この業界で一番評価の高い雑誌(Journal of Pediatric Surgery)でも、インパクト・ファクターは1点くらいしかありません。新聞で時々見かける『ネイチャー』とか『サイエンス』は、30点くらいあります。
かつてこんな俗説がありました。インパクト・ファクター1点の論文を書くには100万円の研究費が必要だと。。。
僕のインパクト・ファクターは、筆頭著者、共著者を含めて109.5です。そうすると、僕の研究価値は1億円ということになります。まあ、それはないでしょう。しかし、遠からずとも言えます。と言うのは、僕が大学時代に得た公的な研究費は全部で数千万円だったはずですから。
インパクト・ファクター100点というのは、基礎医学の先生や成人領域の内科や外科といったメジャーな世界ではたいした数字ではないでしょう。
でも小児外科という最も臨床が忙しい医者の世界においては、それなりに意味ある数字であると言えると思います。僕を含めた僕より若い世代の中では、間違いなく日本の小児外科でトップレベルの数字と思います。開業医になるとインパクト・ファクターはもちろん、何の意味も持ちませんが、僕はこれを自分史としてとても大事に思っています。

子宮頸癌ワクチン2006年06月11日 08時39分56秒

子どもの話しではありません。
成人の子宮頸癌ってそのほとんどがパピローマウイルスの感染によって発癌するって知ってます?
この事実は1980年代後半からすでに知られていましたが、研究者たちがセンセーショナルな発表をせず自制的な研究を続けたため、変なパニックやスキャンダル的なマスコミの扱いを受けずに済みました。その反面、こういった事実が意外に知られていない結果となりました。
パピローマウイルスがなぜ癌を引き起こすかも1990年には解明済みです。このウイルスのE6とE7と呼ばれる遺伝子領域が発癌に関係しているのですが、これらのタンパク質はそれぞれ、がん抑制遺伝子p53とRB遺伝子タンパク質に結合して破壊してしまうのですね。つまり、このがんウイルスはがんの守り手を殺してしまう訳です。
今回アメリカで、パピローマウイルスの感染を予防するワクチン「ガーダシル」が認可されました。今月中には発売されるらしいです。このワクチンが目論み通りに効果を表せば、世界の子宮頸癌は激減するかもしれません。女性にとって素晴らしいニュースになることを期待しましょう。

WT1ワクチン療法2006年05月03日 19時33分44秒

今朝の朝日新聞を見ていたら、大阪大学が研究を進めて来たWT1がんワクチン療法の臨床試験が全国規模で行われるとのことです。素晴らしいことではないですか。基礎医学の進歩が臨床試験に至るというのは、科学者にとっては最高の喜びのはずです。ところで、このWTとは一体、なんのことでしょう?
これは小児の腎臓に発生するウイルムス腫瘍(Wilms Tumor)の頭文字です。この腫瘍の一部では家族性に発生することやある特定の合併奇形を伴うことがあり、その際、よく見られる染色体異常からがん抑制遺伝子が存在することが推定されていました。この遺伝子がクローニングされWT1と名付けられた訳です。ところが、いざ、この遺伝子が作るたんぱく質の働きを研究してみると、成人の白血病などで重要な役割があることが分かったのです。
今回の臨床研究の対象疾患を見てみると、ウイルムス腫瘍や神経芽腫まで入っているではありませんか?非常にびっくりして今度は対象年齢を見てみると、16才以上。。。。言いたいことはお分かりですね?
小児がんと闘病しているみなさん、くれぐれも惑わされないで下さいね。蛇足ですが、臨床試験のホームページにある「神経芽細胞腫」という病名は正しくありません。「神経芽腫」です。