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大江健三郎さん、亡くなる2023年03月13日 20時20分11秒

大江健三郎さん、亡くなる
訃報に接し、そうかもうそんなに高齢だったのかと改めて感じました。
初めて大江さんの本を読んだのは、高校1年生のときだったと思います。
きっかけはちょっと覚えていません。
初期短編集を読んで一発で「持っていかれ」ました。
閉ざされた空間に生きる自己や、傍観者の偽善を初期はよく描いていました。
実存主義の影響があったのではないでしょうか。

難解な日本語で知られていますが、初期はそれほどでもありませんでした。
『万延元年のフットボール』から難しくなったのだと思います。

ぼくは全作品を読んだわけではありません。
デビュー作の『奇妙な仕事』から、中期の『洪水はわが魂に及び』までです。
後期も名作と評価される作品がいくつもあるのですが、その頃のぼくはもっぱらノンフィクションを読んでいましたので、フォローはできていません。
人生の持ち時間には限りがありますから、難しいですね。

大江さんの本は出だしが非常に印象的でした。『死者の奢り』はこんな感じです。

「死者たちは、濃褐色(のうかっしょく)の液に浸って、腕を絡(から)み合い、頭を押しつけあって、ぎっしり浮かび、また半ば沈みかかっている。彼らは淡い褐色の柔軟な皮膚に包まれて、堅固な、馴(な)じみにくい独立感を持ち、おのおの自分の内部に向かって凝縮しながら、しかし執拗(しつよう)に躰(からだ)をすりつけあっている。」

すごいですよね。これはちょっと書けない。
『セヴンティーン』の出だしも忘れ難いです。

「今日はおれの誕生日だった、おれは十七歳になった、セヴンティーンだ。」

読点でつなぐところがいいですよね。

ぼくは高校3年生のときに「近代文学鑑賞クラブ」というものに入っていました。
毎週課題の本を決めてみんなで読んできて感想を言い合うのです。
あるとき、顧問の先生が「来週は大江のセヴンティーンにしよう。いや、待て、あれはちょっと無理かな」と断念したのをよく覚えています。
高校のクラブであれはちょっと・・・ね。

ぼくが読んだ長編で最も好きなのは『個人的な体験』です。
テーマは障害児の受容。これも実存主義的な文学なんですよね。
中編だと、芥川賞を取った『飼育』でしょうか。
短編は本当に傑作が多いのですが、デビュー作の『奇妙な仕事』の完成度も忘れられません。
当時、大江さんは大学生ですよね。天才です。

青春の一時期に大江健三郎さんに触れたことは確実にぼくの人生を豊かにしました。
ご冥福をお祈りいたします。