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紙の本はなかなか苦しい2023年03月26日 20時14分14秒

出版不況と言われてから、もうだいぶ経ちます。
状況は好転する気配はなく、ますます苦しくなっているようです。
本というのは、初版に5000部印刷したとして、このうち70%くらいが売れれば損益分岐点を超えるようです。
重版になれば、それはもうお金を刷っているようなものですから、大きな利益がでます。

しかし重版になる本は書籍全体の20%くらいと聞いたことがあります。
出版不況になってから、出版点数はむしろ増えています。ま、薄利多売という感じでしょうか。村上春樹さんの本のようなメガヒットはなかなか出ないため、次から次に出版しているという具合です。

最近になって本の価格が上昇の気配を見せています。
このインフレ状況下で紙の価格も上がり、配送コストも上昇しています。
今までハードカバーで出していた本もソフトカバーになり、文庫本も600円代では買えなくなっています。

たしかに単行本1冊が1600円プラス消費税というのは、今の時代にはちょっと高額でしょう。
映画を自宅で観ようと思えば、1本2時間を400円くらいで楽しめます。
Amazonの有料会員ならば、無料動画も多数見ることが可能です。
書籍は苦しいと言えます。

電子書籍が広まると、今度は街の本屋さんが困ることになります。
やはり紙の本が売れて欲しいですね。
出版社はコスト削減に工夫を凝らすしかありません。
中央公論新社・角川春樹事務所・河出書房新社・筑摩書房の4社は文庫本の紙を共通化したそうです。
なるほど、スケールメリットが生まれますよね。

この状況を大転換する魔法のような方法はおそらくないと思います。出版社はひたすら「いい本」を作り続けることが、最良で唯一の解決策だと思います。
本好きのぼくらは、期待しながら待っています。

酔いどれクライマー 永田東一郎物語 80年代ある東大生の輝き(藤原 章生)2023年03月26日 23時15分39秒

酔いどれクライマー 永田東一郎物語 80年代ある東大生の輝き
沢木耕太郎の『無名』を読んだ時に、市井に生きる平凡な人を描いても十分にノンフィクション文学になるんだなと驚きました。
これはそういう本です。
永田東一郎さんは東大生のクライマー。難峰とされるカラコルムK7の登頂に成功しますが、世間的には有名人というわけではありません。
しかし筆者にとっては、人生の中でもっとも興味を抱く人であったらしく、この「無名」なクライマーを本書で描きます。

たしかに永田さんは破格な人だったようです。自由な人だったようでもあります。臆病でもあり、チャーミングで、他人の心を読まない性格もあるようです。
少しアスペルガーなのかとも思いましたが、そういう決めつけで語れる人ではないでしょう。

ぼくにとってこの本が面白くなるのは、K7に登った後です。彼は登山をやめてしまうのですね。
その理由に関しては、筆者が4つの仮説を示しています。この分析もおもしろかった。
そして永田さんは建築士と働き始めるのですが、そこからはある意味で滑落の人生だったようにも見えます。

酒に溺れ、体を壊し、46歳の若さで亡くなります。
単にアルコール依存と言うのはちょっと違うと思います。自分でどういう人生のプランを描くか、それがうまく設計できなかったのではないでしょうか。
これは違う、
こんなはずじゃない、
本当の自分って何だ、、、
そんなことを考えていたようにぼくには感じられました。

分厚い取材と深い資料の読み込みで、一人の人間に生きた証がクリアな輪郭になりました。
その輪郭の中身には、よく見えない暗闇のようなものもありますが、評伝として一級品に仕上がったと思います。
登山に興味のない人も読んでみてください。おススメです。