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母は死ねない(河合 香織)2023年03月29日 09時08分06秒

母は死ねない
筆者の河合香織さんが産科的 DIC に陥り、死にかける話から始まります。
子どもを産んだときに、敗血症ショックで命が危なかったことは、ご本人から聞いたことがありましたが、実際に詳細を本で読んでみると、その緊迫感は並大抵のレベルではなかったと痛感しました。
ガリガリ君を食べる場面では生きることへの執着が迸り出ていて、本当に「母は死ねない」のだなと心底思いました。

そう、この本のタイトルは「母は死ねない」です。
多くの母親たちが登場し、子どもを欲しいと思うこと、子どもを授かること、子どもを失うこと、子どもを愛おしいと思うことが綴られていきます。

体裁はエッセイに見えますが、手法はノンフィクション(ルポルタージュ)であり、表現はリリカルで、触れれば血が滲みそうな繊細な短編集となっています。

母親と父親では、子どもとの関係性において少し違いがあることは言っておかなければなりません。
やはり産むのは母親だからでしょう。
「母は死ねない」という出だしから本作はスタートしますが、読んでいるうち、それが少しずつ揺らいでいきます。

母は愛おしく、悲しく、切なく、尊く・・・そして「母は死ねない」という宿命論的な呪縛は、もしかしたら幻かもしれません。
母には、自分の母親との関係においても、自分の子どもとの関係においても、実はもう少し自由なのかもしれません。
ただ、母として生きると、「死ねない」「ねばならない」という位置に押し込まれてしまうのでしょう。

最後まで読み終えるとタイトルに反して、「母は死ねない」と思わないでいいと河合さんは、母親たちに赦しのような言葉をかけているように思えます。

文学的香りに満ちた美しい作品でした。
ぜひ、読んでみてください。