病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上(シッダールタ・ムカジー) ― 2026年03月02日 19時31分52秒

病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上(シッダールタ・ムカジー)
10年以上も前の本なんですが、ちょっと調べたいこともあり、読みました。
この本のおもしろさについてはぼくが何か言う必要はないでしょう。
上巻の主人公はシドニー・ファーバーのようです。ファーバーの業績は、この本を読まなくても、白血病の本を読めば総論のところで必ず出てきます。
白血病の治療の歴史は文書として残っているのに、神経芽腫ってどこにも記録がないと思います。残念ですね。

そしてもう一人の主役がハルステッド。乳がんの根治手術の先生ですね。
外科医って「取れるもの」は何でも取っちゃうんです。
がんの生物学なんて知らないんですよね。
とにかく、拡大して取る。
外科医の本能みたいなものです。
取っても取っても再発して、治せないところが胸に沁みました。
分かりますよ、その気持ち。

そして世界で初めて完治できた固形がんとしてウイルムス腫瘍が出てきます。
手術にプラスしてアクチノマイシンDを使うと完治できるんですよね。
このシーンに、ダンジオとエヴァンスが登場してきて胸が熱くなりました。
ええ、ぼくはお二人にお会いしたことがありますよ。

しかしまあ、本の20%が参考文献のページというのが驚きですね。
この本を書きながら、患者を診る時間はあったのでしょうか?

病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 下(シッダールタ・ムカジー) ― 2026年03月02日 22時28分57秒

病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 下(シッダールタ・ムカジー)
そんなわけで、下巻も読みました。
20世紀までは、外科医は手術のことだけを考えていました。
腫瘍内科医は、抗がん剤治療のことだけを考えていました。
分子生物学者たちは、がんとは何かを知ろうと研究をしていたわけです。

ちなみに、1973年にニクソン大統領が「がんとの闘い」を国家プロジェクトに据えたため、ウイルス学者(分子生物学者)たちが大挙してがん研究になだれ込んで来たので、学問も進化した一面があります。
しかし、がん研究はそんなに簡単ではなかった。
ニクソンはアポロ計画で成功したかもしれませんが、がんとの闘いには敗れたと言っていいでしょう。
そういう意味では、人類が月に降り立つなんて大したことがないサイエンスなのでしょう。

1983年から1993年の間に、がんの生物学は爆発的に進歩します。
(ぼくが大学院へ行っていたのは、1989年から1993年)
恩師の清水教授は、これほどサイエンスが一気に進んだのは、1960年代のニーレンバーグやコラナによる遺伝暗号の解読以来、2度目の出来事とおっしゃっていました。

この時代、天才と呼べる科学者が何人もいました。
でもぼくが、5人だけあげるなら・・・ビショップとバーマス、クヌッドソン、ワインバーグ、フォーゲルシュタインになるでしょう。
この当時、がんは「外因(環境)」か「内因(染色体や遺伝)」かウイルス感染かによって起こると、科学者たちは考えていました。
それらは実はすべて一点に集約されることが分かったのです。
それを明らかにしたのが、この5人だとぼくは思います。

ポストゲノム時代に入り、何が変わったのでしょうか?
科学的知見はそんなに増えなかったのでは?
パッセンジャー遺伝子がたくさん見つかったものの、ドライバー遺伝子は1990年代と大きく変わっていません。
でも、テクノロジーの進化はあった。それは次世代シークエンサー(NGS)です。
PCR と NGS は科学を工業に変えたとぼくは思っています。

そして現在の、プレシジョン・メディシン。
これは1990年代の科学の成果が土台になっており、また、NGS 抜きでは考えられません。
がんの生物学にはまだ未解明のことはたくさんありますが、治療法としては来るべきところまで来たのではないかというのが、ぼくの考え方です。

遺伝子‐親密なる人類史‐ 下(シッダールタ ムカジー) ― 2026年03月03日 22時51分02秒

遺伝子‐親密なる人類史‐ 下(シッダールタ ムカジー)
ヒトゲノム計画が発表されたとき、ぼくは大学院生でした。
これって本当に意味があるの? という気持ちと、新しい分子遺伝学の時代の扉が開くのかな? という期待と両方がありました。
しかし、ゲノムを読むためににいったいどれだけの研究費がかかるのか? どれだけの時間がかかるのか? そしてどれだけたくさんの研究者を「消費」してしまうのかと、疑問もありました。

一番の疑問は、この計画は研究者の頭脳とか実験テクニックとかはあまり関係なく、半自動シークエンサーで塩基配列を読んで、コンピューターで解析(解読)していくという、とてつもなくつまらない実験手法にありました。

国際プロジェクトのヒトゲノム計画に挑戦したのは、セレラ社のクレイグ・ベンターでした。
彼はショットガン方式というやり方で、凄まじいスピードでゲノムを読んでいきました。
ベンターの方が優れていたのではないかとぼくは思っています。
センスがいいですよね。

ヒトゲノムが読了されたことで、ポジショナルクローニングの時代は終わります。
次世代シークエンサーが登場し、GWAS(ゲノムワイド関連解析)や、がんゲノム解析の時代に入ります。
それがプレシジョン・メディシンにつながったことは前回のブログで書いた通りです。

しかしまあ、この本のすごいところは、イラストを使っていない点ですよね。
あっぱれです。

『赤ちゃんにメスを入れる』、見本が届きました! ― 2026年03月04日 20時51分48秒

『赤ちゃんにメスを入れる』、見本が届きました!
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『赤ちゃんにメスを入れる 知られざる小児外科の世界』(晶文社)。
見本が届きました!
発売は、3月12日です。

予約はここから。↓
https://amzn.to/4rk9hTq

応援してくださいね。よろしくお願いします!

3月12日、発売です! ― 2026年03月11日 22時43分24秒

3月12日、発売です!
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最近、ブログを更新していませんが、理由は忙しすぎるからです。
現在、本の企画を立てている最中で、毎日、たくさんの医学書を読んでいます。
家族には「受験勉強?」とからかわれています。

この企画が通るかどうかまだ分かりませんが、やっぱり勉強って楽しいですね。
自分の知識が増えていくって快感です。

さて、明日、12日は新著『赤ちゃんにメスを入れる 知られざる小児外科の世界』(晶文社)が発売になります。
小児外科という学問は本当に世間から認知されていないと思います。
本書では、先天性の疾患に絞って解説しました。
なぜ、こうした病気の赤ちゃんが生まれるのか?
人体発生学や発生生物学の観点からも解説を試みました。

え、難しそう?
はい。お気楽な本ではありません。
でも、知を得るって快感なんですよね。知らない世界をぜひ知ってください。
この本を書くことで、ぼくは非常に勉強になりました。
いい本に仕上がったと思います。

知られざる世界に興味のある方は、ぜひ、手にしてみてください。

どどんと展開 ― 2026年03月13日 21時01分32秒

どどんと展開
『赤ちゃんにメスを入れる 知られざる小児外科の世界』(晶文社)。
「松永の本」コーナーに大きく展開されています。蔦屋書店@イオンモール幕張新都心。

ありがとうございます! 
晶文社さんが作ってくれたパネルがうれしい。

クリックして拡大して見てください。

ヨミドクターに登場 ― 2026年03月19日 08時45分14秒

ヨミドクターに登場しました!
『60歳からの人生を変える22の発想』(小学館新書)をめぐってです。
よかったら、どうぞ!

https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20260306-GYTET00001/

親友は山に消えた(小林元喜) ― 2026年03月20日 15時08分32秒

親友は山に消えた(小林元喜)
「さよなら、野口健」がメチャおもしろかったので、著者の第2作も読んでみました。
タイトルにこの本の内容がすべて表れています。
また、カバーの装幀を見れば、なぜ亡くなったかも分かります。
本の内容とは関係ありませんが、この本はカバーもいいし、カバーを取っても表紙が秀逸だし、サブタイトルなしで勝負しているところもいい感じです。

さて、本書には3つの優れている点があります。
まず、主人公が無名の人にもかかわらず、強烈な個性を放ってぐいぐい読ませる点です。
著名人の評伝などは、おもしろくて当然だし、本もよく売れます。
ですが、無名の人の生涯を描くというのは、作家にとって冒険になります。
沢木耕太郎さんの数々の作品の中で、ぼくが最大に評価しているのは「深夜特急」ではなく、自分の父親を描いた「無名」です。
無名の人間を描くと、その作家の本当の技量が明らかになります。
そういう意味でこの本は成功しています。

優れている第2点は、文章の力です。
ときに過剰の部分もありますが(特に、あとがき)、基本的に大変に文章に力があります。
豊かに多彩に語っていますし、表現する力強さがあります。
こうした部分はトレーニングでうまくなる面もありますが、基本的には才能なんだとぼくは思っています。

3つ目が、自分語りの奥深さです。
筆者は、親友と、友だち関係であると同時に強烈なライバルなんですね。
青春の時期を「何者か」になろうと共に懸命に足掻くわけです。
だから親友が「成功」すると、喜ぶことができない。
猛烈な嫉妬を感じてしまいます。
そこを赤裸々に書きます。もっと言えば、自分の内面を深く掘っていきます。
だから、この本は「親友の話」であり、「自分を描いた本」なんです。
そしてそれが、上滑りすることなく表現されていて、読み終えてみれば「あいつと私の関係」の話ということがよく分かります。

極めてすぐれたノンフィクションが誕生しました。
小林元喜さん、おめでとうございます。書いてよかったですね。

みなさんにも、お勧めします。

自分事として向き合うための手控え帖 がんは運である? (仲野 徹) ― 2026年03月26日 23時41分42秒

自分事として向き合うための手控え帖 がんは運である? (仲野 徹)
仲野徹師匠から本が送られてきました。
『がんは運である?』。なかなか挑戦的なタイトル。
でもよく見たら、これはサブタイトルなのね。

ぼくはがんサバイバーだし、(一応)がんの専門家なので、興味津々で読みました。
まず、先生の引き出しの多さにびっくり。

がんについてあらゆる視点から語っています。
がんの生物学については、さすがに知らない部分はなかったけれど、放射線療法とか鏡視下手術(ロボット支援手術)とかに関しては知識が豊富で驚きます。
先生は、どれだけ知恵の塊なんだと驚きました。
がん治療の世界にはトータルケアという言葉がありますが、この本は、がん解説の総合百貨店です。

こういうサイエンスの啓発本を書く場合、読者のレベルをどれくらいに想定するのかがメチャ難しいんですよね。
正確に伝えようとすると、専門的になり過ぎるし、比喩を使って分かりやすく書こうとすると、不正確になる。
多くの書き手は、やさしく書くのですが、やさしく書く方が実は伝わらないということがあります。

そういう意味で言うと、凡人だったぼくの両親でも分かるように、同時にレベルを落とさないで書かれていたと思います。
これってかなり難しいことで、相当作戦を練ったのではないでしょうか。

大阪弁がめちゃ良くて、いつものようにユーモアのセンスは抜群でした。
奥様が子宮体がんに罹患した場面で、再婚を考えてしまう記述には思わず笑ってしまいました。そりゃ、ないでしょ!

先生からのメールで「小児がんのことは書いていません」とありましたが、そんなの全然無用です。
小児がんは希少疾患なので。超マイナーな話は不要です。

最後まで読んでいくと、先生が一番言いたかったのは、人生をいかに生きるか、エンドオブライフをどう迎えるかだったようにも思えました。
大事ですよね。ぼくもよく考えます。
がんという、誰もが知っている病名で、実はその実態を誰もよく理解していない暗黒大陸に光を照らす作品でした。
亡くなった立花隆がよく言っていましたが、学問を学ぶ上で一番大事なのは、「概論」。
その「概論」がいい深さまで掘られていました。
これは多くの人にお勧めできますね。

楽しく読ませていただきました。
ぼくもがんばっていい本を書こうと思いました。

がん治療革命 ウイルスでがんを治す(藤堂具紀) ― 2026年03月31日 21時20分11秒

がん治療革命 ウイルスでがんを治す(藤堂具紀)
ちょっと前の本なんですが、いろいろ思うことがあり読んでみました。
藤堂先生は、東大の脳神経外科の教授。
ヘルペスウイルスを改変して、脳腫瘍に感染させて、これを破壊する腫瘍融解ウイルス療法を開発しました。
ぼくが先生のお名前を知ったのは、今から20年以上前です。
科学雑誌で特集されていたのです。
ぼくは、反射的に「あ! これだ」と思いました。
すぐに千葉大の分子ウイルス学の教授に相談。その結果、神経芽腫に対する腫瘍融解ウイルス療法の研究に入りました。
Sindbis ウイルスを使って神経芽腫にアポトーシスを起こすのです。

ですが、ぼくは2006年に大学を退職。後輩の何人かが研究を引き継いでくれて、博士も誕生しましたが、残念ながら臨床応用まではいきませんでした。

本書はさすがに、口述筆記だと思うのですが(東大の教授なので、本を書く暇などない)、どういう読者層をターゲットにして、何を訴えたかったか、もう少し編集部は練った方がよかったと思います。
治験の大変さが延々と語られますが、一般読者はこういうことに興味があるでしょうか? (ぼくは、ある)
とはいえ、その部分がないと、分量として1冊の本にならないので、本を作るとは本当に難しいですね。

いずれにしても、アメリカ留学して改変ヘルペスウイルスを作り、日本で治験をやって保険承認を得たわけですから、藤堂先生の業績は偉大としか言いようがありません。
トランスレーショナルリサーチの一つの完成形ではないでしょうか。
現在、どれくらいたくさんの患者さんがこの治療を受けているのか、ぜひ知りたいところです。