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「私を抱いてそしてキスして」 (ぶんか社文庫) 家田 荘子2012年10月11日 20時06分55秒

この本も大宅賞を受賞しているので、読んでみました。
HIV感染によるエイズという病気は、日本では「不治の病」ではなくなりました。
薬物療法の発達のおかげです。
ただ、サハラ以南のアフリカでは、HIV感染者は増える一方だし、経済的な問題もあってきちんとした治療が行われていません。
成人の平均寿命が短くなっているという話もあります。

「不治の病」でなくなったエイズを描いた本作。
しかしだからといって、本の価値が下がっているとは思いません。

家田さんの行動力・取材力・筆力もあり、人の命とは何かということに対して十分にものが考えられる作品に仕上がっています。

この本のタイトルは、それ自体とても魅力的で良いタイトルと思いますが、本の内容とはかなり印象が異なります。
別にだまされたとは思いませんが、ちょっと考え込んでしまう部分があることは否めません。

それにしても、この流れるような文章って、女性ならではと思います。
一般的に言って、小説でもノンフィクションでも、男よりも女性の方が文を書くのは上手なのではないでしょうか。

「発達障害 うちの子、将来どーなるのっ!?」 (講談社) かなしろにゃんこ。2012年10月12日 20時02分38秒

発達障害 うちの子、将来どーなるのっ!?
そうですよね。
本当に切実な問題だと思います。
今までにこういう本があったのか、なかったのか、ぼくは専門家ではないので知りませんが、とても貴重な本(漫画)だと思います。

関係するご家族は興味を持たれるのではないでしょうか?
ぼくがもう少し「発達障害」に関して詳しければ、専門的なコメントを付けられるのですが、残念ながら知識に乏しい。

でも企画の良さはすぐに分かりますよ。
関心のある方にお勧めいたします。

仕事帰りに2012年10月13日 23時14分14秒

10月になって、土曜日の午後はインフルエンザ・ワクチンの予防接種を行っています。
従って帰宅時間は大幅に遅くなります。

労働時間も長くなる訳ですから、疲れもたまります。
そうなると、趣味の時間が大きく削がれることに。
まあ、もう少しの辛抱です。
年末まで遮二無二働きましょう。

今日は帰宅して、ふと写真を撮りたくなりました。
この写真、何だか分かりますか?

よ〜く見て頂けると、分かると思います。

何が問題なのか? iPS誤報問題2012年10月14日 22時57分13秒

先日、うちのクリニックのスタッフから、iPS細胞の臨床応用の話を振られ「あれってどうよ?」と聞かれました。
その時は、「今、話題のあの話」のことをぼくは全然知らなくて、心筋には応用可能だね、などと答えていました。

その日、帰宅してようやく臨床応用のインチキ話が新聞で報道されていることを知りました。

まず読売新聞が誤報。
いくつかの報道機関がそれに追従。
すぐに「おかしい」となって誤報、つまり男の話はインチキと判明した次第です。

現在、多数のマスコミがNYのホテルに押しかけて、男を吊し上げています。
袋だたきという感じですね。
だけど最大の問題は、この男にあるのではありません。
誤報こそが問題です。
なぜか。

それはね、この男の話がでたらめであることは、僕だったらたちまち見抜けるからです。
いえ、僕でなくても大学院に進学経験のある医学博士の医者ならば、ほぼ誰でもウソだと分かるでしょう。
それくらいひどいウソ。
ウソと分からなくても、ウラを取らなければ信用できない話だと分かります。

こういったインチキ話をマスコミに売り込む人間なんて掃いて捨てる程います。
新聞社自身がそのことを知っているはず。
だからこのインチキ男は、とりわけ特別な犯罪者ではありません。
そこらにゴロゴロいる手合いです。

佐野眞一さんにインタビューする・最終回2012年10月15日 21時13分40秒

「g2」インタビュー
佐野さんへのインタビューも今週で最終回となりました。
最後の方は「別海から来た女」を離れて、ノンフィクション文学談義になっています。
興味のある方は、ぜひ読んでみてくださいね。

http://g2.kodansha.co.jp

また、このサイトには、ノーベル賞を受賞した山中先生に対するインタビュー記事も掲載されています。
無料で読めますから、会員登録してぜひ読んでみてください。

今日も大勢の患者さんがクリニックにやってきました。
でも、整然とつつがなく診療を終えることができました。
これも皆さんのおかげです。

「ゆりかごの死―乳幼児突然死症候群(SIDS)の光と影」(新潮社)阿部 寿美代2012年10月16日 22時19分22秒

ゆりかごの死―乳幼児突然死症候群(SIDS)の光と影
SIDSをテーマにした大宅壮一受賞作です。
面白くてすぐに読み切ってしまいました。
だけど例によってノンフィクションの「視点」に不満があります。

「○○医師は、その時○○と考えた」
というような、物語形式、三人称形式、あるいは「神の視点」です。
特にSIDS研究黎明期の記述では、たくさんの医師が登場して、その人たちがドラマのように会話を交わしたり、心情を吐露したりします。
これはちょっと話を作っているのではないかと疑ってしまいます。

また昔の話のエピソード主義も頂けない。
例によって「名医」が登場し、その医者が赤ちゃんを見詰めるとピタっと泣き止んでしまう・・・・。
こういう「講談」はほとんど100%作り話です。
そんな医者はこの世にはいません。

筆者はNHKの記者なんだから、単純に自分が取材したことを丁寧に解説していけばもっと良い本ができたと思います。
ものすごくよく調べていると思いますが、本としての完成度を考えると不要だった部分もずいぶんあったように思います。

だけど、まあ、大マスコミの記者さんは、「取材」という点においては、フリーの書き手に比べてはるかに有利ですよね。
看板があるから取材に応じてもらえる。
ぼくが女子医大の仁志田先生に取材をお願いしたって、まず、断られると思います。
え? ひがみ?
はい、ひがみです。
正直に言って羨ましいですよ。

大宅賞を受賞したのだから傑作なのでしょうが、読んでいてもどかしい部分もありました。
1997年当時の感覚としては、未知で新しい世界だったのかな。

本の最後の方に松戸市立病院の長谷川先生が出てきてびっくり。
一緒に働いた先生です。
だけどこの部分はあまりに専門的すぎて、一般の人には理解が難しいと思います。

ミラー・ディッカー症候群 / 滑脳症2012年10月17日 22時29分02秒

ミラー・ディッカー症候群という先天性の脳の発達異常の病気があります。
脳を形作る神経細胞の移動が途中で止まるため、6層できるはずの脳が4層で停止してしまうのです。
その結果、脳の表面にしわができません。
脳の外見から、「滑脳症」という別称もあります。
お子さんは重度の発達障害になりますので、寝たきりの状態です。

今日は、縁があってミラー・ディッカー症候群の子のご家庭にお邪魔しました。
ママにインタビューすること2時間。
貴重なお話しを伺うことができました。

現在、このママはお子さんと二人きりで一軒家に住んでいます。
ぼくの感覚で言うと、寂しいだろうな・・・となるのですが、それが必ずしもそうではないのですね。
人間の幸福の形は実に様々です。
他人が決めることではありません。

このママも最初からお子さんの障害を受け入れた訳ではありません。
精神的にどん底のところからゆっくりと昇っていって、今の状態があるのです。
何か具体的なきっかけがあったというより、時間が解決した部分も大きいでしょう。
ですが今は、このママにとって自分の子どもは「母親」のような存在になっているそうです。
ママは、自分の母親を病気で失っており、その喪失感を埋めているのがお子さんなんです。
だから、自分がこの世に生を受けた理由は、このミラー・ディッカーのお子さんを産むためだったと言っていました。
そして自分は現在、自分の子どもによって生かされているそうです。

こんな深い話を、ぼくはどうやって文字にすればいいのでしょうか?

ぼくも25年、医者をやっていますが、まだまだ知らない世界、不勉強の世界がたくさんあります。
ミラー・ディッカーのママ、大切なことをたくさん教えてくれて本当にどうも有り難う。

朝日新聞取材拒否2012年10月18日 22時27分57秒

大阪市の市長さんが、朝日新聞の取材を拒否しています。
理由は、週刊朝日に書かれた、この市長さんの評伝が気に入らないからだそうです。

書いたのは佐野眞一さん。
先日、ぼくがインタビューした大宅賞作家です。
インタビューが終わった後の雑談で、現在取材中の内容をいろいろと教えてくれましたが、この市長さんの話はありませんでした。
密かに取材を積み重ねていたのでしょう。

さて、今回の取材拒否は話がややこしく過ぎて、何と言ったらいいかよく分かりません。
週刊朝日の内容が気に入らないから、朝日新聞の取材を拒否するというのは、完全に政治的な行動だと思います。

問題は週刊朝日の記事の内容。
市長さんの名誉が傷つけられているのであれば、堂々と週刊朝日か佐野さんに対峙すればいいと思います。
政治的なスタンドプレーをする必要は一切ありません。

でも、当の週刊朝日は、すでに一部、謝罪のコメントを出しているようです。
こんなに簡単に折れてしまうならば、なぜ記事にしたのでしょうか?
佐野さんは信念を持って今後も書くのではないかと予測します。

ここから先は一般論です。
やはり相手が公人と言えども、その人の出自や血脈を暴くのはよろしくないと思います。
(ただし、市長さんが言うような、ナチズムとか血脈主義とか、そういったコメントはこれまた政治的で、大変大雑把な議論で聞いてられません)
しかし、ぼくは詳しく存じ上げませんが、この市長さんは自分の出自に関して公的なところで話しているのではないでしょうか?

だから法廷論争に耐えうるレベルで、どこの記述が名誉を毀損しているのか、あるいは隠していたことを暴露されたのか、理詰めで話して欲しいものです。

そういうぼく自身がこの記事を読んでいませんから、早速、ネット書店で購入しました。

「北朝鮮に消えた友と私の物語」 (文春文庫) 萩原 遼2012年10月19日 22時32分08秒

北朝鮮に消えた友と私の物語
これも大宅賞を受賞した名作です。
赤旗の特派員記者が、どんな目で北朝鮮を見てきたのだろうと興味津々で読みました。
ここに描かれる北朝鮮の内情は大変に寒々しいものがあります。
この本で一番訴えたかったのは、この部分なのかもしれません。

ただ本の構成にはちょっと違和感がありました。
終盤になると、自己の体験談ではなくて、調べたことの解説のようになってしまいます。
著者の友人の若き日の活躍の伝え聞きなどとは、まったく色合いの違う展開になります。
余りにも政治的な話で、正直興味が持てない部分もありました。

在日朝鮮人の帰国運動に関しては、梁石日の小説に繰り返し、その当時の熱狂が描かれています。
あちらは小説ですから、比べてはいけないかもしれませんが、日本人の目から表現することの限界もあるのかなと思いました。

大分県からの患者さん2012年10月20日 21時44分38秒

今日は診療が終わってから、一人の患者さんの親御さんと話をしました。
大分県からお見えになった患者家族です。

電子メールを頂き、意見を聞かせて欲しいと言われた時は複雑な心境でした。
ぼくは大学病院を辞めて6年。
小児外科医としてもう現役ではありません。
だから、半分、お断りの返事もしました。

ですが、やはり千葉までお見えになるという。
そうであれば、ぼく自身が勉強すればいいだけのこと。
患者家族に資料を送ってもらい、まずそれに目を通しました。
見てみると、これならば、「現役でない」自分でも答えが出せそう。
だけど傲慢になってはいけません。
その資料を抱えて大学病院に行き、後輩のドクターに画像を見てもらいました。
やはり二人の意見は一致。
これならば自信を持って患者家族と面談できそうです。

で、今日、1時間ほど話をしました。
ぼくのオピニオンが家族の心に届いたかどうか、正直なところ分かりませんが、何かのお役に立つことができたのならば、ぼくは幸せな開業医だと思います。