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知の体力(永田 和宏)2023年10月03日 22時46分48秒

知の体力 (新潮新書)
永田和宏先生が説く、学ぶことの意味を教える1冊です。
大学の先生がここまで教育について深く考えているというのはすばらしいことだと思いました。

考えてみれば、ぼくも千葉大学医学部小児外科に在籍していた当時は、「講師」というポジションにいて、教育者だったわけです。
自分なりに熱心な教育者だったと思いますが、学問とは何かと、学習とは何かとか真剣に考えていたわけではありません。

ま、医学部の場合は、専門家を養成するのが教育の使命という部分も大いにありますので、真の「知」を鍛えるということはあまり考えない世界だったとも言えます。

大学人にとって教育というのは、ある意味で「本分」のはずですが、ぼくの上司だった教授たちは、教えることが好きじゃなかったのはどういうことだったのか・・・と思います。

この本は、Amazonで349個もレビューが付いていて、今年の6月の時点で18刷りのようです。これはなかなかのロング&ベストセラーですね。
授業を受けている学生さんが買っている部分もあるでしょうが、それにしても見事な売れ方です。
永田先生が高名だからということもあるのかな。

こういう本を時間をかけてゆっくり読むと、人生が豊かになります。
ぼくが大宅賞の予備選考委員をやめたのは、こういう時間が欲しかったからです。
還暦を過ぎると、ガツガツ本を読むのはちょっと違うかなという気になります。

興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。

すぐれたノンフィクション文学とは何か?2023年10月06日 21時51分26秒

最近になって、すぐれたノンフィクション文学とは何だろうと考えるようになりました。
昨年度までぼくは大宅壮一ノンフィクション賞の予備選考員を務めていました。
(最小で)1〜(最大で)5冊のすぐれた本を事務局に提出するのですが、このとき必ず「取材が深い」かどうかを選考判断に加えていました。
昨年大賞を受賞した『黒い海』はめちゃくちゃ取材が深くて、よくこういう本を仕上げることができたものだと感嘆しました。
当然、最高点をつけて推薦しました。

でも、最近思うのです。取材が深いことがそれほど立派なことなんでしょうか。
取材は手段であって、その本の本質ではないと思います。
取材の分厚さが高評価に直結してしまうと、長年取材した本が自動的に高評価になってしまうのではないか。それってちょっと違うと思う。

やはり本は基本的におもしろくなくてはいけないし、ノンフィクションには「こんな世界があったのか」という驚きがなくてはいけないと思うのです。
そしてさらには、読者の価値観と人生観を変える力がないといけないと思うようになりました。

つまり、すぐれたノンフィクションの3要素は「おもしろさ」「おどろき」「力」なのではないかな。
そして「おもしろさ」には「文章のうまさ」が相当関係すると思うし、「おどろき」には本を書く「着眼点」みたいなものが必要で、「力」を持つためには事実を追うだけではなく、筆者の「立場」「とか「思想」が試されると思います。

あまり取材の深さや資料の読み込みの多さを評価し過ぎると、賞が努力コンテストみたいになってしまうんじゃないかな。
そういう意味で言うと、『彼は早稲田で死んだ』(樋田毅)が大宅賞を取ったのは良かった。あれは言ってみれば「回想記」でしょう。
文献は参照しているけど、大掛かりな取材をしたわけではない。

ノンフィクションの3要素の一つに「おどろき」を挙げましたが、何十年も生きると「おどろき」ってあまり無くなっていくんですよね。
若い頃は何も知らなかったけど、歳をとるとさまざまなことを知るようになります。
すると、ちょっとノンフィクション作品を見る目が厳しくなってしまうんですよね。

いのちと性の物語: 人格的存在としての人間の倫理(竹内 修一)2023年10月09日 11時24分56秒

いのちと性の物語: 人格的存在としての人間の倫理
上智大学神学部の竹内教授の著作です。
いのちと性をめぐる倫理的基盤について、基礎を押さえながら、先生のお考えまでを広く述べていきます。
先生はキリスト者なので、考えのベースにあるのは「プロライフ」でしょう。
ぼくも小児外科医なので、考え方としては非常に似たものがあります。
印象に強く残ったところをいくつか書き出したいと思います。

「望まない妊娠」という言葉があります。いったい誰が望まないのでしょうか? それは当事者の二人、あるいはそのうちの一人でしょう。だけど、この新しい命の誕生に際して、真の意味での当事者とは誰でしょう。
それは胎児です。
そのことをもっと深く考えるべきだと先生は言います。

「産む、産まないは女性の権利」という言葉があります。胎児は親の所有物でしょうか?
胎児には人格がないから、自由にしていい?
それが成り立つならば、生後1か月くらいの新生児にも人格はないという理屈になります。
いのちは「恵み」であって、「生産物」ではないという先生の言葉は重いと感じました。

性の考察にあたって、先生は結婚という制度を論じています。
結婚とはなんでしょうか? いろいろな考え方ができるでしょう。
先生は、「自分は相手に何を与えることができるだろうか」といった誠実な心が大事であると説きます。
「誠実」という言葉は先生にとって大切なキーワードで、ぼくはこの言葉を大事に日々の診療を行なっています。

また「裁き」と「神の赦し」についても考えさせられました。「罪なきものがまず石を投げよ」という言葉は有名ですが、「人を裁くな」というイエスの言葉は今の時代にとても大切ではないでしょうか。
ツイッター(X)を見ていると、つくづくそう感じます。

先生の考え方が伝わってくる、それでいて押し付けがましくない、穏やかな作品でした。
みなさんも読んでみてください。おススメします。

『発達障害に生まれて』文庫化!2023年10月13日 19時35分20秒

『発達障害に生まれて』文庫化!
『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中公文庫)。
見本が届きました!

この本は8刷まで行き、ノンフィクションとしてはヒットでしたが、文庫化に5年かかりました。
理由は、単行本がずっと売れ続けていたからです。
文庫化を機会に手に取ってみてください。新たに「その後の5年」を加筆しています。
よろしくお願いします!

https://amzn.to/3ZXIbp4

 ↑からAmazonなどで予約できます。
発売は10月24日です。

小児かかりつけ診療2023年10月18日 22時22分16秒

日本の医療はフリーアクセスといって、どこのクリニックを受診しようが自由です。
しかし、小児医療では、「かかりつけ」という大事な働きがクリニックに求められています。
患者さんも、自分のかかりつけクリニックを受診すべきです。
また、かかりつけ医は、患者さんを「受診者の数が多い」からと言って断るべきではありません。

数年前から「小児かかりつけ診療」という制度ができました。
患者家族に書面で説明を行い、同意を得ると、かかりつけ医になります。すると、かかりつけ医としていろいろな責任が生まれます。
でも、1回の受診にあたって約300円の報酬を医師は支払基金から得ることができます。
300円というのは、途方も無い金額です。
うちのクリニックは、年間16,000人以上の患者が来ますから、これに300円をかけると、480万円以上になります。
すごいですよね。

だったら、かかりつけ医は、自分の患者をしっかり診て、また、患者も困ったことがあったらかかりつけ医を受診してほしいと思います。

なお、かかりつけ医になるにはいくつか条件があります。そのうちの一つが、夜間や休日の診療をしていることです。
みなさんご存知のように、私は体が弱いので、夜間救急や休日診療所で働いていません。
したがって、私はかかりつけ医として、特別にお金は受け取っていません。
でも、診療時間内にお見えになる患者はすべて診るようにしています。
毎日100人以上の患者さんを診ていますが、体が壊れない限りは続けようと思っています。
でも、限界を超えたときは、どうかご容赦くださいね。

執筆活動、続けます2023年10月20日 22時53分23秒

クリニックは相変わらず混雑しています。開業して18年目になりますが、こんなに患者が多い年は初めてです。
コロナ禍の影響で、あらゆる感染症が増えているからでしょう。
うちの近隣のクリニックは予約制をとっている所が多く、一定の人数で患者さんを制限しています。
すると、そうした患者さんが大挙してうちにやってくるという具合です。

医者は患者を診ることが基本なので、ぼくは可能な限り診ていますが、スタッフの負担は相当重く、時間をうまくやりくりする工夫が必要な状況です。
午前中に患者さんが殺到した場合、これ以上無理という場合は午後に来ていただくことになると思います。
かと言って、朝からあまり行列を作らないでくださいね。

はっきり言ってぼくも疲れていますが、人生の後半戦になり、ぼくは時間を無駄にしたくありません。
晩酌をするとか、書斎のソファでごろりと横になるとか、そういう時間の使い方をする余裕はありません。
ぼくの頭がシャープなのは、あと15年くらいでしょう。
それまでは(医療の)勉強もするし、本の執筆活動も続けるつもりです。
休んでいる暇なんかありません。

2023年は、3冊本が出ました(出ます)。
『患者が知らない開業医の本音』(新潮新書)
『1文が書ければ2000字の文章は書ける』(日本実業出版社)
『発達障害に生まれて』(中公文庫)10月24日発売開始。

2024年も3冊の出版が決まっています。
『開業医のリアル(仮)』(中公ラクレ)2024年2月
『奇跡の子(仮)』(新潮新書)2024年3月
『患者が医師に聞きたい30のこと(仮)』(三笠書房)2024年夏

ぼくは開業医として医師を続けないと執筆はできなし、執筆をやめたら医師も続けられなくなると思っています。
いつかクリニックを閉じるときがきますが、そのときは一気に老け込んでしまうような気がします。
ぼくは多分、休むということができない人間なんだと思います。

一生懸命働いて、一生懸命書こうと心に決めています。

10月27日(金)は休診です。2023年10月27日 07時33分44秒

連日、多数の患者さんが受診し、院長は体力の限界を越え、体調不良となりました。
10月27日(金)は、休診にします。
申し訳ありません。

子どもには学ぶ権利がある2023年10月27日 22時06分12秒

クリニックではときどき不登校の相談を受けることがあります。
ぼくは専門家ではないので、「こうしなさい」とは言いません。
しかし「個人的にはこう考えています」という話をします。

結論から言えば、学校に行けない子は、どうやっても行けません。学校まで引きずって連れて行っても何の意味もありません。
親御さんは、勉強が遅れることが心配なんだと思いますが、子どもはあとでちゃんと取り戻します。

うちには子どもが2人いますが、2人とも不登校の時期がありました。
確かに親はつらい。その気持ちはよく分かります。
子どもを学校に行かせるために怒鳴っても、喚いても、何の意味もありません。

上の子は進学校に通っていました。学習レベルが高いので、学校を休めばどんどん置いていかれるはずですが、大学受験のときには、東大選抜クラスに入っていました。
下の子は、高校にまったく行っていませんが、自学自習で国立大学に合格しました。
人生どうにかなります。

現在、学校に行っていない小中学生が30万人いるそうです。
教育は学校だけではありません。自由で、多様なものです。
義務教育という言葉がありますが、子どもは学校に行くことが義務という意味ではありません。
子どもには教育を受ける権利があるんです。
昔はなかったから、そういう決まりが作られたわけです。
そして親や地域や行政は、そうした子どもの教育を受ける権利を守る義務があるのです。

滋賀県東近江市長は、「フリースクールは国家の根幹を崩しかねない」「善良な市民は、嫌がる子どもを学校に押し込んででも義務教育を受けさせようとしている」と言ったそうです。

またこうも言っています。「不登校の大半は親の責任」
市長は謝罪の意を表しましたが、発言は撤回しないそうです。
あまりにも軽率。あまりにも無知。
不登校のことや、フリースクールのことを知らないなら黙っていればいい。
市長とか「エライ」人になると、傲慢になるという典型ですね。
悲しいですね、東近江市。
そんなところには住みたくありません。

病理医ヤンデル先生の書評2023年10月29日 10時27分24秒

病理医ヤンデル先生に、『発達障害に生まれて』の書評を婦人公論 jp. に書いていただきました。
こういう文章、ぼくには書けないし、思いつかない。
クリエイティブだし、同時にストーリーテリング。いや、才能だね。

ぜひ、ご覧になってください。

https://fujinkoron.jp/articles/-/10013

なお、『発達障害に生まれて』の販売状況は、出足順調のようです。