アクセスカウンター
アクセスカウンター

昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実(牧 久)2017年07月29日 23時21分17秒

昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実
超・力作です。
若い人はもう国鉄なんか知らないかもしれませんが、本書は国鉄が分割民営化されていく過程を描いたノンフィクションです。
では、なぜタイトルが「国鉄解体」ではなく「昭和解体」なのか?
それは国鉄が戦後昭和を象徴する強い労働組合の中心だったからです。
国鉄とはある意味、労働組合であり、労働組合とは社会党だった訳ですね。
55年体制は、体制側である自民党と労働組合の闘争でもあったと言えます。
中曽根さんは、戦後政治の総決算を掲げ、国鉄を解体しようとしました。
それは赤字体質の親方日の丸企業を解体するのと同時に、労働組合を破壊し、55年体制を打ち破ろうとした訳です。

しかし分割民営化が出来た理由は、政治家の力だけではありません。
国鉄という会社の中にも「改革派」の人間がいて、命がけで民営化に取り組んだ部分も大いにあります。
国鉄の中には「国体護持派」の人間もいて大きな対立になります。
労働組合間にも対立があり、自民党内にも対立がある。
対立と協調、妥協と裏切り、信頼と憎悪が渦巻き凄絶なドラマの末に国鉄は解体され、昭和は終わります。

一級品のノンフィクションです。

人口減少時代の土地問題 - 「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ (中公新書) 吉原 祥子2017年07月30日 22時35分31秒

人口減少時代の土地問題
タイトルと、帯の宣伝惹句はとても刺激的で面白そうだったのですが、中味はさすがに中公新書だけあって専門性の高いものでした。
超高齢化・超少子化・超人口減少化は日本という国家にとって「今そこにある危機」です。
日本という国土から人が消えていき、所有者の分からない土地がどんどん増えていくのでしょう。
あるいは、数千万の規模で外国から移民が押し寄せ、山林や田畑は外国人にどんどん買い取られてしまうのかもしれません。
いずれにしても危急存亡の秋と言えるでしょう。
これだけ大きな政治課題がありながら、憲法9条に自衛隊の存在を加えることに血道を上げるなんて、今の政権のトンチンカンぶりには呆れるしかありません。
本書を読んでも、土地問題の解決はちょっと容易ではないという印象を受けました。

がんと向き合って(上野 創)2017年07月31日 16時28分20秒

がんと向き合って
10年くらい前に読んだ本ですが、ちょっと調べたいこともあり再読しました。
幹細胞移植をやりながら2回も肺に再発し、よくぞ上野さんは生還したと思います。
ぼくは大学にいた時、200人を超える小児がんの治療をしましたが、「再発」と「死」はほとんどイコールでした。再発を乗り越えて助かったお子さんは2人しか見たことがありません。
上野さんご夫婦のがんばりもあったし、執念深く治療を続けた医師団のがんばりもあったでしょう。

それにしても、いや、当然と言うべきか、闘病を記録した筆者の文章力は見事です。さすが新聞記者ですね。
がんと向き合った頑張っている姿を知れば、勇気づけられる人も多いでしょう。
闘病記は人間の究極の姿や死生観が表現されますから、心に深く突き刺さることがあります。
本書もそうした闘病記の代表的な一作です。

追記)検索してみたら、10年前にもここで書評を書いていますね。