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ヨミドクター、連載を終えて2019年04月19日 11時05分48秒

編集長にインタビューを受けました。
2日連続で上下に分けて掲載されました。興味のある方は、ちょっと覗いてみてください。

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190415-OYTET50014/

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190415-OYTET50018/

うちのクリニックに来ている人は知っていると思いますが、僕が着ているのは、アップル社のプライドTシャツです。レインボーカラーですね。

強制不妊――旧優生保護法を問う(毎日新聞取材班)2019年04月21日 21時39分58秒

強制不妊――旧優生保護法を問う(毎日新聞取材班)
旧優生保護法により、本人の同意を得ない不妊(優生)手術が、約16500人に行われました。
同意を得た不妊手術を含めると、約25000になり、母体保護を目的にした手術まで数えると84万5000になると言われています。
この法律は1948年から1996年まで存在していました。
昭和から平成にかけての最大の人権侵害だったかもしれません。
しかしながら話が難しいのは、この事件には大勢の被害者が確実に存在する一方で、障害者の家族も手術を望んだという一面もあることです。
不妊手術を認可したり、手術をおこなった医師に対する批判も強いようですが、医師を非難してそれですべてという訳にはいきません。
政治家も問題視していなかったし、ジャーナリストもこの問題についてまったく報じてきませんでした。
ぼくの感想を書けば、当時(と言ってもつい最近ですが)の意識としては、日本人の心の中に優生思想を許容する文化があったことが最大の悲劇だと思います。

追記)4月24日、旧法から71年目にして救済法が成立しました。しかしこれによって国家賠償請求が取り下げられるわけではありません。

がん免疫療法とは何か(本庶 佑)2019年04月27日 19時46分29秒

がん免疫療法とは何か
2冊の本が元になってこの本が出来上がっていますので、ある意味では論文集の形をとっています。
したがってタイトル通りの内容を期待すると、ちょっと裏切られるかもしれません。
PD-1 に関する説明は、サイエンスに関して知識がある人が読めば理解できるでしょう。しかし一般の人には難しいと思います。
「精神と物質」(立花隆・利根川進)のように誰かライターさんがインタビューする形をとった方が絶対によかったと思います。

もう一つの柱である「いのち」を巡る論考にはうなずける部分が多々あり、さすがノーベル賞受賞サイエンティストだと思いました。
先生は大所高所からサイエンスを見ていますから、物理学と生命科学(生物学)の今の状況の違いとか、今後の生命科学の進むべき方向とか、科学研究にかける国の予算の付け方とか、納得できる主張がたくさんありました。
また、科学ジャーナリストに対する、あるいはそのレベルに達していないメディアに対する批判も実に的を射ていると感じました。
STAP細胞捏造事件も、HPVワクチンの事実上中止もメディアの責任が大きいと先生は厳しく論じています。

先生は忙しくて本を書いている時間なんてないと思いますが、過去の文章の論文集ではなく、書き下ろしで一つの世界観を語ってくれたら、もっと素晴らしい作品がレガシーとして残るのに・・・と強く思いました。

安楽死・尊厳死の現在-最終段階の医療と自己決定 (中公新書) 松田 純2019年04月29日 21時43分58秒

安楽死・尊厳死の現在
安楽死・尊厳死について書かれた本です。最初は世界の中で、安楽死がどのように行われているかを紹介する作品と思って読み始めました。
ま、ぼくも一応医者なので、その辺の知識は持っていました。
しかしその記述は精密で、豊富なデータを図表を交えて解説してくれました。

ぼくは大学病院に勤務していた時、100人くらいの子どもの死に立ち会っています。
大人の医療をやっていれば、死に立ち会うのは当然で、外科医などは「手術した数だけ死に立ち会う」と言われた時代もありました。
けれども、子どもの死というものは、あってはならないものです。
年端のいかない幼な子が命を失うのは悲劇としか言いようがありません。

では、子どもが死ぬとき、ぼくらは何をするのでしょうか?
それは大変微妙な話で軽々にここでは書くことはできません。
ただ、必ず心がけていることは
① 痛みを除いてやること
② 残酷な延命はしないこと
③ そしてそれを家族全員が納得して望んでいること
です。子どもの死を看取るということは、小児医療の中で最も医者の総合的な実力が問われる瞬間かもしれません。
消極的安楽死とか尊厳死とかいう言葉がありますが、ぼくはそういう言葉の定義がどうというよりも、子どもの最期の瞬間に、子どものために集まってきた家族全員が心安らかになるよう最大限の力を注いだと言えます。

さて、本書に話を戻すと、安楽死の問題は、常に患者の権利を脅かす危険と背中合わせであることを警告しています。
つまり優生思想との関係性を避けて論じることはできないというわけです。
話は必然的に社会ダーウィニズムに進んで行くのですが、ダーウィンは優生思想にある一定の理解を示しながらも、倫理の進化が人間を今日に導いていると考えます。
つまり、体力とか知力に優れた者が「自然選択」あるいは「淘汰」されると単純には考えず、仲間に対して共感する力や道徳的感情を持っている人間の集団の方が、「適者生存」すると指摘しているのです。
ぼくもまったくその通りだと思います。このダーウィンの考え方はもっともっと強調されてもいいはずです。

いい本ですので、オススメします。