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安楽死・尊厳死の現在-最終段階の医療と自己決定 (中公新書) 松田 純2019年04月29日 21時43分58秒

安楽死・尊厳死の現在
安楽死・尊厳死について書かれた本です。最初は世界の中で、安楽死がどのように行われているかを紹介する作品と思って読み始めました。
ま、ぼくも一応医者なので、その辺の知識は持っていました。
しかしその記述は精密で、豊富なデータを図表を交えて解説してくれました。

ぼくは大学病院に勤務していた時、100人くらいの子どもの死に立ち会っています。
大人の医療をやっていれば、死に立ち会うのは当然で、外科医などは「手術した数だけ死に立ち会う」と言われた時代もありました。
けれども、子どもの死というものは、あってはならないものです。
年端のいかない幼な子が命を失うのは悲劇としか言いようがありません。

では、子どもが死ぬとき、ぼくらは何をするのでしょうか?
それは大変微妙な話で軽々にここでは書くことはできません。
ただ、必ず心がけていることは
① 痛みを除いてやること
② 残酷な延命はしないこと
③ そしてそれを家族全員が納得して望んでいること
です。子どもの死を看取るということは、小児医療の中で最も医者の総合的な実力が問われる瞬間かもしれません。
消極的安楽死とか尊厳死とかいう言葉がありますが、ぼくはそういう言葉の定義がどうというよりも、子どもの最期の瞬間に、子どものために集まってきた家族全員が心安らかになるよう最大限の力を注いだと言えます。

さて、本書に話を戻すと、安楽死の問題は、常に患者の権利を脅かす危険と背中合わせであることを警告しています。
つまり優生思想との関係性を避けて論じることはできないというわけです。
話は必然的に社会ダーウィニズムに進んで行くのですが、ダーウィンは優生思想にある一定の理解を示しながらも、倫理の進化が人間を今日に導いていると考えます。
つまり、体力とか知力に優れた者が「自然選択」あるいは「淘汰」されると単純には考えず、仲間に対して共感する力や道徳的感情を持っている人間の集団の方が、「適者生存」すると指摘しているのです。
ぼくもまったくその通りだと思います。このダーウィンの考え方はもっともっと強調されてもいいはずです。

いい本ですので、オススメします。