アクセスカウンター
アクセスカウンター

忘れられない患者さん―名医たちが語る統合失調症とは2018年07月31日 22時57分30秒

忘れられない患者さん―名医たちが語る統合失調症とは
32人の高名な精神科医が、統合失調症の忘れられない患者さんについて語ったものをまとめた本です。
大変興味深く一気に読んでしまいました。
専門書ではないので、この本を読んでも統合失調症の理解が深まるということはありません。しかし本疾患が実に難しい病気であることが分かります。そしてこうした病気に向き合う精神科医という仕事がいかに大変か深く理解することができました。
なお、この本には佐藤先生という千葉大の元精神科教授が登場し、大変懐かしい思いに駆られました。

ぼくが医師を志した理由は精神科医になりたかったからです。結局は違う方向へ進んでしまいましたが、今でも精神医学には強い関心があります。自分でも決して向いていないとは思っていません。

佐藤先生が教授だったとき、ポリクリという外来実習がありました。ぼくは初老の男性患者から問診を取るように言われました。その患者さんはうつ病でした。
会話は大変困難で、その方はじっとうつむいています。学生だったぼくが「お名前は?」と質問すると、顔を上げるだけで1分くらいかかり、返事をするのに1分、またゆっくりとうつむくのに1分かかるという具合でした。
それでもぼくは丁寧に質問を重ね、カルテを佐藤教授に提出しました。
佐藤先生はびっくりしてしまいました。
「君はよく話が聞けたね! あの患者さんは、抑うつ性昏迷という状態だよ。普通は会話なんてできないんだよ」

また、ベッドサイドラーニングでも思い出深いことがありました。
実習が始まり、ぼくたちのグループは2週目に精神科を回りました。最終日の教官の査問のときに、
「それぞれの受け持ちの医師がとっておきの患者を2週目に当てたみたいだね。すごい患者ばかりだよ。君たちはよくここまで患者と会話してレポートをまとめたね!」と感嘆していました。
ぼくが当たった患者さんは、中年の女性。
「ヒステリー性てんかん」という教科書には記載の無い疾患でした。
この患者さんのカルテを読むと、主治医と患者の会話が、「 」でくくられて延々と記載されているのです。まるで文学作品を読んでいるような感覚にとらわれました。不謹慎な言い方かもしれませんが、引き込まれるようにして読みました。
同じグループの蓑島君(今、ユタ大学で放射線科の教授)には、統合失調症の少女が当てられました。中学生くらいだったような記憶があります。
精神科病棟は母子センターの並びにあって、出入り口は鍵がかけられるようになっていました。
この少女は、解錠した隙に何度も脱走してしまう子でした。
あの子は、病気を治すことができたのでしょうか?
今から30年以上前ですから、薬物療法もまだまだ発展途上だったと思います。

1週間の実習の間に行った千葉県精神科医療センターも忘れられません。ノンフィクション作家の野村進さんが描いた病院ですね。
病棟を進んでいくと、ある女性が個室の中から大きな声でくり返しぼくらを呼び止めました。何度も何度もです。あとで指導教官に聞いたら、その女性は躁病とのことでした。
また隔離部屋も見せてもらいました。四方の壁がマットで出来ていて、自傷できないようになっているのです。
前日まで統合失調症のキックボクサーが入っていて、「なかなか手こずった」と先生は言っておられました。

精神科の実習には思い出がいっぱいです。
では、どうして精神科に進まなかったのか?
決して興味を失った訳ではありません。自分の手で治せるという自信を持つことができなかったからかもしれません。
結局ぼくは小児がんに興味を持ち、自分の手で小児がんを治したいと考え、小児外科医になりました。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック