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「看取り先生の遺言 がんで安らかな最期を迎えるために」(文藝春秋)奥野 修司2013年02月09日 21時41分16秒

看取り先生の遺言 がんで安らかな最期を迎えるために
以前に読んだ奥野さんの「満足死」という本が大変面白かったので、この本を読んでみました。
在宅でがんを看取る医師が、末期がんとなり、「遺言」という形の一人語りで本書はできています。

個人的な体験が多く語られているのかと期待して読みましたが、前半の方は、啓蒙書のようになっていました。
当然かもしれません。
だけどそういう部分はぼくにとっては、十二分に知り尽くしていることなので、個人的には面白いとは言えませんでした。
ま、それはしかたありません。

看取りの先生が、大変素晴らしい先生だったことはこの本を読むとよく分かるのですが、ほかの在宅医療をおこなっている医者をバカとかヤブという言葉で批判するのはちょっとどうかと思います。
ブログならともかく、こういった立派な書物で、それも「遺言」と銘打った本でそういう悪罵は本の品格を落とすように思えます。

この本を読んだ在宅医療医は不愉快に感じるだろうし、一般の患者さんも、在宅医療に不安を感じてしまうのではないでしょうか。
つまり名医は、この先生一人だけとなってしまいます。
それは事実かもしれませんが、そういう「遺言」を聞く私たちは、一体どこへ行ってどういう終末を迎えればいいのでしょうか。
おそらくその答えは、奥野さんが今後も著作を通じて私たちに示してくれるのでしょう。

最もよかったのはやはり最終章。
看取りの先生が死への準備に入る場面を奥野さんが日記風に綴っていきます。
ここでの描写は極めて個人的な体験で、まさにぼくが読みたい部分でした。
死というのは人との和解を促すのでしょうか?
ぼくの人生には仲違いをした人間が何人もいますが、ぼくは死を前にしてそういった人たちを許すことができるのでしょうか。
それは分かりません。
死を目前にして「お迎え」が来て欲しいとも思わない。
家内と娘の顔さえ見ることができれば、あとは何も要りません。
そういうことをじっくりと考えさせる最終章でした。

これからも奥野さんの作品を読み続けると思います。
在宅医療での看取りに関心のある方は手にとってみてください。