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ユニクロ潜入一年(横田 増生)2017年11月12日 15時46分06秒

ユニクロ潜入一年(横田 増生)
潜入ルポというのは、ノンフィクション文学の王道の一つです。
鎌田慧さんの「自動車絶望工場」などは、ノンフィクション史に輝く金字塔ですよね。さて今回の「ユニクロ潜入一年」は、タイトル通り、アルバイトとしてユニクロで働き、その内情を記録した作品です。

巻頭、著者はこの本の執筆の動機を「怒り」だと説明しています。
僕はそれを読んで危ういなと思いました。
ノンフィクションをどう書くかというのは、作家によって考え方に違いがありますが、僕は喜怒哀楽を持ち込んではいけないと考えています。
情緒は捨てる。そして事実だけを提示する。
作家が怒るのではなくて、事実を示すことによって、読者の心の中に怒りの感情を呼び起こす、これがノンフィクションだと僕は考える訳です。
そういう意味で、あまり期待しないで読みました。
ところがその期待はまったく違った方向へ裏切られました。
とても面白いんです。

アルバイト生活を淡々とルポとして描く方法もあったと思うのですが、所々で横田さんの感情や評論が入って来る。その加減が絶妙で、読者を飽きさせないんですね。大変文章がうまく、物語る力が優れていると感じました。

ユニクロを描くことで、この資本主義社会で儲けるという構造を見事に描いたと思います。
柳井社長が社員に向かって、「〜〜して頂きたい」という言い方で、方法を自分で示さず、結果だけを求める威圧的な姿勢は大変興味深く感じました。
大学病院の教授も非常に威圧的に命令を下しますが、さすがにもう少し具体的な命令をしていました。

さて、この本の冒頭に横田さんが解雇される場面が出てきますが、これは最後に持っていくべきだったのではないでしょうか?
映画ではないので、やり過ぎだと思います。
ルポルタージュならそれらしく、時系列は守って欲しかったです。

しかしながら、そうした欠点があったとしても本作は傑作であることに間違いありません。
オススメです。