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原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年 (堀川 惠子)2016年04月20日 14時37分39秒

原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年
死刑に関するノンフィクションを書いてきた堀川 惠子さんの新作です。
テーマは広島・原爆供養塔の中の、引き取り手のない遺骨です。
一般にノンフィクションには起承転結がありませんが、それでも全体に流れがあるものです。
本作は、起承転結や序破急みたいな展開がほとんどない構成になっています。
ところがそれでも立派な作品に仕上がっているのはなぜでしょうか?
それは堀川 惠子さんが、稀代のストーリーテラーだからだと思います。
仰々しく物語る訳ではありません。むしろ淡々と物語る。
一見地味に見えますが、彼女の書く文章は相当うまいと思います。
十分に裏付けされた取材に支えられていることは、誰もが指摘することですので、取材の分厚さについては何も触れません。
ただ、違う表現をすれば、これだけの素材を与えられても、同じような作品を作れる(書ける)作家はめったにいないのではないでしょうか?
(少なくとも僕には書けない)

日本には5つのノンフィクション賞があります。
そのうち、刊行された書籍に対して賞が与えられるのは、大宅賞・講談社NF賞・新潮ドキュメント賞の3つ。
本書で大宅賞を受賞した堀川さんは、すでに講談社NF賞と新潮ドキュメント賞を受賞しています。
日本のノンフィクション作家で、この3つを取った人は彼女だけです。
ノンフィクション界の三冠王といったところです。
すごい才能ですね。

貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策 (光文社新書) 山本 佳奈2016年04月20日 17時26分32秒

貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策
医者になって1年の人が、これだけ充実した本を書いたことにまず驚きます。
データの集め方、整理のしかた、文章の書き方、すべてが高いレベルです。
よっぽど才能のある人なのでしょう。
若者の手によるこうした充実した本には滅多に出会えるものではありません。
鉄欠乏性貧血に関して、僕も知らないことが多々ありました。

ただ敢えて私見を書くのであれば、「貧血」の定義が先にありきで話が進み過ぎているきらいがあると感じました。
不定愁訴に悩む人がいる→検査で鉄欠乏性貧血と判明→鉄剤投与→元気になった・・・
ならば納得できます。しかし、ヘモグロビンの濃度によって「貧血」の定義が決められていて、臨床症状がまったく無い人の慢性鉄欠乏を過大視するのは、ややセンセーショナリズムに傾いている気がします。

貧血の妊婦から、重い後遺症を持った赤ちゃんが生まれる、などという一文は大変深刻ですが、一体、どの程度の貧血の母親からどういった障害児が、年に何人くらい生まれているのでしょうか?

僕のクリニックには1年間に2万人弱の患者さんが来院しますが、「動悸・息切れ・易疲労感・顔色不良」などを訴えて来る人は、年間に1人いるかいないかです。
鉄剤の投与は稀におこないますが、その全ては、総合病院の小児科に肺炎などで入院した子どもが検査によって偶然、鉄欠乏が見つかったケースです。
つまり治療を要する鉄欠乏貧血にはめったに出会いません。

おそらく、貧血が問題になるのは、筆者自身が経験したように、若い女性のダイエットと、ごく一部の妊婦だと思います。
本のタイトルは編集部が付けるものですから、著者の責任ではありませんが、「放置されてきた国民病」というのは、かつての「結核」や現在の「がん」ではないのですからちょっと煽りすぎと思います。

鉄欠乏の解決は結局は食事になるのですが、要は偏食をせずバランスよく食べなさいと書かれています。
しかし、子どもは偏食なんです。
3人に1人は野菜嫌いです。そして偏食を治す方法はありません。
成長に従って自然と野菜は食べられるようになります。
野菜嫌いの子を持つ母にはきつい本だと思います。

サプリもどういう位置づけなのか、ちょっとわかりにくかった。
ま、誰にもわからない、というのが正解なのかもしれませんが。

ちなみに本書には「余談」が多々挿入されており、それがまた面白かった。
知識が豊富ですね。
で、若い。すばらしいですね。