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トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書) 山本 紀夫2016年04月03日 15時11分03秒

トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」
世界史であると共に文化史でした。
まさに All About the トウガラシ。

大変面白く読むことが出来ました。
サトウキビを発見した人は、その味の魅力をすぐに理解出来たと思います。
だって甘いんだから。
ぼくは「甘い物」が好きではありませんが、甘味の魅力はちゃんと分かっているつもりです。
トウガラシは辛かったので、その魅力(あるいは無害であること)に気付くまでは少し時間がかかったでしょうね。
しかし理解できてしまえば、「病みつき」になります。
砂糖に「病みつき」になる人は稀でも、辛さの虜になる人はたくさんいます。

辛いという舌の感覚はないとは知りませんでした。(前に勉強したはずですが、忘れました)
辛いのではなく、痛いのですね。
このカウンターパーツとしてエンドルフィン(脳内モルヒネ)が分泌され、快感に変わる訳ですね。

ですが、日本では七味唐辛子の一味を構成しているだけで、あくまでも脇役です。世界によってこれだけ使われ方が違うとは、本当に不思議ですね。

トウガラシだけで1冊の本を書ける筆者の力量も大したものです。

現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病 (ブルーバックス) 岸本 忠三, 中嶋 彰2016年04月03日 22時45分47秒

現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病
今日はこういう本も読みました。
第2章に「制御性T細胞」の話が出てきます。
この細胞について語るには、「抑制性(サプレッサー)T細胞」について触れない訳にはいきません。
「抑制性T細胞」の概念を提唱したのが多田富雄先生。
この研究は、千葉大の谷口教授に引き継がれました。

ぼくが大学院に進学したのが1989年。この時にはもう、谷口先生は「抑制性T細胞」という言葉は使っていませんでした。
そういう細胞はおそらく存在せず、ただ、「抑制因子」は存在すると考えていたようです。

そしてその抑制因子を何年もかけてクローニングしたところ、免疫現象とは関係のないマウスのがん抗原が取れたと、ぼくは理解しています。
今日では、「抑制性T細胞」などは存在しないとみんなが考えていることは本書でも書かれている通りです。

あの頃、他大学の先生から「千葉大の免疫グループの先生はノーベル賞を取るのでは?」などと聞かれ、クローニングの結果を知っていた僕は答えに窮したものです。

サイエンスとはこういうものです。
最高の頭脳を持った人たちが何年もの時間をかけて、何億というお金をかけてもすべて無駄ということもあり得る訳です。
現在の政府は、役に立たない文系の大学を縮小して、役に立つ理系に重点的に予算を配分しようとしているように見えますが、そんなことをすれば、「捨てるお金」もまた増大します。

世界は驚きに「満ちていない」?2016年04月05日 22時39分08秒

ウイルスがわかる
講談社ブルーバックスの編集者とメールで話をしているうちに、今の出版苦境の理由がなんとなくわかったような気がしました。
非常に大ざっぱなことを言えば、ノンフィクション(新書や実用本を含む)に関しては「驚く」ようなことは、もう書き尽くされてしまったのでは? という気がします。
ブルーバックスはこれまでの長い歴史で2000点を超える作品を世に送り出したそうです。
しかし、テーマが「科学」と決まっていますので、「大きな」ことはすべて書いてしまった。
すると隙間(ニッチ)を埋めるようなサイエンス・テーマを追い求めていく。
ニッチですから、読者も多くない。
小ヒットはしてもベストセラーにはなりにくいということです。

確かにそうかもしれない。
「銃・病原体・鉄」を初めて読んだ時は感激したものです。
しかしその後、「感染症」と「世界史」の関連を述べた本がたくさんあると知って、あの感激はだんだん薄れてしまいました。
ものすごく「重要」で、「大きな」ことで、なおかつ誰もまだ書いていないテーマなど存在しないのかもしれません。

講談社は新書・実用本を残してルポルタージュなどのノンフィクションから撤退してしまいました。
小学館ノンフィクション大賞も、今年度から賞金が減額になるようです。規模縮小ですね。
ぼくの大賞受賞作が大して売れていないことも遠因ならば、小学館さん、ごめんなさい。

「大きな」テーマで、みんなが「驚く」ことってなんでしょう?
案外、灯台もと暗しで、実は身近な所に存在しているのかもしれませんね。
それを何とか見つけてみたいものですが、難しそうです。

なお、近い将来、絶対に新書で扱われるテーマをお教えしましょう。
それは「ゲノム編集」です。
この技術がどういうものか、説明し始めるときりがなくなるのでやめておきますが、「ゲノム編集」は、iPS細胞なみのインパクトがあると思います。

写真は、ぼくの恩師の先生が書いた講談社ブルーバックスの「ウイルスがわかる」。
ぼくはこの本に触発されて執筆活動を始めたのでした。
「小児外科がわかる」というタイトルで、本を書かせてくれる出版社はないでしょうか? ま、ないか。

超少子化: 異次元の処方箋 (ポプラ新書) NHKスペシャル「私たちのこれから」取材班2016年04月08日 20時08分36秒

超少子化: 異次元の処方箋
日本は超少子化の時代に突入しました。

このままではどのようなことが起きるか誰でも知っています。
そしてそれを解決するにはどうしたらいいか、だいたいの人が知っています。
ところが不思議なことに、どの政治家もそのことを口にしません。
なぜでしょう?
それは日本の政治家にビジョンがないからでしょう。
いや、あるのかもしれないけど、目先の票にならないことは口にしないということでしょう。

このままでは日本は沈没します。
あと3世代入れ替わると、およそ100年が経ちます。
その頃には、日本は経済力だけでなく文化や芸術などで(だってそれらは経済的な裏付けにささえられていますので)、二流国に転落しているでしょう。

その時に日本人は最後の底力を示すのでしょうか?
それともずるずると没落するのでしょうか?

池田内閣の時に日本は高度成長の道をひたすら走り続けました。
しかしその時代に、未来を見通す政治家はいなかった。
そういう官僚もいなかった。
いたのかもしれないけど、決して主流にはなれなかった訳です。
あの時代にすべての準備をしていれば、日本には永遠の繁栄があったはずです。

しかし、日本人は所得倍増に酔い、負担をすることを嫌った。
いや、国のリーダーが負担をお願いすれば、あの時代ならば、国民は応じたかもしれません。
しかしその後、日本はオイルショックから狂乱物価の時代へ入り、バブルを経て完全に疲弊国家になっていしまいました。
小泉さんの新自由主義がそれに拍車をかけました。
このまま崩れ落ちてしまう可能性はけっこう高いのではないでしょうか?
お先真っ暗です。

未婚当然時代: シングルたちの“絆"のゆくえ (ポプラ新書) にらさわ あきこ2016年04月09日 17時54分58秒

未婚当然時代: シングルたちの“絆"のゆくえ
結婚しない人が増えたことと、超少子化は当然関係します。
現在、30歳代の男性の20%、女性の10%は未婚です。なぜでしょうか?


ま、もちろん理由はたくさんあるのですが、最大の理由は女性の社会進出でしょう。
日本の場合、女性の社会進出が、仕事を取るか、家庭を取るかの二者択一になってしまっているように感じます。
女性が社会に出ていく分、男性が家庭を守らなくてはいけないのですが、男性も仕事から手を引かない。
結局、家庭を形成できない訳ですね。

結婚して子どもをもうけたところで、やがて子どもは出て行くし、夫婦も必ずどちらかが先に死ぬので、誰でも最後は一人という醒めた意見もあります。
人間にとって一番煩わしい存在は人間なので、一人で生きていく方が楽だという意見もあります。
そういう考え方もわかりますが、やはり人は絆を求める生き物でしょう。
いろいろな価値観があることを否定するものではありませんが。

昭和の時代と比べて現代では、仕事が高度化しましたので、社会人になって一応一人前になるのに、以前より時間がかかると思います。
従ってそれだけでも社会全体が晩婚化する気がします。
晩婚化すると、勢いで結婚するパターンが減りますから、考えすぎて結婚できない人が増えてしまうのではないでしょうか?
それも未婚率の上昇に関係あるでしょうね。

結婚とか家族という社会形態を否定的に評価する人もいますが、ぼくなんか古い人間だからなのか、自分が労働するのは、家族のためという思いがけっこうあります。
やはりこれも死語ですが、昭和の時代にはモーレツ社員という言葉が流行しました。
ぼくの大学卒業以降はずっとモーレツ社員の働き方だなと感じます。
ま、団塊の世代ほどではないにしても、そういう世代の人間の働き方を見て育った人間としては、そうならざるを得なかったのでしょう。
開業医になってかなりマシになりましたが、大学病院に勤務していた頃はかなり無理がありましたね。
あれでよく結婚できたものです。

ぼくの先輩医師が言っていました。「一度は結婚するものだよ」。
ぼくもそう思います。

ウイルスは生きている (講談社現代新書) 中屋敷 均2016年04月10日 21時31分04秒

ウイルスは生きている (講談社現代新書)
テーマはジェネラルですが、内容はかなり専門的で細かいことが多かったと思います。
ウイルスが生きているかどうかは定義によりますが、筆者の主張しようとしていることは大変よく理解できます。

ぼくの恩師の恩師である川喜多愛郎先生は、ウイルスを「生物と無生物の間」(岩波新書・1956年)と表現しました。
ぼくは川喜多先生の弟子ですので、あえてウイルスを「生き物」とは言わないことにしています。

さて、教養本とは難しいもので、どこまで詳しく書くかが問題になります。
高校生が授業で学ぶことを書けば、レベルが低いと見下されますし、自分が研究している最先端科学の話をすれば、細かすぎると非難されます。
最近の高校生物学のレベルは相当高く、そのへんの新書よりも難しいことが書いてあったりします。
ですから、高校生レベルプラスアルファくらいのところをおさえて書かないと良い本にはならないでしょう。

そういう意味でこの本は、物語る部分はしっかりと物語って、説明すべきところでは丁寧に説明していました。
ぼく自身知らない内容も多々ありましたので、とても勉強になりました。
薄い本ですが内容が濃く、意欲的な作品として成功していると思います。

本書の内容には関係ありませんが、最近どうもブルーバックスと現代新書の色分けがわからなくなっています。
数年前ならば、本書は明らかにブルーバックスから出ていたと思います。
なぜでしょうか。何か理由でもあるのでしょうか。
それから、現代新書はかつて、クリーム色のカバーで、背表紙に小さなイラストが付いていました。
今はものすごくシンプルになってしまいましたが、ぼくはあの装丁が大好きでした。
コスト削減のためなのかな? 本好きとしてはかなり残念です。

ももクロを聴け! ももいろクローバーZ 全134曲 完全解説 (堀埜 浩二 )2016年04月16日 22時40分22秒

ももクロを聴け! ももいろクローバーZ 全134曲 完全解説
タイトル通りの本です。
しかし単なるアイドルのミーハー本ではありません。
楽曲のキーやコード進行などを細かく説明しており、ぼくのように専門知識のない読者には理解不能な部分が多々あります。
本のタイトルはもちろん、中山康樹さんの「マイルスを聴け!」のオマージュになっており、そういった高いレベルの本作りになっています。

で、同時に筆者はプロレスとかK1 を愛していて、そういうことが強く伝わってきます。
また、キング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」なんていう曲について言及するあたりはぼくと趣味が完全に同じで、思わず「うん、うん」とうなずいてしまいます。

この本の中で、筆者は「ももクロは一人ひとりの声が個性的」みたいな主張がありました。
ぼくも以前からそう思っていましたが、ほかのアイドルの歌を聴いた経験がほとんど無いので、ぼくはそういう発言はしないようにしていました。
あ、だけどぼくの直感は正しかったのですね。

最新作「アマランサス」「白金の夜明け」を聴くと、百田夏菜子さんの声が本当に可愛らしいことに感動さえおぼえます。
134曲を分析されてしかるべきアーティストだと思います。
ファンの方は読んだ方が良いと思います。オススメです。

クジラは潮を吹いていた。 (佐藤 卓 )2016年04月17日 15時09分54秒

クジラは潮を吹いていた。
楽しくて面白くて一気に読みました。
一流のグラフィック・デザイナーが手の内を明かすのですから、面白くないはずがありません。
佐藤さんの傑作は多々あって書ききれませんが、やはりロッテ・クールミントガムの独創力が最上位にくるのではと思わせます。

こういった芸術家はつねに「職業」としてアウトプットを求められます。
そのためには、何よりもインプットの量と種類が重要になってきます。
あるいは人脈みたいなものも大事かもしれません。

黒澤明は「創造とは記憶だ」と本質を表現しました。
ソ連から映画の共同製作を提案されたとき、国際的にはまったく無名な「デルス・ウザーラ」の原作を持ち出して関係者を驚かせたのは有名な逸話です。

「真似るのは二流、盗むのは一流」とピカソは言い、その言葉に心酔したスティーブ・ジョブスは「盗み」続けた訳です。
「盗む」という言葉の真髄をここで誤解しないで下さいね。

音楽・美術がなくても人は生きていけます。
物理的に。
そころが、精神的には、人は音楽・美術なしに生きていくことはできません。
ぼくがやっている医業とは、ある意味究極の実業で、これ以上ないくらい野暮ったい仕事と言えるかもしれません。
そういう意味で言うと、音楽や美術という虚業で生活している人は、人間社会にあって最高の文化人と言えるでしょう。
ただ原始社会には、医術も芸術も存在したんですよね。
それが人間の面白さでしょう。

デザイナーという「職業」。
いいですね。憧れます。

禅の教室 坐禅でつかむ仏教の真髄 (中公新書) 藤田 一照, 伊藤 比呂美2016年04月19日 20時23分28秒

禅の教室 坐禅でつかむ仏教の真髄 (中公新書)
本はたいていAmazonでレビューなどを参考にしながら購入するのですが、この本は店頭でなんとなく手に取りました。
「禅」という言葉や、姿を知らない人はいないでしょう。
しかし、「禅」がなんのために存在するか知っている人は稀でしょう。

考えてみれば不思議な話で、キリスト教やイスラム教は、聖書やコーランに、イエスやムハンマドの教えが記されている訳です。
つまり答えが書いてある。
仏教にも仏典があるのですが、「禅」という行為を通じてシッダルダが悟ったことを追体験する。
なんかハードルの高い宗教ですよね。

この本を読んで、新たに知ったことが多々ありましたが、難しくて理解できないことも多々ありました。
念仏さえ唱えれば極楽浄土へ行けるという教えもありますが、仏教の真髄は禅にあるという思想もまた不思議で面白いと思います。

かなり専門的な作品ですが、興味のある方はぜひどうぞ。

原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年 (堀川 惠子)2016年04月20日 14時37分39秒

原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年
死刑に関するノンフィクションを書いてきた堀川 惠子さんの新作です。
テーマは広島・原爆供養塔の中の、引き取り手のない遺骨です。
一般にノンフィクションには起承転結がありませんが、それでも全体に流れがあるものです。
本作は、起承転結や序破急みたいな展開がほとんどない構成になっています。
ところがそれでも立派な作品に仕上がっているのはなぜでしょうか?
それは堀川 惠子さんが、稀代のストーリーテラーだからだと思います。
仰々しく物語る訳ではありません。むしろ淡々と物語る。
一見地味に見えますが、彼女の書く文章は相当うまいと思います。
十分に裏付けされた取材に支えられていることは、誰もが指摘することですので、取材の分厚さについては何も触れません。
ただ、違う表現をすれば、これだけの素材を与えられても、同じような作品を作れる(書ける)作家はめったにいないのではないでしょうか?
(少なくとも僕には書けない)

日本には5つのノンフィクション賞があります。
そのうち、刊行された書籍に対して賞が与えられるのは、大宅賞・講談社NF賞・新潮ドキュメント賞の3つ。
本書で大宅賞を受賞した堀川さんは、すでに講談社NF賞と新潮ドキュメント賞を受賞しています。
日本のノンフィクション作家で、この3つを取った人は彼女だけです。
ノンフィクション界の三冠王といったところです。
すごい才能ですね。