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医者のための「よく分かる解説」2009年01月16日 21時03分19秒

「ザ!世界仰天ニュース」が放送されてもう1週間以上が経ちました。
いまだに、患者さんから「観ましたよ! 感動しました!」と声がかかります。

一般の皆さんには高い評価のこの麻衣ちゃんの闘病の物語りは、実は医者が観てもあまり感動しないのではないかと僕は思ったりします。
と言うのは、摘出不可能な小児がんを、化学療法で小さくして、それから手術で取り除くって、まあ、言ってみれば普通の医療だからです。

しかし!
この麻衣ちゃんの医療が今から14年前ということを考えて欲しいのです。
そこで、ちょっと自慢になりますが、なぜ、麻衣ちゃんの治療が良い治療と言えるか、医者のために解説しましょう。

まず、14年前というのは、未分化胚細胞腫に対する抗がん剤治療のスタンダードはありませんでした。
ま、強いて上げれば、VAB6療法。
千葉大小児外科でもVAB6療法でした。
これは5種類の抗がん剤を大量に使います。
その回数も何回やって終わり、、、という明確な基準がありません。
また、この当時、未分化胚細胞腫と言えば、放射線治療を行なうことが常識でした。

しかし、VAB6に加えて放射線療法を行なえば、ほぼ間違いなく麻衣ちゃんは不妊になります。
そこで、文献を当たった訳です。

インターネットが無い時代ですよ。
現在なら、PubMedで検索します。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/
キーワードを入れれば、世界中の文献が出てきます。
ジャーナルによっては、オンラインで中味を読むこともできます。
しかし、14年前はそんなもんはありません。
雑誌を過去にさかのぼってひたすらひっくり返して読むのです。

そこで見つけたのが、BEP療法。
欧米で行われている当時の最新の化学療法でした。
何が良いって、抗がん剤の量が少ない。
放射線療法も不要。
で、手術が終わって腫瘍マーカーが正常ならば、2回治療を追加しただけでさっさと治療を終了にしてしまう。

これだ! と思いました。
そしてその治療方法は絵に描いたようにうまくいきました。

現在ではBEP療法の名前を知らない小児がん治療医は日本に一人もいないでしょう。
でも14年前にそれを知っていたのは、日本では僕を含めて2-3人だけだったはずです。

つまり麻衣ちゃんは、その当時、日本で最もレベルの高い治療を沼津市立病院で受けた訳です。

ある人は、麻衣ちゃんが2人も子どもを授かったのは奇跡と言うかもしれません。
でも、それは起こるべくして起こった奇跡だったのです。