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安楽死を遂げるまで(宮下 洋一)2018年01月27日 17時04分52秒

安楽死を遂げるまで
この出版不況の状況下で、小学館からハードカバーで本を出せるのですから羨ましいとしか言いようがありません。
しかし本書は、必ず売れるという期待を背負って上梓されたのでしょう。そして実際にベストセラーになっていますので、実に見事です。こうした作品によってノンフィクション界が盛り上がって欲しいものです。

この作品は、世界の「自殺幇助」や「安楽死」を法律として認めた国・州を取材して多くの声を集めています。
もっとも優れているのは冒頭の場面で、筆者の目の前で患者が医者の手助けで自死するシーンは衝撃的です。

宮下さんのアドバンテージは、若さによる行動力と、海外に拠点を置く語学力による取材の分厚さにあると言えるでしょう。
しかしながら若さは武器になる反面、自分の死をまだ具体的に意識しえないことから、こうした作品を物語る際に、弱点にもなり得ます。宮下さんがあと15年後に(つまり僕と同じ年齢で)同じ作品を書いたら、また違った語り口になるのではないでしょうか?

医者にとって安楽死とは大変微妙なテーマです。ぼくも100人くらいの子どもの死に立ち会ってきました。
その中には、最後の瞬間まで心臓マッサージをしたお子さんもいますし、何もしないでその時を待った子もいます。そして安楽死とは言いませんが、命の長さよりも、痛みを取ることを優先したお子さんもいます。
ちなみに、子どもの死に際してご家族と揉めたことは一度もありません。

医療の基本の一つは「痛みを除く」ことですから、死を安楽に迎えることは、医道の基本に背いていません。
また、「命を助ける」ことも医療の大きな基本です。ですので、自死を手伝うなんて倫理観が麻痺した医師のやることです。
外科医は10、15年と修行を積んで一人前の医師を目指します。一方で、自殺幇助なんて医者になって1年もすれば実施可能な手技です。それを職業にする医者というのは、ちょっと悲しいと思います。

本書で一番期待したのは、最終章「日本の安楽死」です。しかし予測通り関係者の口は重く、充実したレポートにはなっていません。ある関係者は「書くな」と発言していましたが、筆書は会話を書いています。
僕はノンフィクションを仕上げるとき、基本的に取材対象者に原稿を読んでもらってOKをもらいます。
相手が権力者ならそれは不要と考えますが、本書のケースはどうなんでしょうか?

いろいろな議論の素材になる一作です。
尊厳死については割愛したとのことですが、いずれまたの機会に読むことができれば嬉しいです。