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基礎からわかる 論文の書き方(小熊 英二)2022年06月12日 22時18分00秒

基礎からわかる 論文の書き方 (講談社現代新書)
ぼくは小熊さんの本をあまり読んだ経験がないのですが、『生きて帰ってきた男』(岩波新書)があまりにも面白かったので、本書にも手を伸ばしてみました。
そうか。論文ってこう書くのか。全然知りませんでした。
いや、もちろんそれは文系の論文の話です。
医学部には卒業論文はありませんので、こういう大著の論文を書いた経験はぼくにはありません。
医者は一応、科学者なので、英語で科学論文を書きます。
『Cell』のように長い論文を採択する雑誌もありますが、一般に科学論文なんて数ページなんです。

本書でもIMRADという言葉が出てきますが、科学論文の組み立ては実に簡単。
ぼくが最初に書いた論文はこんな感じでした。

Introduction プロトオンコジーンの研究が進み、神経の分化に関与するいくつかの遺伝子がみつかった。神経芽腫は1歳未満で発見されると予後がよく、神経分化が起こる可能性があるとされている。そこで、神経芽腫の検体を使ってプロトオンコジーンの発現を調べることにした。

Materials & Methods ノーザン法で、fos, src, Ha-ras, N-myc のmRNA量を(1)分化した良性の神経芽腫 (2)1歳未満の神経芽腫 (3)1歳以上の進行神経芽腫で調べた。

Results (2)のグループでは Ha-ras, src の発現が高かった。ただし、(2)のグループでありながら亡くなった症例では発現していなかった。

Discussion Ha-ras, src の発現は神経分化に関与することで、神経芽腫の予後に関与している可能性がある。予後因子として臨床応用できるかもしれない。

これだけです。掲載された雑誌は Cancer Research でインパクトファクターもけっこう高く、同誌に3報書けば Nature 並です。(当時の値で)

つまり科学論文って「なにをやるか?」という発想が一番重要で、要は Introduction が最も大事なんです。
それに比べると文系の論文は本当に大変だと思いました。
卒業論文とか、大変なんでしょうね。
そういう意味では医学部というのは、職業訓練学校みたいなものですから、卒業試験と医師国家試験に合格すればそれでOKという感じです。

本書はそれ自体が立派な論文のようになっていて、読み応え十分でした。これから大学で学問を修める人には大いに役立つと思います。
ただ、レベルの高い専門書でもありますので、読み手を選ぶかもしれません。
それから、こんなに参考文献の多い本は初めて読みました(笑)。
著者の博学ぶりが大変よく分かります。

興味のある方はぜひどうぞ。おススメします。