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生涯弁護人 事件ファイル1 村木厚子 小澤一郎 鈴木宗男 三浦和義(弘中 惇一郎)2022年05月01日 14時32分18秒

生涯弁護人 事件ファイル1 村木厚子 小澤一郎 鈴木宗男 三浦和義
これは面白かったですね。思わぬ掘り出し物という感じです。
弘中さんが実際に書いたのかは知りませんが、大変読み応えがありました。
厚労省の村木厚子さんは、誰がどう見ても無実の罪をなすりつけられたと思いますが、三浦和義さんの事件は意外な話の連続でした。
日本の検察は大変レベルが高いとも聞きますが、ときどき政権と距離が近く国策捜査をするという噂も聞いたことがあります。
ここでいう政権とは、ときの権力者ではなく自民党という意味です。
そういう意味では、小沢一郎さんなんかは完全に国策捜査の被害にあったといえるかもしれないし、民主党はこれによって政権の座を失ったのかもしれません。

ないものねだりかもしれませんが、弘中さんは正義の側にたって弁護活動をしているようですが、世の中には悪人の弁護をしている人もいます。
弁護士の仕事は多岐に渡ると思います。悪人の弁護をする論理みたいなものも聞いてみたかったなと思いました。

いい本です。おススメします。

妻はサバイバー(永田 豊隆)2022年05月03日 19時58分42秒

妻はサバイバー
これは強烈な本でした。
奥さんは摂食障害。食べ吐きを繰り返し、大量に食べ物を買うので、貯金がゼロになります。
新聞記者であるご主人は激務の中、懸命に奥さんを支えます。
しかし経済的に行き詰まり、サラ金に手を出すことも考えます。

摂食障害はアルコール依存症に移行します。
本人には飲んでいるという自覚がありませんので、依存症から脱することができません。
大量に飲酒し、リストカットをし、睡眠薬を大量服用します。ベランダから飛び降りようとしたことも何度もあります。

精神科病院に医療保護入院になったことも数えきれないほどで、保護室に入れられたり、身体拘束も行われます。
本人の同意のない入院も拘束もしかたないと思わざるを得ませんでした。

この生活が20年。アルコールは奥さんの体を壊し、認知症にまで追い込みます。認知症になったことで、ようやく精神疾患の暴風は止みます。
なぜ奥さんはここまで荒れてしまったのでしょうか? それは幼年期のトラウマに遡ります。心の傷がジクジクと膿を出して、それを治すために自分で治療した手段が食べ吐きとアルコールだったのです。

ご主人はここまでの道のりを奥さんに伴走してきました。途中で、離婚も考えるし、このまま死んでくれたらと考えることもありました。でも一緒にいた。
それを共依存という言葉でまとめる書評も読みましたが、それはちょっと違うと思います。

夫婦とはこういうものだと思います。相手が重い病気になったとき、最後まで面倒を見ることができるのは親でも子でもなくて、夫婦だとぼくは思うのです。
そういう夫婦の姿をこの本で読むことができて、本当に良かったと思います。

大変優れた1冊ですので、ぜひお読みになることをおススメします。

砂まみれの名将 野村克也の1140日(加藤弘士)2022年05月04日 22時30分42秒

砂まみれの名将 野村克也の1140日
現在、ベストセラーです。
でも、めっちゃ面白い本・・・というわけではありません。
いえ、これはけなしているんじゃなくて、褒めているんです。
多くの人は忘れてしまったと思いますが、野村さんは阪神タイガースの監督を辞めて、楽天の監督に就任するまで3年間の空白があります。
その時期に社会人野球シダックスの監督を務めていたんです。
本書はその3年間を追った作品です。

筆者は番記者だったのでこの本が書けたとも言えますが、ノンフィクションとして実直にこの本を書いています。
ものすごいドラマがあるわけではありませんが、アマチュア野球の監督を務めるということに、野村さんの人間性とか野球人のあり様が現れているのかなと感じます。
だって長嶋茂雄さんは絶対に社会人野球の監督にならないですよね?

「砂まみれ」とは、練習場の砂塵でユニフォームが砂まみれになるからです。
これはなかなかいいタイトルですね。
いい本でした。おススメします。

さよなら、野口健 (小林 元喜)2022年05月07日 21時21分16秒

さよなら、野口健
これは強烈に面白かったです。
筆者はアルピニストの野口健の元マネージャー。
野口さんの実像を赤裸々に描きます。
文章もたいへんうまいし、取材も十分にできていて、読みだすと止まらないという感じです。

では、この本は野口健の評伝かというと、そうではない。
野口さんと抜き差しならない人間関係になってしまい、二人して苦悶の渦に巻き込まれる自分語りでもあるのです。

この本は、開高健賞の候補作だったそうです。書籍化にあたってそれなりに筆を入れたと思いますが、どういう構成に仕上げるのかはそうとう迷ったのではないでしょうか。
そういう苦闘の過程が本の流れににじみ出ています。
ただ、それが悪いという意味ではありません。
でも、出版社はこの本の帯の宣伝文句をどうするかはけっこう迷ったのではと思います。

最終的に大賞は受賞できなかったようですが、ぼくには十分大賞に値する一級品の作品だと感じます。
とてもいい作品ですので、みなさんにおススメします。

狂伝 佐藤泰志-無垢と修羅(中澤 雄大)2022年05月16日 23時22分00秒

狂伝 佐藤泰志-無垢と修羅(中澤 雄大)
大変重い1冊でした。
佐藤泰志さんという作家をぼくは知りませんでしたが、芥川賞や三島賞に何度もノミネートされながら無冠のまま文学に取り憑かれ、やがて書けなくなり死を選ぶ人生を歩みます。

筆者の中澤さんは、おそらくこの作家に身も心も預けたのでしょう。そして書いたのがこの作品です。膨大な資料と取材に基づき、佐藤泰志さんの人生を辿っていきます。
ここまで書き込んだ評伝というのは、あまり例がないのではないでしょうか。

本を書くには、その対象物(人)に対する思い入れがないと書ききれないと、ぼくはある編集者から教えてもらったことがあります。そう言う意味では、本当に強い思い入れを中澤さんは持っていたのでしょう。
600ページを超える大著で、簡単には読みきれませんが、読後に胸の中にどっしりと、文学に対する無垢と修羅の凄みが残ります。

みなさんも読んでみてはいかがでしょうか。おススメします。

経営者交代 ロッテ創業者はなぜ失敗したのか 【続】重光武雄論(松崎隆司)2022年05月21日 21時54分18秒

経営者交代 ロッテ創業者はなぜ失敗したのか
タイトル通りの内容です。
ぼくは経営とか経済のことは分かりません。なぜこの本を読んだかというと、「失敗の本質」に興味があるからです。
なぜ人は失敗するのか?
どうして判断を誤るのか?
そういうことに興味があります。この本の中には偉大な経営者が判断を誤った点が細かく描かれていました。

70数年前に日本国の指導者は判断を誤り、我が国は滅亡しそうになりました。
北方領土はソ連の不法占拠ですが、中国に深く攻め入り、東南アジアに進出し、太平洋で戦争をしていれば、当然北はガラ空きになるでしょう。

エネルギーを外国に頼る日本が国際的に超えてはいけない一線を越えれば、こうなることは目に見えていたはずです。
自明なんですが、判断を誤るんですよね。

自民党の歴代の総理大臣もみんな失敗して首相の座を失っています。最後まで支持率が高かったのは小泉さんくらいではないでしょうか?
安倍さんだってあれほどの長期政権を築きながら、最後はコロナにどう対応していいか分からなくなってしまい、政権は崩壊しました。辞任後は、小泉さんのように国民的な人気はありません。

ロッテという会社が事業継承に失敗した最大の理由は、創業者が90歳にもなって引退しなかったからだとぼくは思います。
なぜそこまで地位に執着してしまうのか?
これがぼくには理解できません。
大学の教授でも、教授を辞めた後で、教授気分が一向に抜けない人がいます。もう定年退官したのに、教室の人事を口を挟もうとしたり、医局員の実力評価を述べてみたり。
おそらくずっと教授という座にしがみついていたかったのでしょう。
そういう姿、晩節を汚した姿は、生き方として失敗しているとぼくは見ています。

いろいろと考えさせられる1冊でした。
いい本ですので、オススメします。

日本史サイエンス〈弐〉 邪馬台国、秀吉の朝鮮出兵、日本海海戦の謎を解く(播田 安弘)2022年05月21日 23時35分45秒

日本史サイエンス〈弐〉
やってくれました。『日本史サイエンス』の続編の誕生です。
今回は、
邪馬台国はどこにあったのか
朝鮮出兵で秀吉軍は亀甲船に敗れたのか
日本海海戦でなぜ日本は勝利できたのか
を解き明かしていきます。
その謎解きの面白さは、まさに「サイエンス」というタイトルにふさわしいメソッドにあります。
これはぜひ読んでみてくださいと言うしかないでしょう。

さて、この本から学ぶことはたくさんあります。
筆者は船の専門家で船艦の設計のプロです。歴史の専門家ではありません。
しかしこういう面白い本が書ける。
つまり自分を専門を活かし、自分の土俵の外に出ていくことで、これまでになかった新しい解釈や発見があるということです。
歴史の専門家が歴史のことを論じるよりも、こうした本の方が面白い可能性があります。
なぜならば、その業界の中には必ず「常識のウソ」が含まれているからです。

医学・医療で何か解決できない問題点があったとき、それを解決してくれるのは、実は医療と関係ない人かもしれません。
医療人は医療のことしか知りませんから、医療界の常識に囚われています。しかしその常識は正しくないかもしれません。
先輩から代々受け継がれているので、それを踏襲しているだけで誤ったことを連綿と続けている可能性があります。

だから、医療人は(医療に限らずその業界の人は)、自分の世界を狭くせず、知識と教養を広い世界から貪欲に吸収すべきなのです。

この本を読むと、ある意味でどんな人にでも本を書くチャンスがあると思えます。
視点を変えることで、自分の専門をフルに使って他の領域に切り込んでみるのです。
その際もちろん、この筆者のように深く勉強することが必要です。しかし芯になる考え方はやはり自分の専門なのです。

社会に出て10年以上生きていけば、誰でも何かの専門家になっています。
つまりアイデアしだいで、誰にでもこうした本を書くことが可能と言えます。簡単じゃないけど。

なお筆者の播田さんは、1941年生まれ。ぼくの20歳上です。つまり80歳。
素晴らしいじゃないですか。
ぼくも負けないようにがんばろう。
みなさんもぜひ読んでみてください。おススメです。

子どもの目が危ない: 「超近視時代」に視力をどう守るか(大石 寛人, NHKスペシャル取材班)2022年05月22日 16時34分17秒

子どもの目が危ない: 「超近視時代」に視力をどう守るか
ぼくは眼科医ではないので、知らないことがたくさん書かれていました。
すべては紹介できませんが、一部をまとめてみます。
近視は要注意です。進行すると、白内障や緑内障になり、失明に至る危険もあります。
またメンタルにも影響し、鬱などにも関係があるそうです。

近視の子どもにとって最もよくないのは、近くで物を見ることです。
つまりスマホとかタブレットを30センチくらいの距離で見つめ続けることが一番よろしくない。
こうした生活習慣が付いてしまうと、眼軸が伸びて(眼球が前後に長くなって)、近視がさらに進行するそうです。
昔から遠くを見なさいとよく言いますが、あれは事実のようです。

それから、暗いところで物を見るのはやはりよくないそうです。
照明を明るくするのはもちろんのこと、毎日屋外に出て明るい環境で過ごすのがいいそうです。
明るいとドーパミンが分泌され、眼軸が伸びるのを抑えてくれるそうです。

そして最後にメガネの問題。過矯正はよくないそうです。近視が悪化するかもしれないのです。現代において、はるか遠くが見えなくてはいけない理由はありません。
普段の生活が楽になるくらいの矯正で十分で、それによって眼精疲労やさらなる近視を予防できるそうです。

ぼくの次女はまだ10代で、けっこうな近視なので、この本で学んだことを参考にこれから注意していきたいと思います。
近視の人って本当に多いこの日本。
気になる方はぜひ読んでみてください。おススメします。

新型コロナワクチン 本当の「真実」(宮坂 昌之)2022年05月23日 22時07分03秒

新型コロナワクチン 本当の「真実」 (講談社現代新書)
昨年の本なんですが、興味があって読んでみました。
現在はオミクロン株に置き換わっていますので、また別の科学的根拠に基づいて議論する必要があるかもしれません。
しかしここで書かれていることは、基本的に現在でも通用することだと思います。

この本の最大の読ませどころは、嫌ワクチン派の医師への大反論です。ここまでよく書いたなと思うし、編集部もよくここまで書かせたと思います。
筆者の宮坂先生は、科学リテラシーを身につけて正しい情報をゲットするように読者に説いていますが、いや、それはなかなか難しいのではないでしょうか?

一般の人には、ハゲタカジャーナルと査読のあるジャーナルの違いなんて分からないでしょう。
英語の論文にこう書かれていると医師が説明すればほとんどの人は信じるでしょう。
先生は、メディアの科学知識のレベルが低いことを嘆いていましたが、それはそうでしょう。
メディア関係の人ってほとんどが文系出身だと思います。
免疫の仕組みなどまったく分からないでしょう。

結局いつの時代でも「陰謀論」みたいなものは跋扈します。専門家はそれに対して、一気に決着をつけるような一打を放つことは不可能なので、地道にコツコツと啓蒙活動をしていくしかないのではないでしょうか。
そういう意味で、この本はいい意味で地味な良書だと思います。

新型コロナは「普通の風邪」ではありません。もっと恐ろしい感染症です。
でもそれは、ある一定以上の年齢の人や基礎疾患のある人にとってです。
12歳未満の小児にとって、新型コロナはほとんど「普通の風邪」であり、インフルエンザやRSの方が危険と言えるのではないでしょうか。
だから、12歳未満のワクチンは努力義務から外れたのだと思います(オミクロン株に対するデータも不足している)。

4回目のワクチンがそろそろ始まりますが、対象を60歳以上と基礎疾患のある人に絞っています。これは正解でしょう。
新型コロナワクチンについて知識を整理したい方はぜひ読んでみてください。おススメします。

刑務所の精神科医――治療と刑罰のあいだで考えたこと(野村俊明)2022年05月29日 17時00分03秒

刑務所の精神科医――治療と刑罰のあいだで考えたこと
刑務所に収容されている人の中には、知的障害や精神疾患の人がけっこうな割合で含まれいることが知られています。
また少年院に収容されている少年少女の中には、大変厳しい家庭環境で育った人が多いことが知られています。
そうした人たちに刑罰を与えて問題の解決になるのかどうか。
再犯率の高さは何を意味しているのでしょうか。

筆者は豊富な経験に基づき、医療少年院や医療刑務所で治療にあたりながら、刑罰の意味に考えを傾けます。
内容はとても深くそれだけでも優れたエッセイなのですが、また文章がいいんですよね。
内省的でリリカルで。謙虚で静かな文章が読む者の胸にヒタヒタと分け行ってきます。

最終章の「矯正施設における精神療法」は特に読み応えがあり、精神科医の役割とは何だろうかという根源的な問いに対する考察が加えられています。
後書きもまたよかったです。
「諦めなければ夢は実現する」
「努力は裏切らない」
こうした言葉は現代では「はやり」みたいなものですが、夢が実現しない人だってたくさんいるわけです。
そうしたときに、「諦めたから」「努力が足りなかったから」結果が得られなかったと考えてしまう自己責任の状況に人は置かれているのかもしれません。
筆者の目は優しく、がんばりきれなかった人たちにも心配りがあるように感じられました。

大変な良書だと思います。おススメします。