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「二人で紡いだ物語」 (中公文庫) 米沢 富美子2012年12月23日 21時54分46秒

二人で紡いだ物語 (中公文庫)米沢 富美子
うちの近所のナナミちゃんが、FBでお勧めの本は? と聞いたところ、彼女の友人がこの本を挙げていました。
で、読んでみました。
(ナナミちゃんは、お母さんが千葉大学の元教授で、塩野七生さんと交友)

大変面白くて一気に読んでしまいました。

女性だろうが、男性であろうが才能ある人はこうやって国際的に活躍できるということをまざまざと証明しています。
そういう意味では医者という仕事は臨床が大部分で、研究に全精力を費やすのは数年間だけ。
だからこういう国際的な業績はあげようがありません。

ぼくなぞ、留学の経験もない。
(留学の経験がなくて、英語論文をあれだけ書いたのは、日本の小児外科医でぼくが唯一無二だ)

米沢さんの名前はなんとなく知っていましたが、それは門外漢のぼくの耳に届くくらい、彼女の物理学者としての名声がすごかったからでしょう。
読んでいる最中に、柳澤桂子さんの「二重らせんの私」を思い出してしまいました。

だけどテーマは、「二重らせんの私」と少し違っていて、タイトルにあるように夫への愛。
その情愛の深さを長々と読んでいると、ふと、自分はどうなんだろうと思ってしまいました。

うちは娘二人ですから、いずれお嫁さんとして出ていくでしょう。
(米沢さんも娘三人)
すると、老後は夫婦二人が残る。
どちらか一方は、「死別」を経験することになる。
ぼくの家内は大変な淋しがり屋で(米沢さんも同様)、ぼくと結婚する時に、絶対に自分よりも長生きしてくれと言ったものです。

まあ、もしその約束を果たすと、ぼくが「死別」に立ち会う訳ですね。
この本を読んで、その感覚が実感として伝わってくると、どうにも切ないものがあります。
辛いですね、生きるとは。
生きるとは、死を準備するためのものかもしれません。

大変な良書ですが、「惜別の辞」や「謝辞」を入れたのは、本の作り方としてはちょっとどうなのかと思います。
また、敢えて、と思いますが、彼女がやってきた物理学の具体的な中身は詳述されていませんでした。
これはぼくの書く闘病記に、抗がん剤の名前が一切出てこないセンスと一緒だと思います。
それは分かるのですが、ぼくはもっと具体的に知りたかった。

物理学で、仮説を立てるとか、原理や法則を発見するとか、実験するとか、、、ぼくにはまるでイメージが掴めません。
医学研究ならば、具体的な姿が想像できるけど。
素人には説明のしようがないのかもしれませんが、彼女の才能があればそれもできたのではないでしょうか?
それとも別の本に詳述されているのかな?

本作はロングセラーでかなり売れ続けているようですが、それも当然という一作でした。
お勧めです。