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「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録」 (新潮文庫)NHK取材班2011年07月07日 19時40分50秒

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録
これも薄い本なので、すぐに読了しました。
1999年に起きた「東海村臨界事故」で被曝した職員の闘病を描いたルポです。

この本は、放射線事故がどれほど恐ろしいかを描いた貴重な記録と言えます。
だけど、はっきり書きますが、この本はまったく評価できません。

最もよくない点は、本書のテーマがどこにあるか分からないことです。
本のエピローグには、看護師たちの、生存の見込みの無い患者にどこまで治療を行うかという命と死に関する考えが述べられています。
こういったことは、救急医療を語る時に、これまでさんざん議論され、また、活字になってきたことです。
東海村臨界事故とは、何の関係もありません。
本をこういう締めくくりにしてしまったことだけで、この本は完全に失敗作になっています。

また、途中、医師免許をとって3カ月の研修医のインタビューが出てきます。
このドクターは、今は立派になっているかもしれませんが、3カ月の研修医の視点などは、あまりに軽すぎる(この人が軽いと言っている訳ではない)。
何百人、何千人の生と死を見た医師になぜインタビューしないのか、ぼくには理解できない。
取材班の意図は、なんとなく想像できるけど、3カ月の研修医というのは、その辺の医学生とほとんど変わらないということを、理解していない。

治療の内容にも疑問がいくつもありました。
これは、NHK取材班のせいではないけど。

まず、放医研に骨髄移植をできる医療体制がないというのは、相当に問題があると思います。
移植ができなければ、放医研とは一体何をするところなの? という疑問が沸きます。
はい、もちろん、放医研には放医研の仕事が山ほどあって、スタッフの皆さんは忙しく働いていることは知っています。
だけど、こういった放射線被曝の患者さんが担ぎ込まれた時に、無力であるというのは、どういうことなんでしょうか?

そして東大病院の治療にも、ものすごく疑問があります。
患者さんは「おれはモルモットじゃない」と発言していますが、この時点で、患者と医師の間には信頼関係は皆無だったと言えるでしょう。
患者さんはくり返し、大腸内視鏡の検査を受けていますが、これはかなり、まずい。
穿孔すれば即死です。
なぜ、そんな危険を冒したのか?
データを集めたかったのではと非難されても仕方ないでしょう。
ぼくが主治医だったら100%、こんな検査はしません。

その一方で、心停止の後の再三の蘇生。
これが患者の側に立つ医療とは全然思えません。
余りにも悲しい闘病記と言えるでしょう。

この患者さんは、最後に「司法解剖」されます。
実は、このことが、患者さんにとって最大の悲劇なのですが、悲しいかな、NHK取材班はそのことに気付いていません。
「解剖」という行為は、人間の体の中のすべてを晒す、究極のプライバシーの露出です。
したがって、医師と患者家族の間に絆のように強固な信頼関係が無いと成立しません。
ところが「司法解剖」はそんなことお構いなしに、検査官などの立ち会いで強制的に行われます。

ぼくはそんな患者さんが本当に可哀相だと思います。

結局この本は、国の原子力政策を(間接的にでも)批判する構成になっていません。
では何を訴えたかったのか、それは読了しても読み取ることができませんでした。

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