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不毛地帯(一~五)山崎 豊子2023年11月05日 15時11分09秒

不毛地帯(一~五)
大宅賞の選考委員を辞めたので、自由にどんなジャンルの本でも読めますから、気が楽です。
山崎豊子さんは『白い巨塔』で超有名。同書が優れている理由は、想像を絶する取材の深さにあります。
医者でも書けないような医療界の内幕を、医者ではない作家さんが書いたというのは驚異的なことです。

で、今回、山崎さんの『不毛地帯』を読んでみました。全5巻です。
不毛地帯の原点は、シベリアです。主人公は11年にわたって抑留生活を送るんですね。
それがもう壮絶。こんな残酷な世界があるのかという地獄が描かれます。
はっきり言って読むのがつらかった。
これが1巻のほとんどすべてですから、これでもか、これでもかと厳しい描写が読者に迫ってきます。
ここの部分は無くてもよかったのでは? と思います。

帰国した主人公は、商社に請われて入社します。まったくの素人の彼が、元大本営参謀という知力を生かし、次々に大型プロジェクトを成功させます。
その間、会社内で人間関係の軋轢(要は嫉妬)があり、それでも彼はNo.2の位置まで上り詰めます。

最後の大仕事は油田の開発です。イランに井戸を掘るわけですが、これは博打のようなもの。油が出なければ、何十億という金が消えますし、当たれば巨万の富を手にいれることができます。
井戸を掘ると言っても簡単なことではありません。政官財界に、ときにはダーティーな金を使って根回ししなければなりません。

果たして油は出るのでしょうか。そして本当の最後の大仕事とは何でしょうか。
会社を生かすためには、会社を根本的に変える必要があります。
そこで主人公は驚くべき行動に出る・・・と言いたいところですが、ま、予想はつきました。
会社を人で動かしてはいけない。組織で動かさないとダメ。
もちろん現代にも通じる原理です。

しかしまあ、ビジネスの世界をよくここまで取材したものです。驚くというほかに言葉が見つかりません。
特に油井を掘る場面は、専門用語が続出して、映像がちっとも頭に思い浮かびませんでした。
でも雰囲気はとてもよく分かったし、イランの砂漠という不毛地帯の迫力は十分でした。

全部でおよそ3000ページ。一気読みの面白さでした。
サンデー毎日に連載し、5年かかったそうです。
今って、こういう作家さんはちょっといないのではないでしょうか。
大満足の作品でした。