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ケアとは何か-看護・福祉で大事なこと(村上 靖彦)2021年07月01日 13時59分28秒

ケアとは何か-看護・福祉で大事なこと
ケアとは何かと正面から問われるとけっこう難しいですよね。
この本は、中公新書としてはちょっと異色で、学術的な記述よりも、当事者/関係者に対するインタビューが多く、また既刊書からの引用も多数という形式でした。
ケアについて多数の角度から考察があり、やはり専門家と呼ばれる人は思考が深いなと思いました。

最近はヤングケアラーという言葉があって、そこで使われるケアには苦しいイメージがあります。
これは若い子どもが親をケアするからでしょう。
しかし親が子どもをケアしていて、それを悲惨と思うことは、少なくともぼくの視点からはありません。

障害児を持つ親は、確かに多くの手間がかかりますが、そのことと苦しいということは別に見えます。
親が子どもをケアするといううのは、ある意味で本能のようなものであり、障害児が中学生/高校生になっても、やりがいのようなものを親は感じることができるように映ります。
実際、ぼくが話を聞いた母親からは「お世話できる喜びを大事にしたい」という言葉がでてきて、その言葉には無理がなく自然な感じがしました。

こうしたケアをしている親にとって、ケアという言葉は耳に優しいんですよね。反対に親が嫌がる言葉は「介護」です。
介護という言葉にはいろいろなイメージが付いてしまって、我が子をケアするときに、介護という言葉を使いたくないという気持ちがあるのでしょう。
確かにケアには「気にする」という意味がありますから、介護とはずいぶん違うかもしれませんね。

その辺は、介護用品を作っている業者も理解しているようで、商品名に「快護」というネーミングを使用したりします。
では、ケアに相当する日本語は「お世話」かな・・・と思ったりしますが、日本語で「世話」にはちょっとネガティブな印象もありますよね。
「余計なお世話」とか「世話をかける」とか。
そういう意味で、ケアはやはりケアかなと思います。

開業医をやりながら作家もやってみた⑤2021年07月04日 15時16分24秒

m3.com 連載第5回が掲載されました。いよいよ大学生活の身辺整理をして、開業へ踏み出す場面です。色々な意味で切なかったなあ。その辺の気持ちを書きました。

https://www.m3.com/news/iryoishin/933584

今回のタイトルは、
「あぁ本当に大学を辞めるんだな」教授ら30人に決意の手紙
です。
興味のある方はご覧になってください。

起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男(大西 康之)2021年07月07日 16時13分02秒

起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男
500ページくらいの大作ですが、一気読みでした。
ぼくは以前に中公新書ラクレの『リクルート事件・江副浩正の真実』という本を読んだことがあります。リクルート事件という名前を聞いたことがない人はいないと思いますが、『〜〜の真実』を読んで、この事件とは何だったんだろうかと疑問を持ちました。
そしてそもそもぼくはリクルートという会社をよく理解していませんでした。
現在でこそ、リクルートという単語は市民権を得ましたが、事件当時、この言葉の意味を知っている人は稀だったと思います。

著者の大西さんは膨大な資料を元に本書を作り上げています。
そこには知らないことが山のようにありました。
江副さんは東大を卒業後、社会人の経験がないまま起業します。学生時代のアルバイトの続きだったとも思えますが、既存の社会システムに違和感のようなものがあったのかもしれません。
大学の教授の仕事の一つは学生の就職の斡旋。大学は企業と繋がり、人材の流れは固定化されていたわけです。
そこで江副さんが考えたのは、万人に自由に情報を与えることです。今日ではそんなことは当たり前でしょう。
われわれは就職するときに、ネットを使って希望の会社の情報をゲットします。希望の会社が見えていない人は、Indeed などの求人サイトを見て情報を仕入れるでしょう。

しかし、1980年代にはそういうシステムがありませんでした。マッチングという概念がなかったのです。求人情報は大学の教授のところにあるか、大手新聞の広告の中にしかなかったのです。
大西さんがくり返し述べていますが、江副さんは情報が新しいビジネスになることを知っていました。
つまりネットのない時代に Google のような世界を夢見ていたのです。
リクルート社がやったことは、コンピューターの巨人 IBM に闘いを挑んだアップルの ステーブ・ジョブスのようなものだったと言えるでしょう。

江副さんは企業に成功し、やがて不動産業に進出していきます。ここから少し危うくなっていきます。時代はバブルでしたから金が金を呼びます。ビジネス的に大成功を収めた江副さんは、一人のベンチャー企業の社長から、日本の新エスタブリッシュメントに変貌していきます。
つまり日本の大企業の経営者と肩を並べるようになるのですね。政界・財界に食い込み、自分のプレゼンスをどんどん肥大化させていきます。
政界のタニマチとしてリクルートコスモスの未公開株をばら撒きます。おそらくこれは賄賂でなかったと思います。ただし、グレーゾーンでした。
自分の成功を政界・財界に誇示したのでしょう。

しかし朝日新聞の報道をきっかけに検察は動かざるを得なくなります。検察はいったん勝負に出ると、100%勝つことを目指します。
江副さんは、今の時代であれば到底許されないような暴力的な取調べを受け、13年間の法廷闘争の末、有罪判決を受けます。

バブル崩壊後、リクルートと関連会社は1兆8000億の借金を抱えますが、そこから再生していきます。
そのパワーはどこから来るのでしょうか?
リクルートは上下関係の会社ではありません。社員の一人一人が経営者であり、当事者という会社です。江副さんは人材採用に毎年60億円を注ぎ込み、優秀な人材をかき集め、各人に目的意識を持たせました。そうした江副さんのDNAが今日でも生きているのでしょう。

しかし盛者必衰ではありませんが、既得権益を倒した者は、今度は自分が既得権益になってしまうのですね。ビジネスで最高の地位まで登りつめたからこそ、江副さんは事件を起こしたのでしょう。リクルートという会社が生き延びたのは、バブル崩壊後のどん底で学んだことが多かったからかもしれません。
リクルートは生き延びましたが、江副さんは倒れました。本作は、壮絶なドラマでした。

しかし、こういう本ってどうやって書くんでしょうか。感心しました。この本は何か賞を取るんじゃないでしょうか?
おススメです。

老いる意味-うつ、勇気、夢(森村 誠一)2021年07月07日 22時37分01秒

老いる意味-うつ、勇気、夢
森村誠一さんは88歳だそうです。
中学生の頃、『新幹線殺人事件』などを読みましたので、あれから45年くらい経ったことになります。
今回の作品は、老いることの意味についてのエッセイ。
現在、ベストセラー中です。

森村さんは老人性うつ病も経験したそうです。回復するのに3年かかったと言いますから、相当つらかったでしょう。
現在はマイペースで仕事と日常を過ごしているようです。

ぼくは髪の毛が黒いので年齢以上に若く見られますが、昔なら「定年退職」という年齢に差し掛かってきました。今から9年ほど前、サイクリングに凝って、できれば長く続けたいと思いましたが、3年くらい打ち止めとなりました。1番の理由は、千葉には(おそらく日本全体も)自転車が安全に走れる道がないことです。
何度も怖い思いをして、これはいつか事故に遭うなと思ってやめてしまいました。

先日、上智大学まで講演に出かけましたが、千葉に戻ってから下肢の筋肉痛と疲労を覚えました。おそらくこの1年、コロナで東京に行っていなかったので、体力が落ちたのでしょう。
しかしこんな生活を続けていたらどんどん老化していきます。
立花隆さんは75歳を過ぎて後期高齢者になると人生観が変わる・・・みたいなことを言っていました。
ぼくはまだまだ若いのかもしれませんが、やはり人生の最終段階をどうするかについて最近ではとてもよく考えるようになりました。

ぼくは、死は怖いものとは思っていませんので、自分の人生が終わることへの不安や恐怖はありません。
少し前までは、自分の人生のミッションを終了したらさっさとあの世に行ってもいいやとさえ思っていました。
しかし最近になって少し長生きしたい気持ちがあります。
それは二人の娘の将来を見届けたいという思いがあるからです。
人生の意味にはいろいろあると思いますが、「人生の意味を悟る」こと自体が人生の意味かもしれません。
ぼくは自分でそのことを理解したのは40歳くらいになってからです。
つまり大病をして、大学病院から放り出された頃から深く物事を考えるようになりました。

ぼくの娘たちはこれからどういう人生を歩んでいくのか、まだ、よく見えていません。
彼女たちが、この世に生まれたことを肯定できて、自分がなんのために生きているのかを悟るところを、できればぼくは見届けたいという気持ちがあります。
だからもう少し生きてみたいかな。

『オンリーワンの花を咲かせる子育て』という本を書いた時、締めくくりの言葉として、
夢・自由・理想
の3つをあげました。ぼくの人生はまだまだ終わったと思っていませんし、医療においても、物書きとしても、この3つをもう少し追求していきたいと思っています。
夢を捨てず、理想を掲げ、自由に生きていきたいですね。

沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝(細田 昌志)2021年07月11日 19時22分09秒

沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝
この本は、面白いとか、そうでないとか、そういうことを超越した作品です。
野口修とは格闘技&芸能プロモーター。
キックボクシングという格闘技を「発明」し、沢村忠をこの世に出し、五木ひろしもこの世に出します。
本書は野口修の父親の人生から書き始めていますので、壮大な大河ドラマになっています。ここまで書くか、といういくらい丹念に野口家の興亡を綴っていきます。

執筆にかかった歳月は10年。最初の6年の段階では出版社も決まっていなかったそうです。
仕事も減らしていって、この本の執筆に賭けたそうです。その結果できながった本書は上下二段組550ページです。
いや、読みごたえがありました。4日もかかりました。
細かい感想をここで書いてもしかたないでしょう。いくつものエピソードがあるので、いちいちコメントできないという感じです。

ノンフィクションってここまでして書かなければいけないのかと、ちょっと複雑な気持ちになります。だって、10年かかって1冊でしょ?
この本は2刷りにはなっていましたが、超ベストセラーではないと思います。ノンフィクション冬の時代にあって、10年がかりの労作を書き切ったのは、筆者の執念でしょうか?それとも野口さんに対する思い入れでしょうか?
スーパーヘビー級の一作です。格闘技に興味のない方にも読んでもらえる内容だと思います。
「評伝」というジャンルに興味のある方におススメします。

エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り(村山 祐介)2021年07月13日 22時02分41秒

エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り
トランプ前大統領の国境の壁のニュースは誰でも知っていることでしょう。しかしその実態はどうなっているのか?
壁は実際に存在していて、不法移民は壁でブロックされているのか?
そういうことを我々は知りません。
本書は、アメリカとメキシコの国境の壁にまつわる移民のルポです。
時間的にも空間的にも大作に仕上がっています。一級品の出来栄えでしょう。

国境の壁というと、どうしてもメキシコとの関係の話になりますが、それだけではありません。中南米の国々は犯罪や貧困、治安の崩壊などにより国家が立ちいかなくなっています。
誰だって好きで移民になる訳ではありません。
移民になってアメリカを目指さないと生きていけないのです。
中南米を出発した移民の集団は、行進と共に人数が膨れ上がり、何千人という規模になります。
密かに密入国するのではなく、集団で助け合いながら国境を目指すのです。こうしたキャラバンという行進は、旧約聖書の出エジプト記のなぞられてエクソダスと呼ばれるようになります。
この集団は「約束の地」、アメリカを目指すのです。

しかし「約束の地」アメリカで待ち受けているのは天国ではなく、トランプです。彼は自身の政治勢力を強化する目的もあり、キャラバンを侵略者・犯罪集団と見做し、国境で立ち塞がります。
でも、この本で描きたかったことは、トランプのことではなく、移民化せざるを得ない経済の貧しさだったのではないかと思います。
日本に住んでいては分からない世界の地位格差、経済格差が本書によってよく書かれていたと感じました。
良質のルポルタージュです。

なお、この本はカバーデザインもいいし、タイトルによく『エクソダス』と付けたと思います。
ベストセラーになっているのかどうかは分かりませんが、こういう本は評価されて欲しいですね。

「がんになって良かった」と言いたい(山口雄也+木内岳志)2021年07月15日 21時27分26秒

「がんになって良かった」と言いたい
先日、お亡くなりになった京都大学の学生さんの闘病記です。
ぼくは、闘病記をよく読みます。そして悲しいことに本が出版されてしばらくすると、著者の訃報が伝わってくることが結構あるんですよね。
この本もそんな展開でした。
闘病記をよく読む理由は、闘病記が人間の本質の部分を掘り下げていくからです。
人ってなんだろうと常日頃からよく考えますが、人間は死に接すると「置き換え不能」な自分と対面せざるを得ません。すると自分って何かが見えてくるんですよね。
また、死はあらゆる人が経験することではありますが、死とは何なのか誰にもよく分からないという部分があります。
その分からない死に対して自分なりを答えを用意しようとあがくのが、闘病記だと思うのです。
ぼくはあまり体が丈夫でなく、社会人になってからこれまでに7回入院しています。
死を考えたことも何度もあります。
しかしその一方で、病気による死の切迫感よりも加齢によるそれの方が切実だったりするのですよね。
人生の後半戦に入って、残りの人生をどう生きるか、これまで以上に真剣に考えるようになりました。
これからも闘病記は読んでいこうと思っています。

決定版-HONZが選んだノンフィクション(成毛 眞 著, 編集)2021年07月15日 22時44分33秒

決定版-HONZが選んだノンフィクション
知っている人は知っている、知らない人は誰も知らない(当たり前か)書評サイトのHONZによる書評集です。
10年の間に書いた書評の中からベスト100を選んだそうです。
対象はすべてノンフィクション。したがってぼくが読んだ本もけっこう含まれていました。

さて、このベスト100を読むと、次のような特徴があります。
まず、翻訳本がかなり多いこと。ベストセラーに拘らず「掘り出し物」に光を当てていること。それでいて、テーマとしてはわりとスケール感のある本が多いことです。

書評を書くというのは大変難しく、ぼくも年に何度か仕事で書きますが、毎回迷いながら原稿を仕上げています。
内容紹介(あらすじ紹介)になってしまうのは最低。また宣伝惹句のように「詳しく知りたい人を本書で確認を!」というのも面白くない。
するとどう書けばいいのか非常に迷うわけです。

また書評には2つのスタイルがあって、1つはその本の魅力を「発見」するという形、もう1つは「いい点」と「悪い点」をしっかりと批評するという形です。
ぼくは自分のブログで短い書評を書くことが多いのですが、主に前者のスタイルをとっています。
つまらない本は、そもそも書評を書かない。
しかし最近は歳をとって、少し偉そうなことも書いていいかなと思って、「悪い点」を敢えて書くことがあります(特にベストセラーなど売れている本に対して)。

本書は何人もの書評の名手たちが、腕を競うように魅力的な文章を書いています。
あ、こんな書き方もあるんだなととても勉強になりました。
書評のスタイルにはもちろん個人差が見受けられますが、共通しているのはノンフィクションに対する深い愛です。
やっぱり愛が大事ですね。

この本を読んで、取り上げられている本に手を伸ばすもよし、この本自体を一種のノンフィクション作品として楽しむのもよし。
おススメしますので、楽しい時間を過ごしてください。

ドキュメント がん治療選択 崖っぷちから自分に合う医療を探し当てたジャーナリストの闘病記(金田 信一郎)2021年07月17日 22時28分29秒

ドキュメント がん治療選択 崖っぷちから自分に合う医療を探し当てたジャーナリストの闘病記
面白くて一気に読みました。
筆者はジャーナリストなので、文章も上手で、外(自分から見える世界)も内(自分の心の中)もしっかり描けていました。
やや分厚い本で冗長な部分もありましたが、1つの作品として完成していると思います。

さて、筆者は食道がんのステージ3。ぼくが研修医の頃だったら、助かる見込みはないですよね。
手術しても再発して・・・という経過です。しかし今は、放射線療法と化学療法のエビデンスが蓄積されていますから、どういう治療が最も助かる確率が高いのかデータとしてきちんと示されています。

結局、著者は手術を選びませんでした。抗がん剤治療と放射線治療を選択します。これは、手術と抗がん剤という標準療法に比べて生存率が低いものです。
なぜ、それを選んだか?それは術後のQOLがとても悪いと判断したからです。
仕事ができなくなるくらいなら、少しくらい生存率の高い手術は拒否するということです。
それも一つの生き方でしょう。ぼくもそういう選択をするかもしれません。

この本を読んで驚いたことは、東大病院の食道外科が患者に対してちゃんとしたムンテラ(説明)をしないことです。
ぼく自身の経験と照らし合わせるととても考えられません。
小児がんと違って、大人の癌は患者が多いので、とても一々説明できないのかしれません。
それから、手術を断る筆者に対して医師が全然引き止めないこと。これも驚きでした。
小児医療では、医者が子どもの親代わりみたいになる場面がよくあります。
パターナリズムの一種かもしれませんが、こうした医師の姿勢によって子どもが治っている部分もあります。
しかし成人の医療って、本人が「この治療を受けよう」と思わない限り、放っておかれる面があります。
自らを助けようとする者を助ける・・・という感じです。

筆者がちょっと誤解しているかな?と思ったのは、セカンドオピニオンについてです。
セカンドオピニオンを求めると医者の機嫌を損ねると思っている人は多いように感じますが、そんな時代はもうとっくに終わっています。
セカンドオピニオンは全然問題なく受けることができますよ。

筆者の闘病はまだ終わっていないようですが、完治されることを心からお祈りしています。

開業医をやりながら作家もやってみた⑥2021年07月18日 11時33分51秒

m3.com に『開業医をやりながら作家もやってみた』の連載第6回が掲載されました。

https://www.m3.com/news/iryoishin/938078

開業して驚くことがたくさんあったので、それを書いてみました。興味のある方はご覧になってください。