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フォト・ドキュメンタリー 朝鮮に渡った「日本人妻」: 60年の記憶 (岩波新書) 林 典子2019年07月31日 23時12分07秒

フォト・ドキュメンタリー 朝鮮に渡った「日本人妻」: 60年の記憶 (岩波新書)
これはちょっとなかなか出会わない良い本です。
筆者は36歳の女性。写真家です。
しかし文章がいい。とてもいい。
そして当たり前のことですが、文中に挿入される写真が実にいい。プロだから当然でしょう。

今の日本人は全然知らないと思いますが、かつて北朝鮮は理想郷みたいに語られていた時期があります。
1960年代、北朝鮮は在日の人たちに向かって、広く受け入れる意志を表明していました。北朝鮮と日本の赤十字社が連絡を取り合って実現したのが、いわゆる「帰国事業」です。

梁石日の小説にもこうした場面がたびたび登場しますが、当時の在日は大変経済的に貧しく、政治も経済も高度に発展した北朝鮮に渡ろうかと若者たちは熱く語りあったようです。

そして実際に、多くの在日の人たち(北でも南でも)が、海を渡り北朝鮮に向かいました。その時、ご主人である朝鮮人について行ったのが、「日本人妻」です。

筆者は11回の訪朝を経て、9人の日本人妻に会って話を聞いていきます。
また北朝鮮在留孤児の女性にも会います。
彼女たちは高齢化しており、ご主人はすでに亡くなっているというケースばかりです。
いつか日朝友好の時がきて、自由に両国が行き来できることを夢見ていた彼女たちですが、その夢は現実になりませんでした。

朝鮮の地で言葉を覚え、現地に溶け込み、朝鮮人として生きてきた人生。それは、政治や歴史に翻弄された壮絶な人生と言えます。
筆者の林さんは、そのことを単純な言葉では表現しません。つまり「幸福か幸福でなかったか」とか、「朝鮮に渡ってよかったか、そうでなかったか」などの簡単な言葉は用いないのです。
それはそうでしょう。人間の生き方というものは、そんな浅いものではありませんからね。
どのケースもそうですが、日本人妻をとても大切にしていた夫たちの姿がとても印象に残りました。

若い写真家さんがこういう文章を書くことに、ちょっとした衝撃を受けました。無駄が無く、シャープで、詩情が残る文章です。みなさんにぜひオススメします。

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