がん治療革命 ウイルスでがんを治す(藤堂具紀) ― 2026年03月31日 21時20分11秒
ちょっと前の本なんですが、いろいろ思うことがあり読んでみました。
藤堂先生は、東大の脳神経外科の教授。
ヘルペスウイルスを改変して、脳腫瘍に感染させて、これを破壊する腫瘍融解ウイルス療法を開発しました。
ぼくが先生のお名前を知ったのは、今から20年以上前です。
科学雑誌で特集されていたのです。
ぼくは、反射的に「あ! これだ」と思いました。
すぐに千葉大の分子ウイルス学の教授に相談。その結果、神経芽腫に対する腫瘍融解ウイルス療法の研究に入りました。
Sindbis ウイルスを使って神経芽腫にアポトーシスを起こすのです。
ですが、ぼくは2006年に大学を退職。後輩の何人かが研究を引き継いでくれて、博士も誕生しましたが、残念ながら臨床応用まではいきませんでした。
本書はさすがに、口述筆記だと思うのですが(東大の教授なので、本を書く暇などない)、どういう読者層をターゲットにして、何を訴えたかったか、もう少し編集部は練った方がよかったと思います。
治験の大変さが延々と語られますが、一般読者はこういうことに興味があるでしょうか? (ぼくは、ある)
とはいえ、その部分がないと、分量として1冊の本にならないので、本を作るとは本当に難しいですね。
いずれにしても、アメリカ留学して改変ヘルペスウイルスを作り、日本で治験をやって保険承認を得たわけですから、藤堂先生の業績は偉大としか言いようがありません。
トランスレーショナルリサーチの一つの完成形ではないでしょうか。
現在、どれくらいたくさんの患者さんがこの治療を受けているのか、ぜひ知りたいところです。
藤堂先生は、東大の脳神経外科の教授。
ヘルペスウイルスを改変して、脳腫瘍に感染させて、これを破壊する腫瘍融解ウイルス療法を開発しました。
ぼくが先生のお名前を知ったのは、今から20年以上前です。
科学雑誌で特集されていたのです。
ぼくは、反射的に「あ! これだ」と思いました。
すぐに千葉大の分子ウイルス学の教授に相談。その結果、神経芽腫に対する腫瘍融解ウイルス療法の研究に入りました。
Sindbis ウイルスを使って神経芽腫にアポトーシスを起こすのです。
ですが、ぼくは2006年に大学を退職。後輩の何人かが研究を引き継いでくれて、博士も誕生しましたが、残念ながら臨床応用まではいきませんでした。
本書はさすがに、口述筆記だと思うのですが(東大の教授なので、本を書く暇などない)、どういう読者層をターゲットにして、何を訴えたかったか、もう少し編集部は練った方がよかったと思います。
治験の大変さが延々と語られますが、一般読者はこういうことに興味があるでしょうか? (ぼくは、ある)
とはいえ、その部分がないと、分量として1冊の本にならないので、本を作るとは本当に難しいですね。
いずれにしても、アメリカ留学して改変ヘルペスウイルスを作り、日本で治験をやって保険承認を得たわけですから、藤堂先生の業績は偉大としか言いようがありません。
トランスレーショナルリサーチの一つの完成形ではないでしょうか。
現在、どれくらいたくさんの患者さんがこの治療を受けているのか、ぜひ知りたいところです。
自分事として向き合うための手控え帖 がんは運である? (仲野 徹) ― 2026年03月26日 23時41分42秒
仲野徹師匠から本が送られてきました。
『がんは運である?』。なかなか挑戦的なタイトル。
でもよく見たら、これはサブタイトルなのね。
ぼくはがんサバイバーだし、(一応)がんの専門家なので、興味津々で読みました。
まず、先生の引き出しの多さにびっくり。
がんについてあらゆる視点から語っています。
がんの生物学については、さすがに知らない部分はなかったけれど、放射線療法とか鏡視下手術(ロボット支援手術)とかに関しては知識が豊富で驚きます。
先生は、どれだけ知恵の塊なんだと驚きました。
がん治療の世界にはトータルケアという言葉がありますが、この本は、がん解説の総合百貨店です。
こういうサイエンスの啓発本を書く場合、読者のレベルをどれくらいに想定するのかがメチャ難しいんですよね。
正確に伝えようとすると、専門的になり過ぎるし、比喩を使って分かりやすく書こうとすると、不正確になる。
多くの書き手は、やさしく書くのですが、やさしく書く方が実は伝わらないということがあります。
そういう意味で言うと、凡人だったぼくの両親でも分かるように、同時にレベルを落とさないで書かれていたと思います。
これってかなり難しいことで、相当作戦を練ったのではないでしょうか。
大阪弁がめちゃ良くて、いつものようにユーモアのセンスは抜群でした。
奥様が子宮体がんに罹患した場面で、再婚を考えてしまう記述には思わず笑ってしまいました。そりゃ、ないでしょ!
先生からのメールで「小児がんのことは書いていません」とありましたが、そんなの全然無用です。
小児がんは希少疾患なので。超マイナーな話は不要です。
最後まで読んでいくと、先生が一番言いたかったのは、人生をいかに生きるか、エンドオブライフをどう迎えるかだったようにも思えました。
大事ですよね。ぼくもよく考えます。
がんという、誰もが知っている病名で、実はその実態を誰もよく理解していない暗黒大陸に光を照らす作品でした。
亡くなった立花隆がよく言っていましたが、学問を学ぶ上で一番大事なのは、「概論」。
その「概論」がいい深さまで掘られていました。
これは多くの人にお勧めできますね。
楽しく読ませていただきました。
ぼくもがんばっていい本を書こうと思いました。
『がんは運である?』。なかなか挑戦的なタイトル。
でもよく見たら、これはサブタイトルなのね。
ぼくはがんサバイバーだし、(一応)がんの専門家なので、興味津々で読みました。
まず、先生の引き出しの多さにびっくり。
がんについてあらゆる視点から語っています。
がんの生物学については、さすがに知らない部分はなかったけれど、放射線療法とか鏡視下手術(ロボット支援手術)とかに関しては知識が豊富で驚きます。
先生は、どれだけ知恵の塊なんだと驚きました。
がん治療の世界にはトータルケアという言葉がありますが、この本は、がん解説の総合百貨店です。
こういうサイエンスの啓発本を書く場合、読者のレベルをどれくらいに想定するのかがメチャ難しいんですよね。
正確に伝えようとすると、専門的になり過ぎるし、比喩を使って分かりやすく書こうとすると、不正確になる。
多くの書き手は、やさしく書くのですが、やさしく書く方が実は伝わらないということがあります。
そういう意味で言うと、凡人だったぼくの両親でも分かるように、同時にレベルを落とさないで書かれていたと思います。
これってかなり難しいことで、相当作戦を練ったのではないでしょうか。
大阪弁がめちゃ良くて、いつものようにユーモアのセンスは抜群でした。
奥様が子宮体がんに罹患した場面で、再婚を考えてしまう記述には思わず笑ってしまいました。そりゃ、ないでしょ!
先生からのメールで「小児がんのことは書いていません」とありましたが、そんなの全然無用です。
小児がんは希少疾患なので。超マイナーな話は不要です。
最後まで読んでいくと、先生が一番言いたかったのは、人生をいかに生きるか、エンドオブライフをどう迎えるかだったようにも思えました。
大事ですよね。ぼくもよく考えます。
がんという、誰もが知っている病名で、実はその実態を誰もよく理解していない暗黒大陸に光を照らす作品でした。
亡くなった立花隆がよく言っていましたが、学問を学ぶ上で一番大事なのは、「概論」。
その「概論」がいい深さまで掘られていました。
これは多くの人にお勧めできますね。
楽しく読ませていただきました。
ぼくもがんばっていい本を書こうと思いました。
親友は山に消えた(小林元喜) ― 2026年03月20日 15時08分32秒
「さよなら、野口健」がメチャおもしろかったので、著者の第2作も読んでみました。
タイトルにこの本の内容がすべて表れています。
また、カバーの装幀を見れば、なぜ亡くなったかも分かります。
本の内容とは関係ありませんが、この本はカバーもいいし、カバーを取っても表紙が秀逸だし、サブタイトルなしで勝負しているところもいい感じです。
さて、本書には3つの優れている点があります。
まず、主人公が無名の人にもかかわらず、強烈な個性を放ってぐいぐい読ませる点です。
著名人の評伝などは、おもしろくて当然だし、本もよく売れます。
ですが、無名の人の生涯を描くというのは、作家にとって冒険になります。
沢木耕太郎さんの数々の作品の中で、ぼくが最大に評価しているのは「深夜特急」ではなく、自分の父親を描いた「無名」です。
無名の人間を描くと、その作家の本当の技量が明らかになります。
そういう意味でこの本は成功しています。
優れている第2点は、文章の力です。
ときに過剰の部分もありますが(特に、あとがき)、基本的に大変に文章に力があります。
豊かに多彩に語っていますし、表現する力強さがあります。
こうした部分はトレーニングでうまくなる面もありますが、基本的には才能なんだとぼくは思っています。
3つ目が、自分語りの奥深さです。
筆者は、親友と、友だち関係であると同時に強烈なライバルなんですね。
青春の時期を「何者か」になろうと共に懸命に足掻くわけです。
だから親友が「成功」すると、喜ぶことができない。
猛烈な嫉妬を感じてしまいます。
そこを赤裸々に書きます。もっと言えば、自分の内面を深く掘っていきます。
だから、この本は「親友の話」であり、「自分を描いた本」なんです。
そしてそれが、上滑りすることなく表現されていて、読み終えてみれば「あいつと私の関係」の話ということがよく分かります。
極めてすぐれたノンフィクションが誕生しました。
小林元喜さん、おめでとうございます。書いてよかったですね。
みなさんにも、お勧めします。
タイトルにこの本の内容がすべて表れています。
また、カバーの装幀を見れば、なぜ亡くなったかも分かります。
本の内容とは関係ありませんが、この本はカバーもいいし、カバーを取っても表紙が秀逸だし、サブタイトルなしで勝負しているところもいい感じです。
さて、本書には3つの優れている点があります。
まず、主人公が無名の人にもかかわらず、強烈な個性を放ってぐいぐい読ませる点です。
著名人の評伝などは、おもしろくて当然だし、本もよく売れます。
ですが、無名の人の生涯を描くというのは、作家にとって冒険になります。
沢木耕太郎さんの数々の作品の中で、ぼくが最大に評価しているのは「深夜特急」ではなく、自分の父親を描いた「無名」です。
無名の人間を描くと、その作家の本当の技量が明らかになります。
そういう意味でこの本は成功しています。
優れている第2点は、文章の力です。
ときに過剰の部分もありますが(特に、あとがき)、基本的に大変に文章に力があります。
豊かに多彩に語っていますし、表現する力強さがあります。
こうした部分はトレーニングでうまくなる面もありますが、基本的には才能なんだとぼくは思っています。
3つ目が、自分語りの奥深さです。
筆者は、親友と、友だち関係であると同時に強烈なライバルなんですね。
青春の時期を「何者か」になろうと共に懸命に足掻くわけです。
だから親友が「成功」すると、喜ぶことができない。
猛烈な嫉妬を感じてしまいます。
そこを赤裸々に書きます。もっと言えば、自分の内面を深く掘っていきます。
だから、この本は「親友の話」であり、「自分を描いた本」なんです。
そしてそれが、上滑りすることなく表現されていて、読み終えてみれば「あいつと私の関係」の話ということがよく分かります。
極めてすぐれたノンフィクションが誕生しました。
小林元喜さん、おめでとうございます。書いてよかったですね。
みなさんにも、お勧めします。
遺伝子‐親密なる人類史‐ 下(シッダールタ ムカジー) ― 2026年03月03日 22時51分02秒
ヒトゲノム計画が発表されたとき、ぼくは大学院生でした。
これって本当に意味があるの? という気持ちと、新しい分子遺伝学の時代の扉が開くのかな? という期待と両方がありました。
しかし、ゲノムを読むためににいったいどれだけの研究費がかかるのか? どれだけの時間がかかるのか? そしてどれだけたくさんの研究者を「消費」してしまうのかと、疑問もありました。
一番の疑問は、この計画は研究者の頭脳とか実験テクニックとかはあまり関係なく、半自動シークエンサーで塩基配列を読んで、コンピューターで解析(解読)していくという、とてつもなくつまらない実験手法にありました。
国際プロジェクトのヒトゲノム計画に挑戦したのは、セレラ社のクレイグ・ベンターでした。
彼はショットガン方式というやり方で、凄まじいスピードでゲノムを読んでいきました。
ベンターの方が優れていたのではないかとぼくは思っています。
センスがいいですよね。
ヒトゲノムが読了されたことで、ポジショナルクローニングの時代は終わります。
次世代シークエンサーが登場し、GWAS(ゲノムワイド関連解析)や、がんゲノム解析の時代に入ります。
それがプレシジョン・メディシンにつながったことは前回のブログで書いた通りです。
しかしまあ、この本のすごいところは、イラストを使っていない点ですよね。
あっぱれです。
これって本当に意味があるの? という気持ちと、新しい分子遺伝学の時代の扉が開くのかな? という期待と両方がありました。
しかし、ゲノムを読むためににいったいどれだけの研究費がかかるのか? どれだけの時間がかかるのか? そしてどれだけたくさんの研究者を「消費」してしまうのかと、疑問もありました。
一番の疑問は、この計画は研究者の頭脳とか実験テクニックとかはあまり関係なく、半自動シークエンサーで塩基配列を読んで、コンピューターで解析(解読)していくという、とてつもなくつまらない実験手法にありました。
国際プロジェクトのヒトゲノム計画に挑戦したのは、セレラ社のクレイグ・ベンターでした。
彼はショットガン方式というやり方で、凄まじいスピードでゲノムを読んでいきました。
ベンターの方が優れていたのではないかとぼくは思っています。
センスがいいですよね。
ヒトゲノムが読了されたことで、ポジショナルクローニングの時代は終わります。
次世代シークエンサーが登場し、GWAS(ゲノムワイド関連解析)や、がんゲノム解析の時代に入ります。
それがプレシジョン・メディシンにつながったことは前回のブログで書いた通りです。
しかしまあ、この本のすごいところは、イラストを使っていない点ですよね。
あっぱれです。
病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 下(シッダールタ・ムカジー) ― 2026年03月02日 22時28分57秒
そんなわけで、下巻も読みました。
20世紀までは、外科医は手術のことだけを考えていました。
腫瘍内科医は、抗がん剤治療のことだけを考えていました。
分子生物学者たちは、がんとは何かを知ろうと研究をしていたわけです。
ちなみに、1973年にニクソン大統領が「がんとの闘い」を国家プロジェクトに据えたため、ウイルス学者(分子生物学者)たちが大挙してがん研究になだれ込んで来たので、学問も進化した一面があります。
しかし、がん研究はそんなに簡単ではなかった。
ニクソンはアポロ計画で成功したかもしれませんが、がんとの闘いには敗れたと言っていいでしょう。
そういう意味では、人類が月に降り立つなんて大したことがないサイエンスなのでしょう。
1983年から1993年の間に、がんの生物学は爆発的に進歩します。
(ぼくが大学院へ行っていたのは、1989年から1993年)
恩師の清水教授は、これほどサイエンスが一気に進んだのは、1960年代のニーレンバーグやコラナによる遺伝暗号の解読以来、2度目の出来事とおっしゃっていました。
この時代、天才と呼べる科学者が何人もいました。
でもぼくが、5人だけあげるなら・・・ビショップとバーマス、クヌッドソン、ワインバーグ、フォーゲルシュタインになるでしょう。
この当時、がんは「外因(環境)」か「内因(染色体や遺伝)」かウイルス感染かによって起こると、科学者たちは考えていました。
それらは実はすべて一点に集約されることが分かったのです。
それを明らかにしたのが、この5人だとぼくは思います。
ポストゲノム時代に入り、何が変わったのでしょうか?
科学的知見はそんなに増えなかったのでは?
パッセンジャー遺伝子がたくさん見つかったものの、ドライバー遺伝子は1990年代と大きく変わっていません。
でも、テクノロジーの進化はあった。それは次世代シークエンサー(NGS)です。
PCR と NGS は科学を工業に変えたとぼくは思っています。
そして現在の、プレシジョン・メディシン。
これは1990年代の科学の成果が土台になっており、また、NGS 抜きでは考えられません。
がんの生物学にはまだ未解明のことはたくさんありますが、治療法としては来るべきところまで来たのではないかというのが、ぼくの考え方です。
20世紀までは、外科医は手術のことだけを考えていました。
腫瘍内科医は、抗がん剤治療のことだけを考えていました。
分子生物学者たちは、がんとは何かを知ろうと研究をしていたわけです。
ちなみに、1973年にニクソン大統領が「がんとの闘い」を国家プロジェクトに据えたため、ウイルス学者(分子生物学者)たちが大挙してがん研究になだれ込んで来たので、学問も進化した一面があります。
しかし、がん研究はそんなに簡単ではなかった。
ニクソンはアポロ計画で成功したかもしれませんが、がんとの闘いには敗れたと言っていいでしょう。
そういう意味では、人類が月に降り立つなんて大したことがないサイエンスなのでしょう。
1983年から1993年の間に、がんの生物学は爆発的に進歩します。
(ぼくが大学院へ行っていたのは、1989年から1993年)
恩師の清水教授は、これほどサイエンスが一気に進んだのは、1960年代のニーレンバーグやコラナによる遺伝暗号の解読以来、2度目の出来事とおっしゃっていました。
この時代、天才と呼べる科学者が何人もいました。
でもぼくが、5人だけあげるなら・・・ビショップとバーマス、クヌッドソン、ワインバーグ、フォーゲルシュタインになるでしょう。
この当時、がんは「外因(環境)」か「内因(染色体や遺伝)」かウイルス感染かによって起こると、科学者たちは考えていました。
それらは実はすべて一点に集約されることが分かったのです。
それを明らかにしたのが、この5人だとぼくは思います。
ポストゲノム時代に入り、何が変わったのでしょうか?
科学的知見はそんなに増えなかったのでは?
パッセンジャー遺伝子がたくさん見つかったものの、ドライバー遺伝子は1990年代と大きく変わっていません。
でも、テクノロジーの進化はあった。それは次世代シークエンサー(NGS)です。
PCR と NGS は科学を工業に変えたとぼくは思っています。
そして現在の、プレシジョン・メディシン。
これは1990年代の科学の成果が土台になっており、また、NGS 抜きでは考えられません。
がんの生物学にはまだ未解明のことはたくさんありますが、治療法としては来るべきところまで来たのではないかというのが、ぼくの考え方です。
病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 上(シッダールタ・ムカジー) ― 2026年03月02日 19時31分52秒
10年以上も前の本なんですが、ちょっと調べたいこともあり、読みました。
この本のおもしろさについてはぼくが何か言う必要はないでしょう。
上巻の主人公はシドニー・ファーバーのようです。ファーバーの業績は、この本を読まなくても、白血病の本を読めば総論のところで必ず出てきます。
白血病の治療の歴史は文書として残っているのに、神経芽腫ってどこにも記録がないと思います。残念ですね。
そしてもう一人の主役がハルステッド。乳がんの根治手術の先生ですね。
外科医って「取れるもの」は何でも取っちゃうんです。
がんの生物学なんて知らないんですよね。
とにかく、拡大して取る。
外科医の本能みたいなものです。
取っても取っても再発して、治せないところが胸に沁みました。
分かりますよ、その気持ち。
そして世界で初めて完治できた固形がんとしてウイルムス腫瘍が出てきます。
手術にプラスしてアクチノマイシンDを使うと完治できるんですよね。
このシーンに、ダンジオとエヴァンスが登場してきて胸が熱くなりました。
ええ、ぼくはお二人にお会いしたことがありますよ。
しかしまあ、本の20%が参考文献のページというのが驚きですね。
この本を書きながら、患者を診る時間はあったのでしょうか?
この本のおもしろさについてはぼくが何か言う必要はないでしょう。
上巻の主人公はシドニー・ファーバーのようです。ファーバーの業績は、この本を読まなくても、白血病の本を読めば総論のところで必ず出てきます。
白血病の治療の歴史は文書として残っているのに、神経芽腫ってどこにも記録がないと思います。残念ですね。
そしてもう一人の主役がハルステッド。乳がんの根治手術の先生ですね。
外科医って「取れるもの」は何でも取っちゃうんです。
がんの生物学なんて知らないんですよね。
とにかく、拡大して取る。
外科医の本能みたいなものです。
取っても取っても再発して、治せないところが胸に沁みました。
分かりますよ、その気持ち。
そして世界で初めて完治できた固形がんとしてウイルムス腫瘍が出てきます。
手術にプラスしてアクチノマイシンDを使うと完治できるんですよね。
このシーンに、ダンジオとエヴァンスが登場してきて胸が熱くなりました。
ええ、ぼくはお二人にお会いしたことがありますよ。
しかしまあ、本の20%が参考文献のページというのが驚きですね。
この本を書きながら、患者を診る時間はあったのでしょうか?
新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか(川北省吾) ― 2026年02月22日 20時52分12秒
おもしろい本ですが、びっくりするほどおもしろいわけではありませんでした。
毎日、しっかり新聞を読んでいれば、世界の動きはわかります。
要は、アメリカが「世界の警察」をやめることによって、大国がレコンキスタ(失地回復)に動いたということです。
ただ、ところどころに入る著者のインタビューは本当に秀逸でした。
ここをもっと分厚くすればいいのにと思いました。
それと、プーチンと習近平の生い立ちについてはさすがに知らなかった(新聞に載っていない)ので、大変興味深かったです。
現在、大ベストセラー中。
文系の人ってこういう本が好きなんでしょうね。
理系の人はあまり読まないんじゃないかな。
世界現代史をまとめたい人は、ぜひ、読んでみてください。
毎日、しっかり新聞を読んでいれば、世界の動きはわかります。
要は、アメリカが「世界の警察」をやめることによって、大国がレコンキスタ(失地回復)に動いたということです。
ただ、ところどころに入る著者のインタビューは本当に秀逸でした。
ここをもっと分厚くすればいいのにと思いました。
それと、プーチンと習近平の生い立ちについてはさすがに知らなかった(新聞に載っていない)ので、大変興味深かったです。
現在、大ベストセラー中。
文系の人ってこういう本が好きなんでしょうね。
理系の人はあまり読まないんじゃないかな。
世界現代史をまとめたい人は、ぜひ、読んでみてください。
変革する手術 「神の手」から「無侵襲」へ (石沢武彰) ― 2026年02月20日 21時02分23秒
筆者の石沢先生は大阪公立大学の肝胆膵外科の教授。
千葉大医学部の卒業なので、ぼくの後輩ということになりますが、かたや「教授」、かたや「フツーの開業医」なので、医療界におけるプレゼンスはまるで異なります。
先生は、肝胆膵が専門。
実はこの分野は、小児外科医にとってはちょっとした鬼門なんです。
小児外科では肝芽腫という小児がんを治療します。
全国の年間発生数はわずか40例くらい。各都道府県で割れば、1県に1例という感じです。
したがって肝切除をたくさんやった経験のある小児外科医なんて存在しません。
子どもの肝臓を切ることは、小児外科医にとってかなりのプレッシャーになります。
先生の前著は『手術はすごい』(講談社ブルーバックス)。
肝切除について詳しく書かれていました。
ぼくにはめちゃめちゃおもしろかったけど、これを一般の人がどう読むのかなと、強い興味がありました。
ちなみにブルーバックスの編集長はぼくの長年の友人なので、どういう人が読んだのか聞いてみようと思います。
そして、『手術はすごい』に続く第2弾。これは読まない手はありません。
タイトルからして肝切除や膵切除についてさらに専門的に書いてあるのかな?
蛍光イメージング手術についてさらに詳しく解説しているのかな・・・と先入観を持って読み始めました。
期待はいい意味で裏切られ、先生の「これまでの25年」と「これからの25年」が綴られていました。
それにしても、先生は文章がうまい。相当なストーリーテラーです。
先生のお師匠さんは東大の幕内先生(業界では幕内3兄弟として有名)。
肝臓切除の基礎を作った先生です。
また、幕内先生は「365日働くことに矛盾を感じなくなれば、きっといい医療ができる(大意)」と言います(『がんと外科医』岩波新書・阪本良弘)。
教育は軍隊教育で超ブラック(笑)。
千葉大小児外科と同じです。
今はもうこういう外科講座は存在しないでしょう。
そしてもう一人のお師匠さんはフランスのガイエ先生。内視鏡手術の巨人ですね。
ガイエ先生は、手術は自分だけができても意味はないと考えます。
みんなができることに意味がある、そういう考え方です。
これって千葉大の食道外科のレジェンドである中山恒明先生と同じ考えです。
石沢先生は「開腹手術」も「内視鏡手術」も名人となり、さらに蛍光イメージング手術でどんな外科医でも合併症を作らないように手術の質を上げていきます。
国際学会を同志と立ち上げて、世界中を巡る場面は感動的です。
最終盤では Green Surgery(グリーン手術=環境に負荷をかけない手術)の話が出てきます。
ここで冒頭の幕内先生の「一時代前」の手術としっかり結びつくところは見事だと思いました。
読み終えてみると、大変上質な医療エッセイでした(というか、ぼくはそう読んだ)。
タイトルに怯んで、「自分は文系なので・・・」とか「医療の専門的な話は難しそう」などと思ってしまった人は、ぜひ、読んでみてください。
石沢先生の「青春〜青年記」として、十分に誰でも堪能できるはず。
ぼくは海外留学の経験がないので、本当にうらやましいと思いました。
みなさんにおススメします。
千葉大医学部の卒業なので、ぼくの後輩ということになりますが、かたや「教授」、かたや「フツーの開業医」なので、医療界におけるプレゼンスはまるで異なります。
先生は、肝胆膵が専門。
実はこの分野は、小児外科医にとってはちょっとした鬼門なんです。
小児外科では肝芽腫という小児がんを治療します。
全国の年間発生数はわずか40例くらい。各都道府県で割れば、1県に1例という感じです。
したがって肝切除をたくさんやった経験のある小児外科医なんて存在しません。
子どもの肝臓を切ることは、小児外科医にとってかなりのプレッシャーになります。
先生の前著は『手術はすごい』(講談社ブルーバックス)。
肝切除について詳しく書かれていました。
ぼくにはめちゃめちゃおもしろかったけど、これを一般の人がどう読むのかなと、強い興味がありました。
ちなみにブルーバックスの編集長はぼくの長年の友人なので、どういう人が読んだのか聞いてみようと思います。
そして、『手術はすごい』に続く第2弾。これは読まない手はありません。
タイトルからして肝切除や膵切除についてさらに専門的に書いてあるのかな?
蛍光イメージング手術についてさらに詳しく解説しているのかな・・・と先入観を持って読み始めました。
期待はいい意味で裏切られ、先生の「これまでの25年」と「これからの25年」が綴られていました。
それにしても、先生は文章がうまい。相当なストーリーテラーです。
先生のお師匠さんは東大の幕内先生(業界では幕内3兄弟として有名)。
肝臓切除の基礎を作った先生です。
また、幕内先生は「365日働くことに矛盾を感じなくなれば、きっといい医療ができる(大意)」と言います(『がんと外科医』岩波新書・阪本良弘)。
教育は軍隊教育で超ブラック(笑)。
千葉大小児外科と同じです。
今はもうこういう外科講座は存在しないでしょう。
そしてもう一人のお師匠さんはフランスのガイエ先生。内視鏡手術の巨人ですね。
ガイエ先生は、手術は自分だけができても意味はないと考えます。
みんなができることに意味がある、そういう考え方です。
これって千葉大の食道外科のレジェンドである中山恒明先生と同じ考えです。
石沢先生は「開腹手術」も「内視鏡手術」も名人となり、さらに蛍光イメージング手術でどんな外科医でも合併症を作らないように手術の質を上げていきます。
国際学会を同志と立ち上げて、世界中を巡る場面は感動的です。
最終盤では Green Surgery(グリーン手術=環境に負荷をかけない手術)の話が出てきます。
ここで冒頭の幕内先生の「一時代前」の手術としっかり結びつくところは見事だと思いました。
読み終えてみると、大変上質な医療エッセイでした(というか、ぼくはそう読んだ)。
タイトルに怯んで、「自分は文系なので・・・」とか「医療の専門的な話は難しそう」などと思ってしまった人は、ぜひ、読んでみてください。
石沢先生の「青春〜青年記」として、十分に誰でも堪能できるはず。
ぼくは海外留学の経験がないので、本当にうらやましいと思いました。
みなさんにおススメします。
本を読めなくなった人たち-コスパとテキストメディアをめぐる現在形(稲田豊史) ― 2026年02月18日 08時49分03秒
前作の『映画を早送りで観る人たち』がおもしろかったので、本作も読んでみました。
ちなみに前作でタイパという言葉を聞き、ぶっ飛びました。
さて、本作はZ世代の人たちがテキストをどう読んでいるかを描いたルポと評論です。
統計的に論じたわけではありませんので、Z世代の何%が本書で描かれたテキストとの付き合いをしているかは不明です。
しかしながら、ルポというのは重要で、一部のサンプルを取ることで全体像が見えてくることも十分にあり得ます。
まず、筆者の書く力に圧倒されました。
前作以上に文章がいい。
文章技法として表現力が豊かで、これはぼくも真似しなければと思いました。
そして物語る力が大変強い。深く、豊かに表現していました。
こうした力強さのベースにあるのは、筆者の考える力です。
奥の奥まで考えを掘っていくから、湧水のように言葉が出てくるのでしょう。
見事でした。
内容に関しては、読むのが苦痛でした。
感想を一言で言えば、Z世代ってこんなにばかなのか・・・という感じ。
X で140字読むのが限度で、長い文章が読めない。要は本が読めないのです。
また、読む必要もなく、ニュースはネットで無料で流れてくるし、YouTubeで解説してくれるので、それを倍速で観るわけです。
長い文章はチャッピーに放り込めば、要約を作ってくれるという塩梅です。
こうしたZ世代の人たちに「いや、それは違うよ」とムキになって反論しても意味はないでしょう。
この人たちは、読まないのではなく、読めなくなっているので、手の打ちようがないないわけです。
可哀想ですね。
ぼくは若者たちと付き合うのが好きです。昔から。
理由はばかだから。
ばかは大事です。頭の中が白紙なので、突拍子もないアイデアを出してきたり、猪突猛進で前進したりします。
可能性を感じるのですね。
だから大学時代は、学生に何かを教えることが好きでした。
しかしまあ、ここまでテキストが読めないとは。
ぼくはよく「若い者には負けない」と言いますが、本当に負けないと思いました。
先日出版した『60歳からの人生を変える22の発想』は、いかに YouTube を見ないで時間を有効にし、どれだけ本を読んで書評を書くのが重要かを論じた本でした。
ま、逆に言えば、60歳を過ぎると安易な方向に流れ、Z世代と同じようになってしまうこということでもあります。
最後の方で、本を読む人が減っているのに、本を書きたい人が増えているというパラドックスに触れていました。
いわゆる「なろう」系ですね。
この心理として、自己実現の欲求があると指摘していました。
マズローの欲求段階説を使って説明しているのは見事でした。
昨日は「りくりゅう」ペアが素晴らしい芸術を見せてくれました。
思わず泣きそうになってしまいました。
テキストの重要性は情報だけではありません。
文章を芸術なんです。大江健三郎を読むとよく分かりますよね。
Z世代の人たちが、そうした芸術を知らないままに人生を終えるのはちょっと惨めだと思いました。
前作も本作もタイトルを「人たち」ではなく「若者たち」にした方が、よかったのでは?
その方がさらに多くの読者を惹きつけたように感じます。
現在、中公ラクレで売れ行きナンバーワンです。
若者の今が分かります。ぜひ、どうぞ。
ちなみに前作でタイパという言葉を聞き、ぶっ飛びました。
さて、本作はZ世代の人たちがテキストをどう読んでいるかを描いたルポと評論です。
統計的に論じたわけではありませんので、Z世代の何%が本書で描かれたテキストとの付き合いをしているかは不明です。
しかしながら、ルポというのは重要で、一部のサンプルを取ることで全体像が見えてくることも十分にあり得ます。
まず、筆者の書く力に圧倒されました。
前作以上に文章がいい。
文章技法として表現力が豊かで、これはぼくも真似しなければと思いました。
そして物語る力が大変強い。深く、豊かに表現していました。
こうした力強さのベースにあるのは、筆者の考える力です。
奥の奥まで考えを掘っていくから、湧水のように言葉が出てくるのでしょう。
見事でした。
内容に関しては、読むのが苦痛でした。
感想を一言で言えば、Z世代ってこんなにばかなのか・・・という感じ。
X で140字読むのが限度で、長い文章が読めない。要は本が読めないのです。
また、読む必要もなく、ニュースはネットで無料で流れてくるし、YouTubeで解説してくれるので、それを倍速で観るわけです。
長い文章はチャッピーに放り込めば、要約を作ってくれるという塩梅です。
こうしたZ世代の人たちに「いや、それは違うよ」とムキになって反論しても意味はないでしょう。
この人たちは、読まないのではなく、読めなくなっているので、手の打ちようがないないわけです。
可哀想ですね。
ぼくは若者たちと付き合うのが好きです。昔から。
理由はばかだから。
ばかは大事です。頭の中が白紙なので、突拍子もないアイデアを出してきたり、猪突猛進で前進したりします。
可能性を感じるのですね。
だから大学時代は、学生に何かを教えることが好きでした。
しかしまあ、ここまでテキストが読めないとは。
ぼくはよく「若い者には負けない」と言いますが、本当に負けないと思いました。
先日出版した『60歳からの人生を変える22の発想』は、いかに YouTube を見ないで時間を有効にし、どれだけ本を読んで書評を書くのが重要かを論じた本でした。
ま、逆に言えば、60歳を過ぎると安易な方向に流れ、Z世代と同じようになってしまうこということでもあります。
最後の方で、本を読む人が減っているのに、本を書きたい人が増えているというパラドックスに触れていました。
いわゆる「なろう」系ですね。
この心理として、自己実現の欲求があると指摘していました。
マズローの欲求段階説を使って説明しているのは見事でした。
昨日は「りくりゅう」ペアが素晴らしい芸術を見せてくれました。
思わず泣きそうになってしまいました。
テキストの重要性は情報だけではありません。
文章を芸術なんです。大江健三郎を読むとよく分かりますよね。
Z世代の人たちが、そうした芸術を知らないままに人生を終えるのはちょっと惨めだと思いました。
前作も本作もタイトルを「人たち」ではなく「若者たち」にした方が、よかったのでは?
その方がさらに多くの読者を惹きつけたように感じます。
現在、中公ラクレで売れ行きナンバーワンです。
若者の今が分かります。ぜひ、どうぞ。
日本人の9割が知らない医学部受験の世界(佐藤正憲) ― 2026年02月15日 19時13分26秒
「9割が知らない」というので読んでましたが、ぼくは「1割」の方でした。
医学部を受けたんだから当たり前か(笑)。
本の内容は、医学部受験にとどまらず、日本の医療問題についても語っていました。
我が国の医療制度には問題が多すぎるので、こうすればいいという「解」はありません。
だって問題が複数あって、あちらを立てれば、こちらが立たないからです。
強いて解決策を上げるなら、少子化をどうにかするかじゃないですか? でもその子たちが社会を支えるまで20年はかかるんですよね。
医学部を受けたんだから当たり前か(笑)。
本の内容は、医学部受験にとどまらず、日本の医療問題についても語っていました。
我が国の医療制度には問題が多すぎるので、こうすればいいという「解」はありません。
だって問題が複数あって、あちらを立てれば、こちらが立たないからです。
強いて解決策を上げるなら、少子化をどうにかするかじゃないですか? でもその子たちが社会を支えるまで20年はかかるんですよね。
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