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山中先生の Cell を読む2014年05月25日 15時23分08秒

山中先生の Cell を読む
え? 今頃? と言われそうですが、山中先生が iPS 細胞を最初に報告した2006年の Cell を読みました。

多々感想があります。
まず全体として泥臭い構成だなと感じました。もちろん良い意味です。
科学者として事実に対して謙虚に、思考の過程に誠実に書いている。
奇想天外のアイデアですから、説得力を持たせようと考えたのかもしれませんが、山中先生の人柄が出ていると感じました。

そして著者が二人というのがすごい。
一説によると、強い批判が巻き起こる可能性を考慮して共同研究者を守るためにオーサーを減らしたそうですが、二人の名前で書くというのことは、研究全体を高橋さんと山中さんが完全にコントロールしているということ。
これだけ膨大なデータになると、他の研究者に任せた部分で隙が出やすいものです。それを自らの覚悟で封じ込んだのだと思います。

24個のクローンを得るためにESTデータベースを使ったのは有名な話ですが、しかし、こういう時代にあってもSouthern blotting などの古典的な研究手段はきちんと使われていることに感銘を受けました。
片手にコンピューター、片手に竹槍という感じです。

そしてこの研究のキモは、Fbx15 ノックイン・マウスによる幹細胞の検定方法でしょう。
Fbx15 は、幹細胞の中では強発現しているが、細胞の維持に必須ではないというユニークな遺伝子。
その遺伝子に、ネオマイシン耐性遺伝子をノックインして破壊する。
このマウスから線維芽細胞を取ってきて、24個の遺伝子を入れる。
幹細胞化すれば、FBX15が動き、ネオマイシンが働く。その結果抗生剤(G418)で死なない訳です。
こうやって幹細胞になったかどうか選別した訳ですね。

24個から4個に絞る際、高橋さんは1個ずつ抜く(23個ずつ遺伝子導入する)というアイデアを思いつきました。
山中先生も、あと2日あれば自分も思いついたと言っていますが、それは半分ギャグでしょう。
凡人の発想ではありません。ぼくだったら一生かかっても思いつきません。

顕微鏡を覗いて丸く盛り上がったフォーカスを目にした時は、どんな気持ちだったでしょう。
指が震えるくらい興奮したのではないでしょうか。

こういう論文を読むと何か自分の人生に価値が増したような気分になります。
ノーベル賞は当たり前でしょう。

追記)もう一つ感想を加えておくと、この論文はイントロに書いているビジョンが実に明確です。
ES細胞は、胚を壊す倫理的な問題と、移植の際に拒絶という弱点があるから、体細胞からES細胞を作る必要があるときっぱり言い切っています。
Cell の論文でこういう風に明瞭に臨床応用を意識したものは少ないと思います。

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