熊本市の慈恵病院が運営する「赤ちゃんポスト」に関して疑義を投げつけた1冊です。
筆者は地元熊本の(元)新聞記者。赤ちゃんポストに対して、最初は白紙で取材を始めたものの、取材相手から次々に疑問点を挙げられて、考えが「反対派」の方向に傾いていったようです。
その最大の理由は、赤ちゃんポストには、赤ちゃんの命を救っているというエビデンスがないことです。
筆者にもう少しサイエンスの知識があればよかったのですが、そこが非常に残念でした。
赤ちゃんポストが、赤ちゃんの遺棄や虐待による死亡を減らしたかどうかは、RCT をやらなければ分かりません。
そんなもん、できっこありません。
それに赤ちゃんポストは日本に1か所ですから、これは大海の一滴を掬うようなものでしょう。
有意差なんか出るわけがない。
赤ちゃんポストというのは、結局、理念なんだと思います。
理念が行政を動かせば、熊本市は協力してくれるし、賛同を得られなければ協力してもらえないだけです。
赤ちゃんポストが遺棄を誘発するという批判は、開始前からありました。
では、乳児院の存在は? 児童養護施設の存在は?
ノンフィクションの出来としてもあまりにも内省的で、自分の意見が出過ぎていると思いました。
ルポの部分と評論の部分を切り分けた方が、もっと良い本になったと思います。
それから、赤ちゃんポストを「賛成派」の立場から報道するメディアへの批判の章は、あまりに感情的で読むに堪えませんでした。
ここは要らなかったと思います。
この本は、2020年に小学館から単行本として出ています。
わずか3年で中央公論から文庫化。
それってどういう契約になっているのかな? ぼくには同じような経験がないので、分かりません。
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