これまでぼくは、障害のある子どもを家族が、そして社会がどう受容するかについて執筆や講演活動をしてきました。
ぼくはある時、頸髄損傷の障害を持った青年から質問されたことがあります。
それは、ぼくという医者が、医療界で異端者なのかどうかです。
この質問にはなかなかはっきりと答えることができません。
ぼくと異なった考えをする小児外科医もたくさんいます。どちらが正しいかそれは歴史が決めることでしょう。
8年前、日本小児外科学会の秋季シンポジウムが行われました。そこでは、先天性染色体異常のある新生児に対して外科治療をどこまでやるかがテーマでした。
発表者は若い先生が多く、彼ら彼女らは、固定観念に縛られることなく、障害があっても外科治療で命を助けようと奮闘していました。
しかしながら、こういう医者がすべてではありません。外科手術などやらないという考えの人は、そもそも学会に参加して発表などしません。
日本で一流と言われる小児外科施設でも、染色体異常の子どもを手術しない病院が実際にあります。
このときのシンポジウムで最も印象的だったのは、学会の重鎮である医師の意見でした。これは別に暴露話ではなく、公の場での発言でしたからここで紹介します。
まず木村健先生。日本で、いや、世界で一番高名な小児外科医と言っていいでしょう。元アイオワ大学小児外科の部長先生です。
木村先生は「障害のある子に手術してこれだけよかったとかの発表があったけど、現実はそうじゃない」「障害児が生まれると、夫婦は離婚して、きょうだいはイジメられ、家族はバラバラになる」と言っていました。自身の体験からの結論だそうです。
もう一人は、遠藤昌夫先生。元さいたま市立病院・病院長で学会の名誉会員です。先生は、染色体異常の赤ちゃんが生まれると、この子を治療しようとすると、どれほど高い医療費がかかるかを説明するそうです。そうするとたいていの親は、治療はいいですと答えるそうです。
木村先生も遠藤先生も、ぼくよりはるかに有名で経験豊富な外科医ですから、彼らが王道で、ぼくが異端かもしれませんね。ぼくなんか超マイナーな医者でしょう。
しかし、50年、100年と歴史が流れていく中で、真の王道に立っているのはどちらでしょうか?
ぼくは自分が正しいなどと言うつもりはありませんが、死ぬまで「命に線引きをしない医者」として生きていきたいと思っています。
ぼくがやっている執筆や講演など、太平洋に向かって石粒を1個投げ入れるようなものです。でも波紋は起きますよね? その波紋が広がっていくのか、消えてしまうのか、それは人々の意識が決めることでしょう。
学会の偉い人が決めることではないとぼくは信じています。
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