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彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠(樋田 毅)2021年12月01日 17時33分17秒

彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠
筆者は元朝日新聞の記者。だから文章は非常にしっかりしています。隙がないという感じです。
早稲田大学の川口大三郎君リンチ殺人事件を知っている人は、まずいないでしょう。
ぼくは知っていました。
立花隆の『中核VS.革マル』に出てくるからです。

筆者は川口さんの1年後輩。
革マルの暴力に対して「寛容」「非暴力」で闘った学生運動を指揮しました。
その闘争の過程の回顧録なのですが、あまりにも細かすぎて、また内容が絶望的すぎて途中で読むのが辛くなりました。
ぼくだったらさっさと退学したなとか思いました。
しかし終盤になって、筆者が闘いから「降りる」ところで、なんとも言えない共感・親しみ・同情みたいなものが湧きました。

そして彼は闘いから離れて社会に目を向け、新聞記者になります。そこらへんの挫折から再生の道のりが良かったです。
最後には、当時、革マルだった人間と「対談」をします。ここはやや冗長な印象もありますが、当事者の心理がとてもよく分かって有益でした。

本の結論として、「寛容」が「不寛容」を超えることについて、香港やミャンマーの民主化運動にまで話を広げます。
それが本の完成度を高めたのかどうか、ぼくには判断がつきませんでしたが、川口さんの事件から約50年を経て、筆者が事件に落とし前をつけたのはよく分かりました。

いい本です。オススメします。

出版と権力 講談社と野間家の一一〇年(魚住 昭)2021年12月01日 23時26分45秒

出版と権力 講談社と野間家の一一〇年
講談社の歴史を書いた講談社の本です。
ただ、歴史と言っても創業前から創業、そして戦時中の軍部との癒着、さらに敗戦後の再生を主に書いています。
全部で699ページ。圧倒的な迫力です。

この本の一番悪いところは、印刷のしかたです。
本を開きますね? 谷ができるでしょ? その谷の奥まで文字が印刷されているので、本を斜めにしないと文字を読み取れないのですよ。
どうにかならなかったのでしょうか? 読むのに大変苦労しました。

膨大な資料を紐解いて魚住さんは社史を語っていきますが、「資料からのそのままの引用」がちょっと多すぎたかな。
資料をもとに、著者がもっと「物語って」もよかったと思うし、その方がさらに面白かったと思います。

もっと印象的だったのはラストのシーン。アメリカ人のタレントが講談社から嫌韓・嫌中本を出版して、それを著者が強く批判する場面です。でも、これって社史とあまり関係ない気もします。
それから後書きもよかった。「月刊現代」時代の仲間が集まって魚住さんに本を書かせようとする。それが本作なんですね。
そういう編集者と作家の結びつきは、ちょっと感動的でした。

これぞノンフィクションという1冊でした。オススメします。