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白夜 渡辺淳一2020年11月09日 09時55分48秒

白夜
白夜の5巻を読み返しました。

この本は、若き日に読んだときには面白さが分かりませんでした。
5巻は、医学か文学か渡辺淳一が迷う場面ですから、若い医師であったぼくには、ちっとも興味を持つことができなかったのです。

ただ、数年前に読み返したときは、文学と医学の葛藤は分かるなと、興味をもって読みました。

ただ、今回、3度目の読書で、ちょっと感情移入できない点もややありました。
結局、渡辺さんは作家になって大成功したのだから、医学を捨てて正解だったのでしょう。
作家のセンスというのは、言葉の豊かさだと思います。
自分が見たり、聞いたり、感じたりしたことを、心の中に留めておかないで、どんどん言語化する。友人と、あるいは配偶者と会話して抽象的な気体みたいなものをどんどん言語によって固体化していくのですね。
そうすると物語る言葉が生まれてきます。

白夜の面白さは、やはり1巻に凝縮されているかな。入手困難かもしれませんが、オススメできます。

オリンポスの果実 (田中 英光)2020年11月09日 10時12分24秒

オリンポスの果実
オリンポスの果実を読み返しました。
3回目くらいかな。

ロサンゼルスオリンピックに参加するボートの日本代表選手が、船上で恋をする話です。
若々しく、瑞々しく、高揚感と気負いがあって、ナーバスな感情もある。
そうした主人公の心の中にある恋を、はかなく、せつなく、描いています。

最初に読んだのは、高校のときだったな。
あのときの感傷は、いま読み返しても消えていないと感じました。
こういう文学は永遠に残るので、いいですね。

マナーはいらない 小説の書きかた講座(三浦 しをん)2020年11月09日 10時18分53秒

マナーはいらない 小説の書きかた講座
三浦さんの小説は何冊か読みましたが、どれもが超のつく面白さです。
本当に才能がある人なんでしょう。
この本は、小説の書き方の解説書でもあり、エッセイでもあります。
エッセイとしての本書は特別面白いとは思いませんでしたが、小説の書き方は大変参考になりました。

人称の問題とか、時制の問題は、ぼくもいつも考えていることです。勉強になりました。

この世の中には、作家になりたい人が山ほどいると思います。しかし大多数の人は、三浦さんのように努力を十分にしていないのではないでしょうか?
言葉や物語がスラスラ出てくる人なんていません。
プロの人ほど、書く前の準備を丹念に十分に時間をかけてやっているのではないでしょうか。

ぼくも、書いてみようかな、小説。

しくじり家族(五十嵐 大)2020年11月09日 11時01分10秒

しくじり家族
CCCメディアハウスから、拙著と同時に刊行されたエッセイです。
Amazonの順位を見ていると、ぼくの本の10倍くらい売れているようです。
さて、本書はタイトルにも装丁にも惹かれます。
そして祖父が元ヤクザ者の暴力をふるう人間で、祖母は宗教にはまり、両親は聴覚障害者とのこと。つまり筆者はCODAです。
読む前から期待が高まらないわけにはいきません。

祖父が亡くなり、その葬儀を中心に本書は描かれています。
「ふつう」ではない家族と縁を切り、地元から遠く離れて暮らす筆者が、最も「ふつう」ではなかった祖父の死によって、家族の元に引き戻されます。
あれほど憎んでいた祖父に対して、喪主になった筆者は弔辞で祖父にに「ごめんなさい」と語りかけます。いや、語りかけざるを得ません。

「ふつう」ではなく、逃れたいと思っていた家族でも、やはり家族は家族。その結びつきは、やはり断ちがたいものがあり、どれだけ家族が「しくじって」いても、崩れて雲散霧消することはないわけです。
血は水より濃く、抜き差しならない濃密な人間関係がそこにはあります。
だから家族なんですね。
そういうことがよく書けていました。

ただ、ぼくは個人的な感想として、もっとCODAのこと、祖母の宗教のことなど、さらに深掘りして話を書いて欲しかった。
つまりこの倍くらいの分量の本を読んでみたかったなという気持ちがあります。
今後、別の視点からそういう本を作るのかもしれませんが、知りたいこと、話を聞いてみたいことが、たくさんありました。
筆者はこれからどんどん文章を書いていく人ですから、次回作以降を期待して待ちましょう。
楽しみです。