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牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って(三浦 英之)2019年06月08日 22時32分28秒

牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って
新聞記者らしい非常に大事な問題をテーマにしています。
ただ、そのテーマに応えるために、何を描けばいいのかは相当難しいと思います。
なぜ、密猟が横行し、象が殺されるのか?

それは日本人が象牙の印鑑を欲しがるから。
そのために、中国人が国ぐるみで象牙を買うから。
そのために、マフィアやテロ組織が資金源として中国人に売るから。
そのために、密猟者が象を殺す訳です。
ある意味、そのことだけが書かれている。それを1冊のノンフィクション文学に仕上げるためには、何を描くか。
本書はあまりにも取材の舞台裏の話が多く、ある意味、著者の取材日誌を読んでいるように感じられました。
文章は情緒的で、新聞記者が書く5W1Hがクリアな文体ではありません。
これは前作の「五色の虹」でも同様です。
文体は読者の好みですが、やはり「ファクト」以外は徹底して削ぎ落とし、事実と詩情が残る文章が完成度が高いとぼくは考えます。

些細なことですが、「○○さんは意図的に××した」という文章が2回出てきますが、こういう表現はちょっと変だと思います。
その行為が意図的だったかどうかは、著者には分からないはずです。
ノンフィクションでは見ない表現ですね。

レンジャーや密猟者の体験談を聞くだけなら、そうしたルポは多数あるので、同じことをやっても意味は無い。筆者はそう言いますが、そうでしょうか?
新聞記事の長期ルポを書くようにストレートな取材をすれば、さらにいい本ができたように感じます。