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30年ぶりの村上陽一郎先生2013年05月19日 20時45分49秒

ペスト
最近書評を全然書いていませんが、これは読書をしていないということではなく、本のジャンルが専門書ばかりだからです。
本日読了した本は、村上陽一郎先生の「ペスト大流行」です。

村上先生と言えば、科学史で高名。日本を代表する先生でしょう。
(ちなみに、奥さんは、僕がドイツ語を教わった先生)
ぼくは大学生の時に村上先生の著作を読ませて頂いていますから、おそらく30年ぶりくらいに「再会」したことになります。
今回この本は古本として落手しました。

大変な良書だと感じ入りました。
14世紀の欧州のペスト大流行を主軸にしていますが、医学の歴史をヒポクラテスの時代にまで遡り、流行の地理的広がりを東西に広げ、ペスト流行がもたらした社会的・政治的な影響についても語っています。
宗教とか信仰に関する部分も大変重要で、「鞭打ち運動」と呼ばれる「天国泥棒」は大変興味深く読みました(おおよそのことは知っていましたが)。
パニックが起こるとマイノリティーが弾圧されることは、我が国における関東大震災でも同様ですが、中世欧州でもユダヤ人狩りという痛ましい事件が起きています。
これも大事な指摘でしょう。

こんなことを書くとクリスチャンに抗議を受けそうですが、キリスト教というのは、どうも「愛と寛容」を説きながら、非寛容的な宗教に思えます。
村上先生もそのことを指摘しています。

賃金労働者の発生を以て資本主義の発生と考えるそうです。
ペストによって欧州の人口は半分になり、荘園制度は崩壊し、農奴は解放され、(売り手市場になってので)賃金労働者に昇格しました。
従って、欧州ではペストによって資本主義が始まった訳です。
何度もこのブログで書いていますが、「ペスト」と「天然痘」は人類史を替えたと思いますね。

しかしこれが先生の修士論文だったというのだから、驚きます。
知性がぼくとは桁違いなんでしょうね。
医者という人種は教養が無いとつくづく思い知らされます。

医学史を専門に研究しているのは、日本では順天堂大学だけなんです。
しかし以前にも触れたように、僕の恩師の恩師である川喜多愛郎先生は、日本を代表する医学史の専門家です。
その川喜多先生とせっかく縁があったのだから、「医学」と「歴史」をもう少し、時間をかけつつ学んでいこうと思います。
川喜多先生は、講談社の「野間科学医学研究資料館」という医学蔵書にも関わっているんですよね(これは今はもうないと聞いています)。
先人が積み上げてきた「医学史」という学問が途絶えないように、何か役に立てればいいなと思いますが、まずその前に、自分が勉強しないとまるで意味がないですね。