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「ピストルと荊冠 〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦」(講談社)角岡 伸彦2012年10月21日 23時04分00秒

ピストルと荊冠 〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦
じっくり楽しもうと思っていましたが、やはりすぐに読んでしまいました。
昨年、講談社ノンフィクション賞を受賞した角岡さんの作品です。
内容は、サブタイトルがすべてを示しています。
この本の良い点は、なんと言っても角岡さんの「文章」と、取材して集めた「証言」や「事実」をまとめ上げていく「構成力」だと思います。
特に「語り口」と相まって、本を作っていく力はさすがプロだなと心底思います。

角岡さんがなぜこの本を書いたのか、それは「あとがき」に詳しく書かれています。
部落解放運動の不祥事。
できれば書きたくなかったのでしょう。
だけど書かざるを得なかったのは、人間を善悪二元で断罪する、この世の空気や常識みたいなものに違和感があったからだと思います。

罪なき者がまず石を投げよという言葉がありますが、一体が誰が石を投げていいのか、もう一度よく考えてみる必要がありそうです。

個人的にぼくが読んでいて辛かったのは4章の終盤。
ヤクザの抗争の話が続きますが、ぼくはああいう世界が嫌いなので息が詰まりそうでした。
逆に最も吸い込まれそうになって読んだ部分は、本のラスト。
小西氏が自分の死を意識するくだりです。
死後の処置まで決めておくあたりは、何か人生の締めくくりに執念を持っているように感じました。
どうやって死ぬかは、どう生きたかの集大成ですから、小西氏はそこに拘ったのでしょう。

伝え聞くところによれば、角岡さんは、書くことよりも読むことの方が好きらしいのですが、そんなことは言わず、これからも作品を生み出し続けてください。

なお、この本はタイトルも装丁もイケてると思います。
お勧めです。
「評伝」というスタイルの一つのテキストになり得るような骨格を持った作品です。