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「松永仮説」のシェーマ2014年05月10日 15時08分46秒

「松永仮説」のシェーマ
昨日の仮説をシェーマで表すとこんな感じになります。
なぜ、細胞融合が起きるのか、それは不明です。
しかし4Nの神経芽細胞が発生した時を、神経芽腫のオリジン形成の瞬間と仮定するのです。

4N細胞は染色体1本を失って、3N細胞に。
この3N細胞は、「がん幹細胞」として生き続けます。
やがて3N細胞は染色体1本を失って、2N細胞に。
この2N細胞も、「がん幹細胞」です。
2Nがん幹細胞から、いろいろながん細胞が分裂・増殖していく過程で、1pを失ったり、17qをgainしたり、N-mycを増幅させる訳です。

神経芽腫の染色体に関する「松永仮説」2014年05月09日 23時46分34秒

神経芽腫の3N腫瘍の染色体分析
神経芽腫は大雑把に2種類の性質に別れます。
最初のグループは、「1歳未満」「転移なし」「分化または退縮する」「N-mycはまず増幅しない」「予後良好」です。染色体分析をすると、染色体が3倍体に増えています。これを3N腫瘍と呼びましょう。
次のグループは、「1歳以上」「転移あり」「分化も退縮もしない」「N-mycが増幅することがある」「予後不良」です。染色体分析をすると、染色体が2倍体のままです。これを2N腫瘍と呼びましょう。

普通に考えれば、「良質」の腫瘍が、より「悪性」の腫瘍に時間の経過と共に変化していく訳ですから、3Nから2Nへ変換するのはまったく不思議です。
従来の解釈では、神経芽腫とはそもそもオリジンが異なる二つの腫瘍、すなわち、3N腫瘍と2N腫瘍から成ると理解されてきた訳です。
しかしなぜ、腫瘍の染色体が3Nに変化してしまうのか? そしてなぜ、3Nの方がはるかに予後が良いのか、それはずっと謎であります。

ぼくは今日、ふと考えました。

「がん抑制遺伝子」を同定しようと考えた科学者たちの大本になった実験は、「細胞融合法」にあります。
がん細胞と正常細胞を融合させると、がんの性質が失われてしまう。だから、正常細胞の中には「がん抑制遺伝子」が存在すると彼らは睨んだ訳です。
その仮説が正しいことは、後に証明されたので周知のことですが、ぼくは「細胞融合」に注目してみました。

この実験は、ポリエチレングリコールやセンダイウイルスを利用して細胞を融合させることができる。
融合した直後には、細胞の中に核が二つある。
異核共存体(ヘテロカリオン)という状態です。
ここから細胞の分裂が始まると、細胞はまず4Nになります。
やがて染色体が脱落して3N前後になります。

神経芽腫でもそういうことが起きているのかもしれない。
細胞が融合して4Nになった瞬間が、神経芽腫の誕生と仮定してみましょう。

そして、染色体が脱落して3Nになった状態が神経芽腫の3N腫瘍なのではないでしょうか?
二つの細胞とは、「神経芽細胞と神経芽細胞」なのか、それとも「神経芽細胞と間質細胞」なのか、それはわかりません。
ですが、この3N腫瘍にはNGFシグナルを受け取る遺伝情報が残っていると考える訳です。

そしてさらに時間が経過すると、染色体の脱落が続く。いやもしかしたら、細胞がサバイブするために、分化能を有するアレルを捨てて、2Nになる。
これがまさに2N腫瘍なのではないでしょうか?
2N腫瘍は分化しませんから、自己の生存に有利なようにさらにN-myc遺伝子を増幅させます(N-mycが予後因子としての価値を今日失っていても、神経芽腫のバイオロジーを考える上で避けて通れない)。
ALKも重要な役割を果たしているかもしれません。

つまりぼくの仮説は、4N→3N→2Nという流れです。
いかがでしょうか?
現役の研究者のみなさん、この仮説を検討してみてください。

(なお、染色体分析の写真は、埼玉県立がんセンターの金子安比古先生に頂いたものです。転載を厳禁します)

STAP細胞を誤解してはいけない2014年04月22日 19時42分09秒

山中先生はiPS細胞の確立でノーベル賞を受賞しました。
受賞するのは確実でしたから、問題は「取るか否か」ではなく、「いつ取るか」にあったと思います。
ぼくの率直な感想は思ったよりも早かったということです。
何故かと言うと、iPSはまだ臨床応用されていなかったから。しかし、ノーベル委員会が山中先生とジョン・ガードンを同時受賞としたことで、受賞の意味がよくわかったと言えます。

ジョン・ガードンの実験は1960年代におこなわれました。
カエルの体細胞の核を取り出し、これを核を取り除いた卵細胞に移植する。核移植ですね。
すると、その卵細胞からオタマジャクシがうまれる。
つまり、分化が終了した体細胞にも、すべての器官に分化できる全遺伝情報が残っている(万能性が担保されている)ことを証明した訳ですね。

山中先生は、こういった実験の積み重ねの上に着想を得た。つまり、成熟した体細胞を初期化して万能性を持ったES細胞みたいものを作ろうと。
ES細胞では何故ダメか? それはES細胞が所詮は他人の細胞だからです。
つまり再生医療に使おうと思っても拒絶反応が起きる。
自分の体細胞を初期化して万能細胞を作りたい訳です。

従って山中先生の業績は「マウスの成熟した体細胞を初期化して万能細胞を作った」ことにあります。
ジョン・ガードンの受賞は、山中先生の研究の原理を支えたからです。

ではSTAP細胞が実在するとしましょう。
ある人はこれをノーベル賞級の大発見と言います。
本当でしょうか?
全然そんなことはない。
iPSは「山中因子」の遺伝子導入で初期化された。
STAPは、紅茶のような弱酸で初期化できると言います。
しかし、それは「マウスの成熟した体細胞を初期化して万能細胞を作った」ことには何の変わりもないのです。

ビショップとバーマスがノーベル賞を取ってしまえば、ロバート・ワインバーグは受賞できません。
サイエンスのパラダイムを作った人にだけノーベル賞は与えられるのです。

STAPは当初、iPSよりも「簡単、高効率、安全」に作成できるというふれ込みでした。しかしこれはウソであると現在明らかになっています。
哺乳動物の体内で自然にそういうことが起こっていれば驚異的な発見ですが、そんなことはほとんどあり得ない。

もしSTAPが本物だとしても、乗り越えていかなければならない課題は山のようにあります。
一般の人は、iPSは遺伝子を導入して作ったのだから、何か人工的で危なっかしいと思うかもしれません。
一方、STAPは紅茶ですから、自然で安全であると。

こういう誤解は分子生物学を知らない人の意見です。
生命現象のあらゆる表現は遺伝子の働きによるのですから、「山中因子」を外から加えようと、紅茶で誘導しようと、結局、体細胞の中では猛烈な遺伝子発現やエピゲノムの変化が起きている。
だって、成熟した体細胞が初期化されるんだから。

従って、STAPだって、もしc-Mycが過剰発現していれば癌化するかもしれない。
その時は、iPSと違って、c-MycをN-mycやL-mycに取り替えたりできない。
そういうことをきちんと知った上で、われわれはSTAPを理解した方が良い。
すくなくとも、「この細胞の存在が証明されたらノーベル賞」などということは、絶対に無いと断言しましょう。

サイエンスは誰のためにあるのか?2014年04月13日 20時06分37秒

価値があるサイエンスとは、「普遍性」があって「一般性」、「共通性」があって、少しでも多くの人に役立ち、結果として人類の福祉とか健康とかより良い暮らしに貢献するものです。
だから、科学者が何か新しい発見をしたらそれを一流雑誌に掲載し、世界中の学者がそれを追試して、誰もが同じ結果を得て次のステップに進むことが大事なんです。
ここまでの過程を経て、本当の意味で科学の進歩と言えるでしょう。
山中先生のiPS細胞はまさにそいった道のりを歩んでいます。

ところが彼女は200回、細胞の作製に成功したと言っておきながら、それには「コツ」とか「ちょっとしたレシピ」があると言ってそれを明かしません。
もしこの細胞が実在するならば、彼女はそれを独り占めしようとしている訳です。さらにはその「行程」を次の論文で発表したいみたいなことも言っています。
つまり1個のネタで複数の論文を「稼ごう」としている。

この姿勢を見るだけで、彼女は科学者として及第点に達していないと分かります。
いったい、どういう教育を受けて来たのでしょうか?

記者会見ではこの細胞が多くの人に役立って欲しいと述べていました。
一般の人はその台詞を聞いて、ああ、彼女は立派な人だと思ったかもしれません。
しかしこれは科学界では「決まり文句」なんです。
論文を書く時も、研究費の申請書類を書く時も、いかに自分の研究が人様のお役に立つかを強調する。
意地悪い言い方をすれば、これは空念仏のようなものです。

本当に彼女がこの細胞を使って難病の人達の役に立ちたいならば、今すぐにでも「コツ」や「レシピ」を公表すべきです。
そういうことはしないで、重要な写真を、「悪意はない」けれど単純に取り違えてしまう。
彼女がもし地位保存のために訴訟でも起こせば勝てるかもしれませんが、サイエンスの世界では通用しません。
残念ですが、もう終わっています。

普通の科学者とは逆2014年04月09日 20時53分21秒

サイエンスとはどのような作業でしょうか?

まず、何が問題かを考える。
次にそれを解決する仮説を立てる。
そして仮説が正しいか否か、実験する。
結論を得たら、それが間違っていないことを実験を重ねて証明する。
論文を投稿する。

ま、こんな流れです。
一流の科学者は、自分が得た結論を疑うものです。
本当に自分の仮説は正しいのかと何度も反問し、実験を繰り返します。
自分自身をコンビンス(確信)させないと、他人をコンビンスさせることなどはできません。
そして、論文のレフリーや科学界でのライバルが、グーの音も出ない程にデータを突きつける訳です。
これでもかっていうくらいに事実を提示して、得心させるのですね。

ところ現在騒がれている理化学研究所の研究者は、こういった普通のサイエンティストとはまるで逆の感性を持っているようです。
自分は200回、細胞を作ったと言っています。
強烈に自分でコンビンスしている。
ところが、周囲は全然そう思っていない。説得されていないのですね。
実験ノートを世間に突きつけて、自分の学説が正しいと説得できないところが、この研究者にとっては致命的だと思います。

もしかしたら、その細胞は実在するのかもしれません。
しかし当初、プレゼンしたように、iPS細胞に比べて「簡単に、高い効率で」作ることができるというのは、ウソだと言わざるをえません。
iPS細胞にはがん化の危険もあるとプレゼンしています。
これから、iPS細胞を使った臨床試験を受ける患者さんはどれだけ不安な気持ちになったことでしょうか?

若いサイエンティストはトレーニングの一環として患者を見るべきだと、ぼくは常々主張していますが、この科学者に関して言えば、完全に遅きに失したと思います。

千葉大学医学部へ行く2014年04月03日 20時54分21秒

千葉大学医学部の桜並木
休診を利用して出かけてきました。
認知行動生理学の清水教授に話を伺うためです。

清水先生は、もともとは統合失調症の原因を分子レベルで解析しようと、分子ウイルス学教室へぼくの後に大学院生としてやってきた方。
つまりぼくの弟弟子になります。
現在、力を入れているのは社会不安障害に対する認知行動療法。
この分野に関しては日本でトップなのではないでしょうか?

1時間ほど話を伺って、大変刺激を受けました。
精神医学というのは奥が深く解決しなくてはいけないことが山ほどあるようです。

写真は医学部と病院をつなぐ道路の桜並木。
きれいですよね。

世紀の大発見2014年01月29日 23時20分57秒

夜になってびっくりするようなニュースが飛び込んできました。
http://www.asahi.com/articles/ASG1Y41F4G1YPLBJ004.html?iref=comtop_6_01
これはすごい。
誰かがちゃんと取材して、一つの物語としてまとめる価値がある。

そんなこと、残念だけど、ない2014年01月13日 17時51分57秒

朝日新聞をネットで見ていたら、
「染色体異常が自己修復 iPS細胞で山中教授ら新発見」という記事に出会いました。
Natureに成果が発表されたと言いますから、大発見でしょう。
発見した科学者はこう述べています。
「予想外の結果で非常に驚いた。リスクもあるが、染色体異常の画期的な治療法につながる可能性がある」

世の中には100%という事象は存在しませんから、ぼくもそうは言いません。
しかし、この結果によって「画期的な治療に結び付く可能性」など、ほぼ100%あり得ません。
科学者はすぐに○○の役に立つという言い方をしますが、それは研究費の獲得という目的が頭にあるからです。
この論旨でいけば、「がん」などは何千回、何万回、解決されたか分かりません。

患者さんに、有りもしない期待を持たせることは残酷だと思います。自制して欲しいと思います。

もちろん、染色体異常は治って欲しいわけですが、それ以前の問題として、こういったお子さんをどう社会が受け容れていくのか、そっちの方に国家は予算を付けていくことの方が大事です。

サイエンスは芸術だ2013年06月05日 22時03分50秒

がん細胞の分化とRNAの変化
僕の友人・知人にはサイエンティストが何人かいます。
科学で生きていくのはなかなか大変というのは先日書いた通りです。
科学者は給料をもらって研究をする訳ですが、研究費が無いと研究ができません。
ではその研究費というのは、給料とは別に、所属する大学や研究所に予算として付いてくるのでしょうか?

実はそういった予算は、話にならないくらい低額なんです。
従って文科省や厚労省から「研究費」をゲットしなくてはなりません。
研究費は無限にある訳ではありませんから、研究者同士で熾烈な争奪戦になる訳です。
そのためには研究計画書を提出して、いかにこの研究が「役に立つか」ということを審査員に売り込まなければなりません。
これが実に大変なんです。
もちろん科学は人のために役立った方がいいのですが、本当にそうでしょうか?

アリストテレスは「人は誰でも生まれつき知ることを求める」と言いました。
ぼくもまったくその通りだと思います。
人に睡眠欲や食欲や性欲があるのと同じように、知りたいという欲が絶対にあるはずです。
これは役に立つうんぬんの話ではない。
人間の根本に結び付いた欲求でしょう。
だから、音楽や美術を求める気持ちと同じ種類かもしれません。
つまり高度なサイエンスは芸術と言っていいと思います。

研究費を取得しようとするとき、どうしても有用性が議論されますが、そういうレベルから卒業できませんかね?
だって日本って先進国なんだから。
宇宙開発だって、本当に実用性ってあるんですか?
あれは人の知的好奇心に応えているだけなんじゃないですか?
それと同じようにライフサイエンスも、生命の不思議を解き明かしてくれるなら、私たちはそれに対して税金を払っても良いのではないでしょうか?

写真は僕が大学院時代におこなった研究のハイライトになった一枚です。
神経芽腫という小児がんの細胞が分化していくに従って、ある「がん遺伝子」の1本のDNAから、3種類のRNAが読み取られ、その比率が変動していくんです。
現像器からこのフィルムが吐き出されてきた時、僕は感動のあまり廊下にへたり込みそうになりました。
こんな美しい絵は、一流の画家さんでもなかなか描けないでしょう。

サイエンスは芸術です。
一流のサイエンティストが研究費申請のための書類書きに忙殺されてはいけません。

医者を辞めようと思ったこと2013年05月26日 21時40分59秒

分化したがん細胞
医者になって26年ですが、その間、一度だけ医者を辞めようと思ったことがあります。
医学部を卒業して2年間の研修医生活を終え、僕は大学院へ進学しました。
ここで今まで何度も書いている通りです。
「分子ウイルス学」教室で、小児がんの遺伝子を研究したのですね。

上の写真はシャーレの中で永遠に生き続ける神経芽腫というがん細胞です。
この細胞にビタミンAをふりかけると、細胞が分化(成熟)し、分裂が止まるんですね。ま、それはどうでもいいでしょう。

で、指導者の先生に恵まれたこともあり、けっこう業績を挙げることができました。
スウェーデンのグループと競争になって、先陣争いをするかのように研究をまとめ英語論文を発表しました。

NatureとかScienceといった世界一の雑誌には論文は載りませんでしたが、最先端科学の背中は見えたような気がします。
大学院での研究生活は本当に面白くて、ぼくはまるで憑かれたように朝から晩まで研究をしていました。

この頃、分子ウイルス学教室に若くて綺麗で性格の良いお嬢さんが秘書として雇われて来ました。
あまりにも綺麗な人なので、彼女を分子ウイルス学教室で研究している大学院生の誰かと縁結びしてしまおうと、僕の指導教官が言い出したんですね。
その時、未婚で最年長の大学院生は僕でしたから、順序を踏めば、その「縁談」は僕に来て然るべきだったのですが(笑)、僕の余りの研究への没頭ぶりに、「縁談」は僕を飛ばして僕の後輩へ持ち込まれました。
はい、二人はめでたくゴールインしました。

ま、そんな話はどうでもいいのですが、教室を主宰していた清水教授が「小児外科医を辞めて、ここに残らないか? ポストを用意するから」と言ってくれました。
猛烈に迷いました。
研究を続けたいという思いがある一方で、人生のすべてを研究に捧げる程の才能が自分にあるだろうかと心に問いました。

その時に読んだ本が、ナタリー・エインジャーの「がん遺伝子に挑む」という作品。
この本の中でウエブスター・キャベニーという高名な科学者が「科学者はトレーニングの一環として病院へ行くべきだ」と警告するんです。
つまりサイエンスとは科学者のものではなくて、患者(子ども)のためにあると言っているのですね。
僕はこの文章を読んで、科学者へ転向することをとどまりました。
小児外科の先輩の先生の中には、ぼくが医者を辞めてしまうと予測した人もけっこういたと思います。

で、今となってみるとどうだったか?
やっぱりサイエンティストは難しい人生だと思います。
やればやったで、何かのポジションを得て、普通に家庭を支えるだけの収入は得ていたと思います。
だけど、山中教授のiPS細胞のような大発見はとてもできなかったでしょう。
どちらが良い人生か、それは何とも言えません。

外科医という仕事を続けたおかげで、たくさんの子どもの命を救えたのは本当に良かったと思いますが、その反面、外科という封建的・非民主的な世界が自分に相応しかったのか疑問に感じることも多々あります。

ま、人生というのは結局のところ、自分にできることをしっかりとやっていく以外に道はないのだから、大それたことは考えず地道に医者を続けていこうと今は思っています。