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書きたい人のためのミステリ入門(新井 久幸)2021年08月08日 20時45分00秒

書きたい人のためのミステリ入門
ミステリ作家になりたいと思ってこの本を読みました。
大変面白かったのですが、書き方の説明は後ろの方に少しだけ書かれているだけでした。
本の元になった連載のタイトルには「読みたい人のため」という言葉も付いていたようです。だから本書は、ミステリ賞の選考委員によるミステリガイドといった感じですね。
そのミステリも広義のものではなく、「本格」というやつでした。
ネタバレは基本的に無しでしたが、ネタバレのガイドがあっても売れるような気がします。
タイトルに『ネタバレ! ミステリ入門』とかいう本はどうですかね? 売れるんじゃないかな。
楽しく読ませていただきました。

取材・執筆・推敲 書く人の教科書(古賀 史健)2021年08月01日 21時59分31秒

取材・執筆・推敲 書く人の教科書
著者は大変有名なベストセラー・ライターです。
ぼくもベストセラーを出したくて読んでみました。
大変おもしろく読むことができました。480ページもあり、3年がかりで書いた内容ですから読み応え十分で、読破するのに数日かかってしまいました。

読む前は教科書的な実用本・技術書みたいなものかと思っていましたが、読後の感想は、筆者が蘊蓄を語るとか、思想を述べるという形式かなと感じました。
こういう本を世に出すだけはあって、文章はとてもうまいと思いましたが、読点がちょっと多いかなという印象を持ちました。
ぼく程度の才能では、この本を読んでもベストセラーは書けないかな?という感じです。

52ヘルツのクジラたち(町田 そのこ)2021年07月27日 23時50分42秒

52ヘルツのクジラたち
時々モーレツに小説(フィクション)を読みたくなります。で、今、話題の本作を読みました。
アマゾンの書評を見ると、どうしてこんな人間性が歪んだようなレビューが付いているの? と思います。
この作品は細かいことを言えば、欠点はあるかもしれませんが、全体としてみればとても優れた作品だと感じました。
まず、文章がいい。
小説家は、ノンフィクションライターと違って、文章が研がれていますよね。
心地よく文章を味わうことができました。
それからプロットが大変よく練られていました。どうやってこういうストーリーを考えつくんでしょう?
ぼくにはとても無理。才能なんでしょうね。うらやましいとしか言いようがありません。
読んで本当によかったです。
皆さんもぜひどうぞ。

〈反延命〉主義の時代: 安楽死・透析中止・トリアージ(小松美彦, 市野川容孝, 堀江宗正)2021年07月18日 21時56分49秒

〈反延命〉主義の時代: 安楽死・透析中止・トリアージ
ここ数年、延命を「よくない」ことと捉える社会の風潮があります。
何がきっかけだったのかはわかりませんが、2017年に『安楽死を遂げるまで』(宮下洋一)が出版されたことが一つの契機になっているようにも見えます。
(宮下さんが安楽死に賛成しているわけではないので、誤解なく)
この本を起点に、日本人で神経難病の患者さんがスイスに渡り、医師の助けによる自殺をしたり、橋田寿賀子さんが『安楽死で死なせて下さい』という本を書いたりしました。
1年前には京都でALSの女性に対してSNSで知り合った医師たちが安楽死(嘱託殺人)に手を染めたりもしました。
さらには新型コロナウイルスの広がりに伴って「トリアージ」という言葉が、本来の医療現場とは違う使われ方で脚光を浴び、助かる見込みのない人から、見込みのある人へ人工呼吸器の付け替えが議論されたりしました。

こうした一連の事件や社会現象の底にあるのは延命は「よくない」という考え方です。
延命という言葉が汚れてしまった印象を受けます。

しかしそれはあまりにも医療の現実を知らない人の意見です。
外科手術の役割とは何か、みなさんはご存知でしょうか?
もっとわかりやすく、あなたが胃がんであった場合、外科手術はあなたに対して何ができるでしょうか?
答えは次の3つです。
1 根治・・・完璧に治すことができれば最高の結果です。
2 QOL向上・・・手術不可能な時は、胃と小腸をバイパスして食事を摂れるようにします。
3 延命・・・リンパ節転移が広がっている場合、根治は期待できません。でも、胃を切除しリンパ節郭清をすれば延命が期待できます。退院して家族と有意義な時間を過ごすことができれば、延命は非常に大事な手術になります。

つまり、延命というのは本来、医療の中において大事な治療法の一つなのです。
命を大切にすること、それを見失ったときに医療は瓦解します。
安楽死や医師の助けによる自殺が世界で広まっていますが、患者を死に至らしめる行為を医師にやらせるのは、あまりにも残酷です。
医者は10年、20年と修行を積んで、人間の命を「助ける」ことができるように生涯をかけて研鑽していくのです。
医者の本能は人を助けることにあります。
世論調査をすると70%以上の人が、安楽死・尊厳死に賛成だそうですが、致死的行為を医者にやらせるという発想は、あまりにも他人任せで無責任ではないでしょうか。

その一方で、人の命はどうやっても助けることができない状況があります。たとえば、癌が再発し全身の臓器に転移した場合ですね。
そうしたケースでは、医療者は患者(家族)に心を寄せて、いかに人生の終わりを「生き切るか」をともに考える必要があります。
これは「反延命」主義とはまったく異なるものです。
患者が人生をまとめることに力を貸すことも医者にとって大事な仕事になります。
一般の人には、この両者を混同しないでほしいと思います。

ドキュメント がん治療選択 崖っぷちから自分に合う医療を探し当てたジャーナリストの闘病記(金田 信一郎)2021年07月17日 22時28分29秒

ドキュメント がん治療選択 崖っぷちから自分に合う医療を探し当てたジャーナリストの闘病記
面白くて一気に読みました。
筆者はジャーナリストなので、文章も上手で、外(自分から見える世界)も内(自分の心の中)もしっかり描けていました。
やや分厚い本で冗長な部分もありましたが、1つの作品として完成していると思います。

さて、筆者は食道がんのステージ3。ぼくが研修医の頃だったら、助かる見込みはないですよね。
手術しても再発して・・・という経過です。しかし今は、放射線療法と化学療法のエビデンスが蓄積されていますから、どういう治療が最も助かる確率が高いのかデータとしてきちんと示されています。

結局、著者は手術を選びませんでした。抗がん剤治療と放射線治療を選択します。これは、手術と抗がん剤という標準療法に比べて生存率が低いものです。
なぜ、それを選んだか?それは術後のQOLがとても悪いと判断したからです。
仕事ができなくなるくらいなら、少しくらい生存率の高い手術は拒否するということです。
それも一つの生き方でしょう。ぼくもそういう選択をするかもしれません。

この本を読んで驚いたことは、東大病院の食道外科が患者に対してちゃんとしたムンテラ(説明)をしないことです。
ぼく自身の経験と照らし合わせるととても考えられません。
小児がんと違って、大人の癌は患者が多いので、とても一々説明できないのかしれません。
それから、手術を断る筆者に対して医師が全然引き止めないこと。これも驚きでした。
小児医療では、医者が子どもの親代わりみたいになる場面がよくあります。
パターナリズムの一種かもしれませんが、こうした医師の姿勢によって子どもが治っている部分もあります。
しかし成人の医療って、本人が「この治療を受けよう」と思わない限り、放っておかれる面があります。
自らを助けようとする者を助ける・・・という感じです。

筆者がちょっと誤解しているかな?と思ったのは、セカンドオピニオンについてです。
セカンドオピニオンを求めると医者の機嫌を損ねると思っている人は多いように感じますが、そんな時代はもうとっくに終わっています。
セカンドオピニオンは全然問題なく受けることができますよ。

筆者の闘病はまだ終わっていないようですが、完治されることを心からお祈りしています。

決定版-HONZが選んだノンフィクション(成毛 眞 著, 編集)2021年07月15日 22時44分33秒

決定版-HONZが選んだノンフィクション
知っている人は知っている、知らない人は誰も知らない(当たり前か)書評サイトのHONZによる書評集です。
10年の間に書いた書評の中からベスト100を選んだそうです。
対象はすべてノンフィクション。したがってぼくが読んだ本もけっこう含まれていました。

さて、このベスト100を読むと、次のような特徴があります。
まず、翻訳本がかなり多いこと。ベストセラーに拘らず「掘り出し物」に光を当てていること。それでいて、テーマとしてはわりとスケール感のある本が多いことです。

書評を書くというのは大変難しく、ぼくも年に何度か仕事で書きますが、毎回迷いながら原稿を仕上げています。
内容紹介(あらすじ紹介)になってしまうのは最低。また宣伝惹句のように「詳しく知りたい人を本書で確認を!」というのも面白くない。
するとどう書けばいいのか非常に迷うわけです。

また書評には2つのスタイルがあって、1つはその本の魅力を「発見」するという形、もう1つは「いい点」と「悪い点」をしっかりと批評するという形です。
ぼくは自分のブログで短い書評を書くことが多いのですが、主に前者のスタイルをとっています。
つまらない本は、そもそも書評を書かない。
しかし最近は歳をとって、少し偉そうなことも書いていいかなと思って、「悪い点」を敢えて書くことがあります(特にベストセラーなど売れている本に対して)。

本書は何人もの書評の名手たちが、腕を競うように魅力的な文章を書いています。
あ、こんな書き方もあるんだなととても勉強になりました。
書評のスタイルにはもちろん個人差が見受けられますが、共通しているのはノンフィクションに対する深い愛です。
やっぱり愛が大事ですね。

この本を読んで、取り上げられている本に手を伸ばすもよし、この本自体を一種のノンフィクション作品として楽しむのもよし。
おススメしますので、楽しい時間を過ごしてください。

「がんになって良かった」と言いたい(山口雄也+木内岳志)2021年07月15日 21時27分26秒

「がんになって良かった」と言いたい
先日、お亡くなりになった京都大学の学生さんの闘病記です。
ぼくは、闘病記をよく読みます。そして悲しいことに本が出版されてしばらくすると、著者の訃報が伝わってくることが結構あるんですよね。
この本もそんな展開でした。
闘病記をよく読む理由は、闘病記が人間の本質の部分を掘り下げていくからです。
人ってなんだろうと常日頃からよく考えますが、人間は死に接すると「置き換え不能」な自分と対面せざるを得ません。すると自分って何かが見えてくるんですよね。
また、死はあらゆる人が経験することではありますが、死とは何なのか誰にもよく分からないという部分があります。
その分からない死に対して自分なりを答えを用意しようとあがくのが、闘病記だと思うのです。
ぼくはあまり体が丈夫でなく、社会人になってからこれまでに7回入院しています。
死を考えたことも何度もあります。
しかしその一方で、病気による死の切迫感よりも加齢によるそれの方が切実だったりするのですよね。
人生の後半戦に入って、残りの人生をどう生きるか、これまで以上に真剣に考えるようになりました。
これからも闘病記は読んでいこうと思っています。

エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り(村山 祐介)2021年07月13日 22時02分41秒

エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り
トランプ前大統領の国境の壁のニュースは誰でも知っていることでしょう。しかしその実態はどうなっているのか?
壁は実際に存在していて、不法移民は壁でブロックされているのか?
そういうことを我々は知りません。
本書は、アメリカとメキシコの国境の壁にまつわる移民のルポです。
時間的にも空間的にも大作に仕上がっています。一級品の出来栄えでしょう。

国境の壁というと、どうしてもメキシコとの関係の話になりますが、それだけではありません。中南米の国々は犯罪や貧困、治安の崩壊などにより国家が立ちいかなくなっています。
誰だって好きで移民になる訳ではありません。
移民になってアメリカを目指さないと生きていけないのです。
中南米を出発した移民の集団は、行進と共に人数が膨れ上がり、何千人という規模になります。
密かに密入国するのではなく、集団で助け合いながら国境を目指すのです。こうしたキャラバンという行進は、旧約聖書の出エジプト記のなぞられてエクソダスと呼ばれるようになります。
この集団は「約束の地」、アメリカを目指すのです。

しかし「約束の地」アメリカで待ち受けているのは天国ではなく、トランプです。彼は自身の政治勢力を強化する目的もあり、キャラバンを侵略者・犯罪集団と見做し、国境で立ち塞がります。
でも、この本で描きたかったことは、トランプのことではなく、移民化せざるを得ない経済の貧しさだったのではないかと思います。
日本に住んでいては分からない世界の地位格差、経済格差が本書によってよく書かれていたと感じました。
良質のルポルタージュです。

なお、この本はカバーデザインもいいし、タイトルによく『エクソダス』と付けたと思います。
ベストセラーになっているのかどうかは分かりませんが、こういう本は評価されて欲しいですね。

沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝(細田 昌志)2021年07月11日 19時22分09秒

沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝
この本は、面白いとか、そうでないとか、そういうことを超越した作品です。
野口修とは格闘技&芸能プロモーター。
キックボクシングという格闘技を「発明」し、沢村忠をこの世に出し、五木ひろしもこの世に出します。
本書は野口修の父親の人生から書き始めていますので、壮大な大河ドラマになっています。ここまで書くか、といういくらい丹念に野口家の興亡を綴っていきます。

執筆にかかった歳月は10年。最初の6年の段階では出版社も決まっていなかったそうです。
仕事も減らしていって、この本の執筆に賭けたそうです。その結果できながった本書は上下二段組550ページです。
いや、読みごたえがありました。4日もかかりました。
細かい感想をここで書いてもしかたないでしょう。いくつものエピソードがあるので、いちいちコメントできないという感じです。

ノンフィクションってここまでして書かなければいけないのかと、ちょっと複雑な気持ちになります。だって、10年かかって1冊でしょ?
この本は2刷りにはなっていましたが、超ベストセラーではないと思います。ノンフィクション冬の時代にあって、10年がかりの労作を書き切ったのは、筆者の執念でしょうか?それとも野口さんに対する思い入れでしょうか?
スーパーヘビー級の一作です。格闘技に興味のない方にも読んでもらえる内容だと思います。
「評伝」というジャンルに興味のある方におススメします。

老いる意味-うつ、勇気、夢(森村 誠一)2021年07月07日 22時37分01秒

老いる意味-うつ、勇気、夢
森村誠一さんは88歳だそうです。
中学生の頃、『新幹線殺人事件』などを読みましたので、あれから45年くらい経ったことになります。
今回の作品は、老いることの意味についてのエッセイ。
現在、ベストセラー中です。

森村さんは老人性うつ病も経験したそうです。回復するのに3年かかったと言いますから、相当つらかったでしょう。
現在はマイペースで仕事と日常を過ごしているようです。

ぼくは髪の毛が黒いので年齢以上に若く見られますが、昔なら「定年退職」という年齢に差し掛かってきました。今から9年ほど前、サイクリングに凝って、できれば長く続けたいと思いましたが、3年くらい打ち止めとなりました。1番の理由は、千葉には(おそらく日本全体も)自転車が安全に走れる道がないことです。
何度も怖い思いをして、これはいつか事故に遭うなと思ってやめてしまいました。

先日、上智大学まで講演に出かけましたが、千葉に戻ってから下肢の筋肉痛と疲労を覚えました。おそらくこの1年、コロナで東京に行っていなかったので、体力が落ちたのでしょう。
しかしこんな生活を続けていたらどんどん老化していきます。
立花隆さんは75歳を過ぎて後期高齢者になると人生観が変わる・・・みたいなことを言っていました。
ぼくはまだまだ若いのかもしれませんが、やはり人生の最終段階をどうするかについて最近ではとてもよく考えるようになりました。

ぼくは、死は怖いものとは思っていませんので、自分の人生が終わることへの不安や恐怖はありません。
少し前までは、自分の人生のミッションを終了したらさっさとあの世に行ってもいいやとさえ思っていました。
しかし最近になって少し長生きしたい気持ちがあります。
それは二人の娘の将来を見届けたいという思いがあるからです。
人生の意味にはいろいろあると思いますが、「人生の意味を悟る」こと自体が人生の意味かもしれません。
ぼくは自分でそのことを理解したのは40歳くらいになってからです。
つまり大病をして、大学病院から放り出された頃から深く物事を考えるようになりました。

ぼくの娘たちはこれからどういう人生を歩んでいくのか、まだ、よく見えていません。
彼女たちが、この世に生まれたことを肯定できて、自分がなんのために生きているのかを悟るところを、できればぼくは見届けたいという気持ちがあります。
だからもう少し生きてみたいかな。

『オンリーワンの花を咲かせる子育て』という本を書いた時、締めくくりの言葉として、
夢・自由・理想
の3つをあげました。ぼくの人生はまだまだ終わったと思っていませんし、医療においても、物書きとしても、この3つをもう少し追求していきたいと思っています。
夢を捨てず、理想を掲げ、自由に生きていきたいですね。