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農協の闇(窪田新之助)2022年11月22日 22時11分51秒

農協の闇(窪田新之助)
農協(JA)に関する不祥事や暗部について書かれた本です。
JAは非常に幅広く事業を展開しているそうです。やらないのは「パチンコと風俗だけ」と言われるくらい、何でも行う「何でも屋」なんだそうです。
そうすると、いろいろと無理が出てくるようで、この本では特に共済について深掘りしていました。
テレビCMでやっていますよね、♪ JA共済 ♪〜〜。
こんな内情があるのかと驚くのですが、こういうのってどこにもあるのでは?とも思ってしまいます。

ま、大体、大きな組織って内側が腐っているんですよね。
前例を踏襲するので、腐敗は温存されて、誰も改革なんてしません。そんなことをすれば組織から弾き出されるから。
そういう意味では暗澹たる気持ちになる作品です。

この本とは別ですが、ぼくがクリニックを作った16年前にこんなことがありました。
開業の準備をしているとき、新聞屋さんがやってきました。
新聞をとってくれと言うのです。
ぼくはクリニックで新聞を読むような余裕はありませんので、断りました。するとその販売員さんは、どうしてもお願いしたいと帰ろうとしません。ぼくはすっかり困ってしまいました。
ちょっと怖い感じの人だったし。
で、どうなったか。
その人は、ぼくに6か月分の新聞代を押し付けたんです。
このお金で新聞をとってくれと。
つまり自腹を切って、新聞購読の業績を上げたかったのですね。

こんなことで、新聞の発行部数を競っているなんて、なんてむなしいのだと心底思いました。
え? どこの新聞かだって?
もう16年前なので、覚えていません。
朝日だったかな・・・読売だったかな。
でもね、一言言わせてもらうと、たとえ新聞代をもらったとしても、うちは損するんですよ。
クリニックって一般の家庭のようにゴミをだすことができないんです。
業者さんに来てもらってゴミを回収してもらっているのです。つまり新聞をとるということは、ゴミ代をぼくが払わなくていけないということです。

長く生きていると、世の中にはいろいろ表に出せない裏事情があると分かってきます。この本はそういうJAの裏をしっかり取材して告発した1冊でした。充実した内容です。
興味のある方は、ぜひ、どうぞ。力作です。

無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記(山本文緒)2022年11月23日 22時03分12秒

無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記
山本さんの本は『プラナリア』が何と言っても印象的でした。
その彼女が58歳で膵臓がんで亡くなります。
本書は、最期の日々を綴った日記です。ただ日記と言ってもプライベートな日記ではなく、出版することを前提に書かれた日記ですから、文章の完成度は高いです。
立派な闘病記(本人は逃病記と言っている)として仕上がっています。

山本さんはなぜこの闘病日記を書けたのでしょうか。それは強い精神力みたいなものではありません。
作家だからですよね。作家って書くことが好きだし、本が出来上がることが好きだし、読者に読んでもらえることが好きなんです。
だから彼女も書いたのでしょう。つまり自分の人生の最期に自分の最も好きなことをやっていたのだと思います。

そしてぼくみたいな読者が、その本を読んで感想をSNSで述べたりするって山本さんには本当に嬉しいことなんだと思います。
ぼくも余命宣告されるような病気になったら書きますよ、きっと。商業出版されるかどうかは別ですが。
そうやって自分の最期の日々を記録に残すんじゃないかな。

いい作品でした。
いい作品が残せてよかったですね、山本さん。

うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編(相原コージ)2022年11月24日 21時22分00秒

うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編 (相原コージ)
実は相原コージの大ファンです。
その相原さんがうつ病になったという。そしてそれを漫画にしたというではありませんか。
早速買って読みました。

めちゃくちゃシリアスな内容なんですが、そこはギャグ漫画家。ところどころで吹き出してしまいました。不謹慎でしょうか。すみません。

この本は、「発病編」。これからいよいよ面白くなりそうです。続編は2023年に出るそうです。待ち遠しい。

ぼくはうつ病に関する本はけっこう読んでいて、少しは知識があります。うつになると、元気が無くなるだけでなく、思考回路が鈍くなってしまうんですよね。ちゃんと考えられなくなる。
相原さんには妄想みたいなものも出ていました。

うつ病は心の風邪だという人もいますが、うつから抜けられるかどうかはかなり個人差があるように思います。
また再発することも多い。
周囲に愛され、本人が自分を愛することが重要なのではないでしょうか?

いずれにしても相原さんの漫画を久しぶりに読むことができて、とても良かったです。
現在は元気なのかな。いい奥さんがいるんだから、夫婦ともに幸せにお過ごしくださいね。
ぜひおススメの1冊です。
(でも、現在、うつ病の人にはちょっとススメられません)

私の半分はどこから来たのか AID[非配偶者間人工授精]で生まれた子の苦悩(大野和基)2022年11月25日 22時49分03秒

私の半分はどこから来たのか AID[非配偶者間人工授精]で生まれた子の苦悩
AID=非配偶者間人工授精について書いた本です。
筆者の大野さんは、10年以上をかけて世界を回ってこの本を仕上げました。
AID で生まれた子どもには、出自を知る権利があるのはまったくその通りだと思います。
ですが、そもそも、AID で誕生させられる子どもの人権って何だろうかって、ぼくは考えてしまうのです。

いや、こんな考え方は古いのかもしれませんが、精子・卵子提供で生まれた命、生まされた命って、親の欲から誕生した命なのではないでしょうか。
命とは、授かるもので、作るものではないというのがぼくの基本的な認識です。
子どもに恵まれない親の「どうしても子どもがほしい」という言葉を聞くたびに、それは何だか剥き出しのエゴに思えてならないのですよね。
保守的すぎますかね?

出自を知る権利がやっと世界的に認めらるようになってきたという時代の流れこそが、AID に無理があったことの証左だと思います。
最初はあまり深く考えずに始めてしまったというところが正解でしょう。その矛盾がだんだん露呈し、生まれた子どもが苦しむことになって、ようやく知る権利が確立したということです。

筆者は、LGBTQやシングルの人にも配偶子提供を保険適用すべきと主張しています。
なるほど、そうかもしれません。そういった方々を差別する理由はどこにもありません。
時代と共に家族の形は変化していくでしょう。
ぼくはそれに追いついていけるか、自分ではよく分かりません。

特別養子縁組ではなぜいけないのか?
AID で子どもが生まれ育ち、その過程で育ての父親はどう思っているのか?
アーティフィシャルな命については、これからも考えていきたいと思っています。

長い取材が実ってよかったですね。いい作品でした。おススメします。

あきらめない男 重度障害を負った医師・原田雷太郎(長田昭二)2022年11月29日 22時20分23秒

あきらめない男 重度障害を負った医師・原田雷太郎
主人公は頸髄損傷で四肢麻痺に近い医師。
彼は介護されながら、老健の施設長として働いています。
ま、ちょっと破格の医師と言えるでしょう。

この本の出だしは、老健の解説のようになっていて、ややもたつく感じがあります。
その後、主人公の闘病に話がさかのぼり、一気に話がおもしろくなります。
おもしろいと言っては失礼かもしれません。ですが、引き込まれるように読んでしまいました。

この本のタイトルは「あきらめない男」ですが、本当にそうだなとつくづく思いました。
ぼくならきっとあきらめてしまうな。
なぜでしょう?
ま、おそらくぼくは自分という人間に大して価値があると思っていないからでしょう。
原田医師は自分のことを肯定し、なおかつ楽天的に「どうにかなる」と考えているのでしょうね。

一人の人間の半生をしっかりと描いていました。地味かもしれませんが、ノンフィクションの真ん中をいくような一作でした。
主人公のドクターに興味を持たれた方は、ぜひ、読んでみてください。おススメします。