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科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える(麻生 一枝)2021年05月16日 10時40分09秒

科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体
医者でインパクトファクターという言葉を知らない人はいません。しかし一般の人にはほとんど知られていないでしょう。
インパクトファクター(以下 IF)とは雑誌の評価で以下のように計算します。

(2018年と2019年にその雑誌に掲載された論文が、2020年のさまざまな雑誌に引用された総回数)
を、
(2018年と2019年にその雑誌に掲載された論文の総数)
で、割った数値。これが2020年のIFです。
大雑把に言えば、その雑誌がどれだけ引用されているかを表しているのです。

現在、IFは研究者の業績の圧倒的な指標になっています。
はっきり言えば、IF の数が大きい研究者が教授になることができます。

この本は、そういうIF のダメな点を次々に列挙していきます。ま、それはその通りなんですが、今さらやめるわけにもいなかいでしょ?と僕は思います。

一般の人でも知っている雑誌がネイチャーとかサイエンス。
IF に文句があるのであれば、こうした雑誌に自分の論文を載せてから言えばいいと思います。
今の時代、個人のがんばりとか、アイデアとかでネイチャー・サイエンスに載せることは不可能です。
「はやぶさ」のような巨大プロジェクトのような研究報告ではないと掲載されません。

本書には、いい雑誌と引用回数は一致しないと指摘されていますが、そうとも言えないと思います。
大学在籍時代、ぼくは何度も海外雑誌の査読を依頼されました。
アクセプト(受理)かレジェクト(却下)かを判定するのですね。
その判断になるのが、雑誌のIFです。
僕は一度、ある雑誌から査読を頼まれた時に、判定に迷って、その雑誌の編集長に「貴誌のIFは何点ですか?」と質問したことがあります。するとけっこう数値が高かったので、「ではこの論文はアクセプトできないな」と考えてレジェクトした経験があります。
やはり、「IF が高い雑誌」は「いい雑誌」です。それは間違いない。
ぼくはがんの研究をやっていましたので、研究成果の大きさに応じて、IF の高いがん研究の雑誌に投稿していました。
公平な指標だし、これで教授が決まるというのは正しいと思います。

ただし、共著者問題は残ります。
ぼくは筆頭論文を10本、共著論文を38本書きました。
しかしこれらの論文の中には、ぼくの研究をまったく手伝ってくれなかった人も含まれています。それどころか、ぼくの研究にまったく理解を示さなかった人もいます。
しかし、臨床系教室の悪弊として、教室のスタッフ(教授・准教授・講師・助教)は論文に共著者として名前が載ってしまうんですね。僕はそういう習慣は改めるべきだと准教授に抗議したことがありますが、却下されました。

で、ぼくの研究をけなしていた人が僕の論文に名前が載ってそれが業績になり、その後、教授になっていたりするはまるで漫画のようです。
そういう意味で、この筆者の言うことも分かりますが、それでも僕は自分のIFに誇りを持っていますし、死ぬまで大事にしていくつもりです。