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がんの最後は痛くない(大岩 孝司)2021年04月08日 22時56分52秒

がんの最後は痛くない
大岩先生の本を読みました。
先生は、日本の医療の現況としてがんの終末期にあまりにもモルヒネが上手に使われていないことを批判しています。
これは確かにその通りで、日本は世界の中でもモルヒネの使用量が少ない国として知られています。
そしてそれとは矛盾するように、先生の診療所ではモルヒネを使わなくてもがんの末期は痛くないことを力説しています。
これはどういうことでしょうか?
もちろん先生は緩和医療の達人としてモルヒネを使い方を熟知しています。でも、もっと大事なことがあると説明します。
それは、患者に痛みに対する自律をうながすこと。つまり自分で痛みをコントロールするように権限を委譲するのです。
すると患者は、自分の体を自分で律することができますから、不要なモルヒネが減るのです。そして自分の体をコントロールできると実感できれば不安も減ることになります。
これはぼく自身もPCAポンプという方法で、患者の家族にモルヒネの使用量を委ねることで安心感を与えましたので、よく理解できます。
そして先生が言うもう一つの大事な点は、患者とよくコミュニケーションをとって患者の不安を除去するということです。

ぼくが研修医の頃、がんの子どもが末期になると、医師たちの回診はその子の部屋の前で足が止まったものです。一人の医師がドアを少しだけ開けて「どうですか? 変わりはありませんか?」などと聞いて、特に変化がなければ誰も個室内に入りませんでした。
やがてぼくがベテランになり、がん治療のリーダーになると、末期の子どもの部屋に足繁く通うようにしました。
ご両親とたくさん話をし、子どもにも声かけをしました。
子どもはたいてい未就学児でしたから、豊富な会話にはなりませんでしたが、小学生くらいの子になると、ぼくが病室に通ううちに手紙などをもらったものです。
ぼくは自分を大した医者とは思っていませんが、それでも患者からしたら、末期がんの状態にあって1日に何度も医者が病室に来てくれるのは、不安を除くことになったのでは・・・と思っています。

実は、ぼくは大岩先生にお世話になっています。ぼくが治療した七海(なつみ)ちゃんは、最期の段階を自宅で過ごすことを選びました。
ご両親は「楽しい時間が少しでも長くしたい」と言って、延命のための抗癌剤は拒否して、最も安心できる我が家の一室を、七海ちゃんが大好きだったアリエルのぬいぐるみなどで一杯に飾り、安心と楽しさに満ちた最後の日々を過ごしました。
その時に往診をお願いしたのが、大岩先生だったのです。
七海ちゃんは自宅が本当に楽しかったらしく、また不安なこともなく、そのせいでしょう、痛み止めはほんのちょっとしか使いませんでした。
そして苦しむことなく、天国へ旅立っていきました。

患者から不安を取るというのは、モルヒネを使うことと同じくらい大事なことだと思います。
そういう意味で、この本に書かれている「がんの最後は痛くない」というのは、大岩先生のような医師に出会えれば、まさに真実だとぼくは思うのです。