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ほんのちょっと当事者(青山ゆみこ)2020年07月22日 15時57分23秒

ほんのちょっと当事者
筆者が経験したちょっとした困りごとを当事者の立場で描いたエッセイです。
エッセイというと、ブログの延長のようなもので、自分が見たり聞いたりした経験談をサラっと書いてできあがりみたいに思う人もいるかもしれませんが、本書はそういうものとはまったく異なる次元に存在します。

この本には9つの話が語られていますが、その背骨になっているのは、両親との人間関係、あるいはもっと直接的に表現すれば葛藤です。
その葛藤をありのままに書いてしまえば、身も蓋もない文章になってしまうはずですが、筆者は深く深く考え、文章を練りに練って、非常に奥行きのある世界を表現しています。
ここまで自分の想いを深掘りするというのは、どういうエネルギーに基づくのでしょうか? まるで思想家のようです。
ぼくだったら、ここまで深く考えられない。だからこういう深い文章は書けないでしょう。

ぼくの両親はすでに他界していますが、晩年のしばらくの期間、父・母とぼくはうまくコミュニケーションを取ることができませんでした。
それはなぜか? それを書き出すと長編が1作できるような長い話になってしまうのですが、では、文章にできるのかと問われると書ける自信がない。
理由を考えると、思索が浅いからなんですね。

青山さんは自分の心の内を深く掘り進んで、最後には何か光の見える場所に突き抜けて、自分の困りごとに落とし前をつけたように見えます。
エッセイ文学とはこういうものだと教えてくれる教科書のような1冊でした。
大変おもしろいです。オススメします。