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街場の親子論-父と娘の困難なものがたり(内田 樹, 内田 るん)2020年06月11日 22時40分43秒

街場の親子論-父と娘の困難なものがたり
内田樹さんと娘さんの「るん」さんの往復書簡です。
父親は稀代の思想家ですから、るんさんはどうやって立ち向かうのだろうかと、読む前から興味津々でした。
最初のるんさんの手紙で「まだ担当さんに指定された文字数に満たない」などという文章があり、読んでいる方は大変不安になりますが、これは出だしだけのことでした。

往復書簡のテーマは、最初のうちは二人で行ったフランス旅行などの話しで読者は置き去りにされますが、回が進むにつれて、私的な話題から公的(あるいは社会的)な話に広がりを見せます。
火花が散る・・・という感じとはまた違って、親子で「手が合う」のですね。書けば書くほどに話が深まり、思想家の父親に臆することなく、るんさんは考えを研いで思索を深めていきます。
花見酒経済の話とか、社会の基準としてのふつうの話とか、親子間に横たわる困難さの話とか、実におもしろかったです。

自分の中にしまってある倉庫の中身を、深く深く深掘りしていって、何か涼風が吹く明るい場所に突き抜けたような読後感がありました。
内田樹さんには申し訳ありませんが、これはるんさんの頑張りに負うところが大きかったと感じました。見事です。

しかし親子でこうした往復書簡を交わせるなんて本当に羨ましい。ぼくは自分の子どもたちととても仲がよいけれど、こうして改まって、そして読者が読むことを前提に、書簡を交わすなんてとても無理。
ぼくの両親は他界していますので、親と会話することは不可能ですが、生前も十分なコミュニケーションが取れていませんでした。
この本を羨む人はぼくだけでなく、みんなが憧れるのではないでしょうか。読んで本当によかった。

最後に追記。
最近のラクレはカバーデザインを本ごとに作っているようですが、この本のデザインも秀逸です。
それから、親子アンケートは棒グラフではなく、円グラフで表現した方がいいです。誌面が足りなかったのかな。

快作・傑作です。オススメします。