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兄の終い(村井 理子)2020年05月11日 00時29分42秒

兄の終い
不仲だった兄が急逝し、死後の始末をつけに行くドキュメントエッセイです。
日常の中の非日常を、平易な言葉で奥深く書いており、これは一級品の文章だと思いました。
作者は翻訳家でエッセイスト。
エッセイを書いてお金がもらえるなんて、文学者の中で最高のポジションにいる人ですよ。
羨ましいことこの上もないのですが、ぼくにはこういう文章は書けませんから、仕方ないでしょう。

カバーデザインを見て「これはもしや」と思ったら、やはり鈴木成一デザイン室でした。
トータルのパッケージで見ても、傑作に仕上がっています。
いつかはこういう本を書いてみたいな。

ADHDの正体: その診断は正しいのか(岡田 尊司)2020年05月15日 23時34分06秒

ADHDの正体: その診断は正しいのか
ADHD は定義すらはっきりしない、いい加減な疾患概念ということのようです。
大人のADHDは90%が誤診であるという驚異(脅威)的な指摘があります。
特に愛着障害との区別が難しいと・・・ま、ちょっとでもADHDの診断をした経験がある医者には常識的なことが書かれていました。

精神科の先生方は一体何をしているのでしょう?
しかし、医者を批判しても仕方ないかもしれませんね。
とにかくこの分野の研究は非常に遅れています。
そもそもASDという概念が固まったのも、ASDとADHDが合併すると理解されるようになったのも、2013年からです。
つまり今日の発達障害の歴史は、わずか7年しかないのです。
これだけ学問が遅れている理由は、発達障害をライフワークにして研究・診療している医者がわずかだからでしょう。
小児の白血病などは、40年前には不治の病でした。
でも現在では多施設共同研究による臨床研究が展開され、90%の患者が治るようになりました。

ところが、ADHDは誤診だらけ。大人では90%が誤診だなんて、そんなもの学問として成立していませんよ。
この本は大切なことがたくさん書かれていますが、一体誰がこの本を読むのでしょうか?
一般の人? それとも医者?
医療界の混乱を一般の人に伝えても意味はありませんので、先生にはぜひ学会で若い精神科医を教育して欲しいと思います。

ある末期がん患者のつぶやき(高地 哲夫)2020年05月17日 17時38分04秒

ある末期がん患者のつぶやき
かなり前に書かれた本ですが、FaceBookでこの本の存在を知り購入しました。
筆者は麻酔科医の高地先生。僕が麻酔科へ6カ月研修に行った時、麻酔を教わった先生です。

大変優秀な先生で周囲から一目置かれていました。
麻酔科で抄読会があった時、先生が海外文献を紹介しました。その文献にはデータを棒グラフで表してあったのですが、先生は「これでは分かりにくい」と言って、データを円グラフに作り直してプレゼンしていました。
こんなプレゼンがあるのかと、僕はびっくりしたのを今でも強烈に覚えています。

論文をよく読んでいて知識が豊富な先生でした。理詰めで理論を語るクールな先生でもありました。
ところがこの本を読むと、患者の利益を若い世代の麻酔科医に丁寧に伝えていて、胸に迫るものがあります。

先生は手術と放射線療法と疼痛緩和療法だけを受けて、抗がん剤治療は受けませんでした。
最期の瞬間は自宅だったそうです。
これからやりたいことが山ほどあったと思います。
その無念さを思うと読んでいて実に辛くなります。
だけど、こうして本を残して、若い世代にメッセージを伝えられたのは良かったのではないでしょうか。

先生、麻酔を教えて頂き、本当にありがとうございました。

断薬記 -私がうつ病の薬をやめた理由(上原 善広)2020年05月17日 17時56分16秒

断薬記 -私がうつ病の薬をやめた理由
上原さんは双極性障害(躁うつ病)があって、精神科から多数の薬を出されてそれらを長期に内服していたそうです。
その間、3度も自殺未遂をしたそうです。
で、上原さんは、自分がいわば「薬中」のような状態になっていると判断し、減薬→断薬へと進んで行きます。
断薬したあともすぐには体調はすぐれず、結局10年がかりで元の状態に回復したそうです。

たしかに慢性疾患というのは、薬を飲み続けている限り、元の病気が治っているのか、そうでないのかの判断はかなり難しかったりします。
これは精神疾患に限らないでしょう。ただ、精神医療がほかの診療科と異なるのは、うつ病などの精神疾患は薬をうまく使わないと患者に自殺されてしまうという怖れがある点です。
現に上原さんも3回企てています。
精神科医はこれを非常に怖がるんですね。ま、当たり前のことです。
そうすると、うまくコントロールされている間は減薬はできても、断薬まではなかなか持って行けないのではないでしょうか。

結局、上原さんは自力で断薬するのですが、結果的にそれはうまくいったのですが、信頼できる主治医がその時点でいたわけですから、もう少し医療を信じても良かったように思えます。

また、本論と関係ありませんが、本書の中で、上原さんはノンフィクションに対する考え方を述べています。彼は、ノンフィクションを文芸と捉えているのですね。「路地の子」で批判されたことを気にしているのかもしれません。
精神医療に対する問題提起にはなっていましたが、僕には賛同できない部分もありました。
なかなか難しい問題ですね。

新しく本を出します!2020年05月19日 19時25分56秒

『小児科医が伝えるオンリーワンの花を咲かせる子育て』
 ↑ クリックで拡大します。

来週、文藝春秋から本を出します。
『小児科医が伝えるオンリーワンの花を咲かせる子育て』。
見本が自宅に届いたので、今日はまず写真だけアップします!
詳細はまた来週、お伝えしますね。
Amazonで予約受付中です。

https://www.amazon.co.jp/dp/416391210X/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_.r7WEbQKTATA5

ご期待ください。

そのうちなんとかなるだろう(内田樹)2020年05月20日 23時40分26秒

そのうちなんとかなるだろう
自叙伝ですね。大変面白く読みました。
内田先生はこれだけたくさんの著作があって、いったいいつ頃から作家として書き始めたのだろうかと興味を持っていました。
若い頃から頭角を現し・・・と思い込んでいたらそういうことではありませんでした。
大学院に進学するのにも苦労し、神戸にパーマネントな職を得るまでにも相当苦労しているんですね。
本を書き出したのは人生の後半戦になってから。
で、どうやらご本人は合気道の道場主が本業で、物書きは副業と思っている。
ああ、こういう個性的な人もいるんですね。

この本の終盤はちょっとした人生論みたいになっています。
その中で最も惹き付けられたのは、「その人の一番いいところを見る」という精神です。
僕自身はこれまでの人生を振り返って、そういうことがちゃんとできたかな? 
僕の所属していた組織は「生き馬の目を抜く」ような雰囲気で、「ほう・れん・そう」なんか丁寧にやらないんです。
何か医学知識に欠けているところがあると、「お前、そんな子も知らないのか」と詰るような殺伐感がありました。
だから、その人の一番いいところを見つけようなんて発想がなかった。
欠点を指摘して、無防備な部分を潰していくんですね。
常に緊張を強いられる職場でした。

久坂部羊さんも渡辺淳一さんも自叙伝を書いています。
医学生から研修医の過程ってとてもユニークなので、医者であれば誰でも書きたくなるんですよね。
僕も書いてみたいな。でも全然売れないだろうな。
ま、夢として取っておきましょう。

着せる女(内澤 旬子)2020年05月24日 21時29分01秒

着せる女
内澤さんは(特に男性の)スーツが大好きで、よれよれの服を着ている男性を見ると、いいスーツを着させたくなります。
そうして何人もの作家さんや編集者さんを高級紳士服店に連れて行き、フィッターと呼ばれるスーツのソムリエみたいな人と一緒にスーツを選ぶという顛末記です。

いいスーツを着る前後のあれやこれやを書いただけと言ってしまえばそうなのですが、そこは内澤さんの筆の力、めっちゃおもしろいです。
表現力がすごいんですよね。たぶんスーツを深く愛しているから、表現も深くなるんですよね。
考えてみればこんな「小さな世界」はないわけで、類書も皆無でしょ。類書がないということは営業的に有利か(本が売れる)というと、そういうことはなくて、多くの人が欲していない分野ということでもあります。
でもそういう世界をこれだけがっちり書けるというのは、本当に内澤さんは実力者だと思いますね。

この本は、内容だけじゃなくて「本という商品」がとてもよくできています。
まず何と言っても本の形です。
四六判ではなく、A5判変型。
そして装丁がめちゃくちゃいい。これは誰でしょうか? 川名潤さんの仕事ですね。素晴らしい。
口絵カラーページのビフォー&アフターの写真もいい。もちろん内澤さんのイラストもばっちり。
つまり本としての出来がいいんです。
書き上げた本人がこの本を可愛いと思っているんじゃないでしょうか?
ナイスな1冊でした!

私たちはふつうに老いることができない:高齢化する障害者家族(児玉 真美)2020年05月25日 11時08分44秒

私たちはふつうに老いることができない:高齢化する障害者家族
それほど厚い本ではないのですが、テーマは大変重く、ぎっしりと内容が詰まっています。
重度知的障害者・重度心身(重複)障害者を介護する母(あえて、親ではなく母と書く)が、どれほど塗炭の苦しみを経験しなければならないか、多数の母親からの聞き取りで本書は伝えています。
問題点は多岐にわたり、ここで一言ではまとめられません。

僕自身も同じ問題意識を持ち、親が子どもの命を絶とうとする心理や、老障介護の困難さについては、これまでの著作で書いてきたつもりです。
ただ、この本の中の論点で僕が強調したいのは、行きすぎた行政のノーマライゼーションという思想・施策です。

1970年代には福祉が弱すぎて、障害児を殺める母親が多くいました。それに対して世間は同情しました。母親が可哀想だと。
その状況に異を唱えたのが、青い芝の会でした。
脳性マヒの彼らは、「自分たちは殺されてもしかたがない存在なのか!? 母よ、殺すな!」と声を上げて、日本の障害者運動は始まったと言えます。
その後、大型の入所施設が多数できますが、時代はノーマライゼーションを目指すように変化していきます。
障害者は地域へ、そして家庭へ。
共生社会を目指し、本人の個性を尊重し。

その結果、グループホームがたくさん作られますが、そこに入れるのは、軽度から中等度の知的障害者だけです。
重い障害者は家庭に取り残され、母親は「子育て」の延長としての「介護」に人生を捧げることになります。地域に資源など無いのです。
しかしその母親も年老いて行きます。
自分の親を介護し、自分の夫を介護します。
長期ビジョンは描くことができず、その日を懸命に生きる母親たち。

これだけの荷重を背負った母親が、社会の福祉制度を信頼できるでしょうか?
そうなると、自分が亡くなったあとに、自分の子どもがちゃんと人格を尊重されて施設で大事にされるとは気楽に考えられないかもしれません。
「親亡き後の障害者の人生」と簡単に言いますが、そこに込められた母親たちの数十年に及ぶ濃く、複雑で、言いよう無い想いの深さに対して、私たちは容易には、分かった顔で近寄ることはできないかもしれません。
ただ、本書を通じて、ケアに人生を捧げた母親たちの話を傾聴し、祈りを込めて幸福の芽を探し出してくれることを願うばかりでしょう。
良書です。みなさんも読んで、そして考えてみてください。

新著、発売です2020年05月25日 19時37分36秒

小児科医が伝えるオンリーワンの花を咲かせる子育て
 ↑ クリックで拡大。

このたび、文藝春秋社から
『小児科医が伝えるオンリーワンの花を咲かせる子育て』という本を上梓します。

なぜ、私が子育て本を・・・と不思議に思われるかも知れません。
私はこれまでに、難病の子や障害を持つ子についてノンフィクションを書いてきました。
その根底にあるのは、こどもの人格を尊重するということです。

今回の子育て本でも、子どもを尊重し(天才に育たなくても)、個性的な花を咲かせて欲しいと願って本を作りました。

本書に興味を持って頂ければ大変うれしいです。
また、これから育児に関わる人、現在関わっている人に、本書をご紹介頂ければ幸甚です。

拙著は5月25日(月)にAmazonから発売になります。また同時期に店頭に並ぶ予定です。
 ↓ からどうぞ。

https://amzn.to/3cUbyPA

どうぞよろしくお願い申し上げます。

ヨミドクターに登場2020年05月28日 16時29分45秒

新著『小児科医が伝えるオンリーワンの花が咲く子育て』
読売新聞オンライン・ヨミドクターに書評が登場しました!

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20200526-OYTET50002/

どうぞご覧になってください。