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中高年ひきこもり(斎藤 環)2020年04月05日 23時10分21秒

中高年ひきこもり
興味を持って読みました。
さすが第一人者の作品で学ぶことがたくさんありました。
ひきこもりを予防するには、予防策を講じないという発想を持つことが、最大の予防法になるという発想はとても深いものがあるなと感じます。
結局、ひきこもりは「普通」ではないので、「普通」ではないものを劣ったものと価値判断してしまうと、それは優生思想にすらつながっていくわけです。

この本には、ひきこもりだけに留まらず、普遍的な考え方も多数含まれているように感じました。
たとえば、人を説得するときに「不安を煽って、行動を変えさせよう」としてはいけないという言葉が印象的でした。
そうではなく、安心と安全を保証することで、その人を変えていくことが重要です。これは「甘やかし」とは別次元の話です。

幻冬舎新書って「あたり」が多いんですよね。良い作品でした。オススメします。

ヨミドクターに寄稿2020年04月08日 10時02分20秒

新型コロナウイルスに関して緊急事態宣言が出されましたね。
効果はどれほどあるのでしょうか?
今朝の日経新聞によると、山の手線の混雑減少率は、2月と4月を比較して35%減なのだそうです。
これでは80%に遠く及びませんね。
また毎日新聞によると、接触を80%どころか、98%減らさないと感染者は減らないそうです。

お子さんは持った家庭では、クリニックをどう利用するか、ストレスのたまったお子さんたちにどう対応するか、悩ましいと思います。ヨミドクターから緊急に寄稿の依頼がきましたので、書いてみました。

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20200407-OYTET50012/

よかったら読んでみてください。

それにしても、慶應大学の研修医40人。飲み会をやっって集団感染を起こしています。
研修医が飲み会って一体どんなヒマな病院なんでしょうか?
現在の医療制度では研修医の側が「売り手市場」で、この連中はものすごく厚遇されています。
ぼくの時代と比べて、給料は3倍だし、勤務時間も9時→5時です。
重症患者がいても、5時になったら帰るわけです。
こんなんでいい医者が育つのでしょうか?
あ、働き方改革の時代でしたね!
そしてコロナウイルスの感染拡大状況を考えれば、こんな飲み会は言語道断です。
偉業停止12カ月くらいでどうでしょうか?

孤塁 双葉郡消防士たちの3.11(吉田 千亜)2020年04月08日 14時47分18秒

孤塁 双葉郡消防士たちの3.11
3・11をどう描くか? ノンフィクション作家であれば、誰でも考えることです。
本という、あるい意味では小さな世界の中に、地震・津波・メルトダウン・死を描くということは極めて困難です。
それでも多くの作家たちが、自分なりの手法でこの問題に取り組んでいきました。
傑作と評される作品もいくつも生まれました。
しかし3・11が完全に描き切れたかというと、それはまた別でしょう。

本書は、消防士から見た3・11です。これまでに無かった着眼点です。
筆者は66人の消防士から話しを聞いて本作を仕上げています。硬筆な文章で、事実を淡々と積み重ねていきます。まさにノンフィクションの王道を行くような筆致です。
取材も相当大変だったと思いますが、話しを聞いたあとに、それを捌くエディットの面にとても苦労したと思います。
結果として骨太の大作に完結しました。

現在、ノンフィクション作家たちが考えていることは、新型コロナウイルスという100年に1度の疫病をどうやって描くかということだと思います。
あと、何年かしたら、また傑作が生まれて来るんじゃないかな。

なお、本文と関係ないことを2つ。
この本は、タイトルを含めて装丁が素晴らしいと思います。
それから、ソフトカバーで1800円は高い。岩波の本は(最近なのかな?)総じて高価だと思います。300円くらい下げてくれないでしょうか。その方がはるかに売れると思います。

パルプ・ノンフィクション: 出版社つぶれるかもしれない日記(三島邦弘)2020年04月19日 23時34分21秒

パルプ・ノンフィクション: 出版社つぶれるかもしれない日記
ミシマ社という出版社を知っている人はあまりいないかもしれません。
しかし物書きから見ると大注目の出版社です。
1冊ずつ丁寧に本を作って、それをしっかりと売る。
だからベストセラー本を連発しています。
こういう会社から本を出すと、編集者はどんなふうに作家を手助けするのだろうかと、強い興味を惹かれます。

さてこの本は、ミシマ社から出たものではありません。社長の三島さんのエッセイです。
現在、出版業界が長期の不況にあることはみなさんご存じだと思います。
そうした荒波の中をミシマ社という小舟がどんなふうに漕いでいるのか綴ったエッセイです。

文章の巧みさに惹き付けられて、さささっと読ませる部分や、組織論を真剣に論じた部分などがあり、なかなか奥深い作品です。
そもそもエッセイというのは、最高のノンフィクションであるとぼくは思うのです。
だってほとんど書き手の感性だけで成り立つのがエッセイでしょ?
いや、ぼくも死ぬまでにエッセイを書いて大手の出版社から出してみたいな。
オススメです。

かんもくの声(入江紗代)2020年04月19日 23時47分46秒

かんもくの声
場面緘黙。
この漢字をみなさん、読めますか?
ぼくが初めて場面緘黙のお子さんに出会ったのは、今から14年前、クリニックを開業したその年でした。
ぼくは場面緘黙という単語だけしか知らなくて、保護者には何もアドバイスできませんでした。
保護者の方もちょっとがっかりしたような様子だったな。

この本は非常に内向的な作品で、自分の心の中をどんどん分け入っていきます。そうすることで、読者に「かんもくの声」が伝わっていくのです。
あまり類書はないのではないでしょうか。
こうした世界もぜひ知って欲しいなと思いました。

客室乗務員の誕生: 「おもてなし」化する日本社会(山口 誠)2020年04月25日 23時10分38秒

客室乗務員の誕生: 「おもてなし」化する日本社会
CAさんの話です。
サブタイトルに興味を惹かれて読んでみました。
前半は、CAの歴史が淡々と記載されているだけですが、後半になっていくと、期待通り日本文化論になっていきます。
CAのおもてなしの源流には自分磨きがあり、これは同時代の沢木耕太郎の『深夜特急』の自分探しと表裏をなすという分析は大変興味深かったです。
また、本論とは関係ありませんが、『深夜特急』をこれだけ鋭く解説した論評も初めて読みました。なるほど、あの作品は「小説」なんですね。

筆者は大学の教授先生。当然と言えば、当然ですが、文章の力が大変強い。ぼくより10歳以上年下ですが、いや、ぼくにはこういう文章は書けないな。
岩波新書らしい傑作でした。

ドキュメント ゆきゆきて、神軍[増補版] 原一男、 疾走プロダクション2020年04月26日 18時08分22秒

ドキュメント ゆきゆきて、神軍[増補版]
『ゆきゆきて、神軍』の制作ノートです。
増補版が出ていたことをFBで知りました。
映画の内容は、この映画が見た人には説明不要ですし、見ていない人には説明のしようがありません。
ただ、興味のある方は、YouTubeで視聴できます。2時間少しのかなり長いドキュメントです。
日本語がかなり聴き取りにくいのですが、YouTubeでは英語の字幕が付いているので、それを読みながら視るといいでしょう。

この制作ノートでは、映画で使われなかったニューギニアでの様子が描かれています。使われなかった理由はフィルムを当局に没収されたからです。
原監督は、ニューギニアでの画像で映画を締めくくりたかったそうですが、渡航する直前で映画は終わっています。
しかしそれは別に不自然ではありません。

映画を撮る側と撮られる側の関係性とか、ドキュメンタリーとは何だろうかとかいろいろと考えさせられました。
カメラが存在することで、ノンフィクションがフィクションに変化することもあるのだと気づきました。
視ていてハッピーになる映画ではありませんが、こういう映像表現がかつて存在したことを知っておくために、一度はご覧になってもいいと思います。

ポストコロナの時代に2020年04月30日 22時50分47秒

新型コロナウイルス感染症が収まらず、この先どうなるのでしょうかと、よく質問を受けます。
ここまで世界的な流行になるとは僕は予測できていませんでした。
かつて経験のない疫病ですから、誰にも答えは出せないでしょう。
おそらく効果的なワクチンが開発されるか、世界中の大部分の人が感染するかしない限り、このパンデミックは終息しないでしょう。

しかしいつか必ずこの流行は終わるときが来ます。
そのとき、世界はどういう姿になっているのでしょう?
私たちはポストコロナの時代をどう生きるのでしょうか?

安倍政権は政策が後手であると、野党やメディアから批判されていますが、私はそれほど極端にひどいとは思っていません。
ただ、日本の政権も欧米の政権も2つの点で過ちを犯していると思います。
そしてそのことを乗り越えることで、私たちはポストコロナの時代に価値基準の変換ができると思います。

最初の失政は、行きすぎた経済至上主義の世界観です。疫病の広がりを止めるのは、実は簡単で経済的アクティビティーを止めてしまえばいいのです。
しかし政治にはそれができなかった。
日本で言えば、東京五輪の2020年開催に非常に強く拘ったと言えます。
小池都知事は五輪の延期が決まってから急に発言力が高まりましたが、それまでは何をやっていたのでしょう。
何もやっていません。五輪開催に執着し、疫病の封じ込めに関する発信をしていませんでした。
それは安倍政権も同じだし、欧米の政権も同じです。
どうにもならない状態になってからロックダウンしても、医療はすでに崩壊していますので、解決できないのです。
こうして多くの人命が失われました。
経済を生かそうとして命を失ったのです。

もう一つの失政は、政治家がサイエンスを信頼していないことです。
日本の政府要人には「武漢肺炎」という言葉を使う政治家がいます。「武漢肺炎」という病気はありません。
世界中の医療関係者が自分の命をかけて闘っている病気は、新型コロナウイルスによるCOVID-19という病気です。
ところが政治家はこうした疫病を政治利用しようとします。
サイエンスに背を向けます。
新興ウイルスのパンデミックが発生しているときに、サイエンスを信頼しなくて、一体どう対応すればいいのでしょうか?

トランプ大統領は経済活動を再開させようとしていますが、それは科学的知見に基づいたものではありません。
経済が活性化すれば大統領選で自分が有利になるからです。
安倍首相は全国一斉休校を、専門家の意見を聴かずに自分の判断で行いました。
通勤電車は放置して、あるいは学童保育はそのままで、一斉休校にどういう意味があるのか?
一斉休校要請に従わなかった自治体もありますが、これまで教育現場でクラスターが発生した例は報告されていません。
(しかし、一旦全国的休校になってしまうと、もはや再開できない)
安倍さんがなぜサイエンティフィックな助言を求めなかったかと言えば、それは政策が後手であるという批判をかわし、自分の支持率を上げたかったからです。
結局そのことも批判を受け、専門家の意見をようやく聴くようになりました。

ポストコロナ時代に私たちが、価値を置くべきなのは、経済的繁栄よりも人の命ではないでしょうか?
そして政治家がサイエンスに対して謙虚になることだと思います。
新興ウイルスのパンデミックはそんなに次々とはやってこないでしょう。
しかし、地球温暖化・気候変動による天災・南海トラフ・原発事故など、私たちの文化・文明を根こそぎ破壊するようなカタストロフィーはいつやってきてもおかしくありません。
そのときに、政治家が政治的振る舞いをすることは大変危険です。人類存亡の危機に直結します。
破滅的な災厄を回避するためには、サイエンスをフルに使うしか他に方法はありません。

僕はサイエンスが無条件に人類を幸福にすると楽観的には考えていませんが、国家のリーダーは良質なサイエンスを丁寧に理解し、その意味合いを国民と共有していくことが求められると信じます。

COVID-19が終息した新しい時代には、私たちは何よりも人の命が大切だと再確認し、サイエンスを人類の伴走者として厚い信頼を置くことが重要になるでしょう。