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記者、ラストベルトに住む —— トランプ王国、冷めぬ熱狂(金成隆一)2018年12月30日 00時14分57秒

記者、ラストベルトに住む —— トランプ王国、冷めぬ熱狂
「ルポ トランプ王国」(岩波新書)の続編です。
今度はアパートに住み込んで取材をしたので、前回よりも取材の深みや質が上がっています。
ただラストベルト(錆びついた工業地帯)に住んだこと自体は、取材の手法に過ぎないので、本のタイトルにするにはあまり適していないのではなでしょうか。

アメリカのミドルクラスとは何でしょうか?
日本の、一億総中流化とは若干イメージが違う気がします。
中間層とは、高校卒業後、炭鉱や鉄工所に就職し、手に職をつけ、時給1500円から1800円くらいの収入を得、マイホームを持ち、冷蔵庫には食べ物が溢れ、バケーションには長期旅行に出かける、そういう姿でしょう。
そうした中間層を民主党が面倒を見てきた訳ですが、工場は閉鎖され、仕事は解雇、年収は半分になり、町には薬物中毒者が溢れている。それがラストベルトの今の姿です。

労働者は民主党に絶望し、ヒラリー・クリントンには何の魅力も感じられず、トランプに投票した訳です。
その後のトランプを見て、失望した人もいますが、相変わらず4割の人はトランプを支持しています。

トランプは大統領の器ではまったくないし、道徳観の欠如も著しいのですが、彼が選ばれることが今のアメリカの病理を現しています。
アメリカは多民族国家ですが、国の分裂は修復できないところまで来たことが、このルポによって大変よく理解することができます。

日本だっていずれ同様の道を歩むかもしれません。入管法が改正されて、日本は事実上の移民国家になります。
超・少子高齢化がこれに拍車をかけます。
やがて日本人の中間層は移民に仕事を奪われて貧困層に転落するかもしれません。
アメリカでは2045年には白人人口の割合が50%を切るのだそうです。

この本はアメリカの一地域のルポですが、アメリカの全体像を描いています。いえ、もしかしたら全世界規模の資本主義の行き詰まりを表現しているのかもしれません。

ノンフィクションには、いろいろなテーマの設定方法や書き方がありますが、ある一つの真実から時間(歴史)や空間の全体像を照射することが、最高の到達点だと思います。
そういう意味で、本書は2018年を代表する傑作と断言して良いでしょう。
強くオススメします。

障害を持つ息子へ ~息子よ。そのままで、いい。(神戸 金史)2018年12月30日 11時33分46秒

障害を持つ息子へ ~息子よ。そのままで、いい。
本のタイトルが、本の内容のすべてを物語っています。

拙著「小児がん外科医」に、魁斗君という小児がんの子がでてきます。
5年に及ぶ治療を行いますが、魁斗君は10歳で命を失います。
お母さまはずっと病院に寝泊まりをして、魁斗君と生活を共にしました。
私は今でも魁斗君のお母さまと連絡を取り合っています。
お母さまはもう一度、魁斗君に生まれて来て欲しいそうです。その気持ちがとても分かるので、私は言ってみました。
「そうだね。今度はがんにならない人生で生まれて来て欲しいね」
するとお母さまの答えはこうでした。
「がんになって良いんです。あの魁斗にもう一度会いたいんです。がんに罹らなかったら、それは違う子だと思います」

そうなのか。母親ってそう考えるのか。
我が子の障害を受容するということも、そういうことかもしれない。

本書の神戸さんもいろいろなことを考え、いろいろなことを乗り越えたのでしょう。
奥様も弟さんも。
そして気付いたのでしょうね。そのままでいいと。

この本の中には、「そのままでいい」という境地に到達できないままに、無理心中をしてしまう親子が描かれています。
辛い気持ちは私もよくわかりますが、お子さんは死にたいとは思っていないはずです。
自閉症児を抱えて辛い思いをしているご家族は、ぜひ、仲間を作ってください。仲間の輪に加わってください。
この世はそんなに捨てたものではありません。
少しずつ時間が経過していくことで、少しずつ心に余裕が生まれていくはずです。
今の苦しみに、絡め取られないでください。