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告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実(旗手 啓介)2018年02月24日 16時27分10秒

告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実
これはちょっとすごい本です。
日本で初めてのPKO隊員の派遣は世論を二分する大激論でした。その結果、自衛隊はカンボジアに赴きます。しかしその時、文民警察官も派遣されたことはあまり報道されませんでした。カンボジアで命を落としたのは、警察官の高田さんです。彼はなぜ死ななければならなかったのでしょうか?
1993年といえば、今から25年前。こうした事件があったことは、僕の頭からも薄れつつあります。しかしこれは単なる個人の死ではありません。それにとどまらない大事なことがここにあります。
文民警察官とは何でしょうか? それは現地の警察官を「助言・指導・監視」することです。彼らは丸腰でカンボジアに向かいます。ところが現地は、和平が成立しているどころか、まさに内戦状態、戦争のまっただ中だったのです。
ガス・水道・電気の無い村に陣地を作り、そこで生活を始めます。カンボジアには憲法も無ければ法律も無いので、日本の文民警察官は、ある意味何もできないのです。
しかし来る総選挙に向けて、村民に選挙の仕方を指導していきます。
村のあちこちには地雷が埋められ、弾薬が積み上げられ、村人はみんなカラシニコフを持っている状況にあります。

現地にいる人間から見れば、もう完全に停戦は崩れている。しかし国連UNTACや日本政府はそれを認めようとしない。
なぜでしょうか?
撤退できないからです。日本は湾岸戦争で国際貢献できなかったという負い目を持っていたために、カンボジアでは存在感を示したかった。
つまり政治的パフォーマンスを演じ続ける必要があったのです。

村から村への移動中の車列にポルポト派の銃撃が襲いかかります。無数の弾丸が飛び交い、現場は地獄絵図になります。こうして高田さんは殉職します。

南スーダンの日報が隠蔽されたり、安保法制が改変されて地球の裏側まで「かけつけ警護」に行けるようになって、これからどれほどの「個」の死が待っているのでしょうか?
政治家はなんのためにそういう法律を作るのでしょうか?
個人の命を蔑ろにして国家は国民から尊敬されるのでしょうか?

NHKならではの圧倒的取材力によって本書は成り立っています。ノンフィクション作品として超一級のレベルに仕上がっています。
個人の命を奪う政治の愚劣さ、組織の官僚主義や、撤退することのできないリーダーの面子など、泥沼に足を踏み入れたら最後、もう引き返すことはできない戦争の残酷さが描かれています。
強くオススメします。