アクセスカウンター
アクセスカウンター

されど愛しきお妻様 「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間(鈴木 大介)2018年02月03日 17時29分44秒

されど愛しきお妻様 「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間
これは超傑作です。
奥様は発達障害。だから家事もできないし、仕事もできない。自由な時刻に起きて自由な時刻に寝る。
掃除はしないから家の中はカオス状態。
当然のことながら筆者は奥さんのことをよく理解できないわけです。
片付けのできない奥さんを叱れば、奥さんはふて腐れ、口もきかず、挙げ句にドバーッとリストカット。

本の前半を読んでいる時、僕には疑問でした。筆者はなぜ奥さんを好きなんだろうか? 自分だったらこんな生活には耐えられない。しかし離縁もせずに生活を共にしているのだから奥さんのことを愛しているのだろう。
だったら、どういうところが奥さんの魅力なのか教えて欲しい。
講談社の編集者は、その部分を書けと言わなかったのか?と疑問が湧いたのです。

しかし不思議なことに本書を読み進めると、何となくこの奥さんに愛らしさが分かってくるのですね。奥さんが脳腫瘍におかされ、手術でパーソナリティーが変容するかもしれないとなった時、旦那さんは「このままでいてくれ」と願います。
この場面には非常に強い説得力がありました。

闘病記とは、いかに病状を正確にそして分かりやすく書くかが重要です。そして同時に、その病気に対して当事者がどう感じたかを心の奥底まで深掘りしていって描き出すことが重要です。
この本は、それが完璧にできています。
そして本書の本当の価値は、ご主人が脳梗塞から高次脳機能障害になることで、奥さんの発達障害を理解するところにあります。

理解し共感し、赦しを得て、家庭の再構築に向かって行くのです。この過程には心を強く揺さぶられます。

障害とは社会との接点における不自由を医学的には言います。
筆者は、「不自由を障害にするのは環境」と言っています。非常に鋭い指摘です。自分の経験から導き出した、切れば血の出るような生きた言葉です。

「戦後の父ちゃん」がちゃぶ台をひっくり返していたのは、彼が加害的な人なのではなく、被害者として追い詰められた結果ではないかという指摘は僕の心の深い所に刺さりました。
この本にはとても大切なことがたくさん含まれています。

講談社は最近ノンフィクションをほとんど作らなくなっていますが、これだけの内容ならば迷わず出版するでしょう。
2018年の年頭にいきなり傑作に出会いました。こういう本は年間に数える程しかありません。超オススメです。