アクセスカウンター
アクセスカウンター

1984年のUWF (柳澤 健)2017年02月04日 21時51分12秒

1984年のUWF  (柳澤 健)
プロレスファン以外にはこの書名の意味はわからないでしょう。
しかし、プロレスファンであれば、猛烈に興味を持つ一冊でしょう。
UWF とは一体何でしょうか?
いろいろな定義が可能だと思います。その訳のわからなさが UWF の魅力かもしれません。
可愛さ余って憎さ百倍という言葉がありますが、新生UWF を真剣勝負と騙されてしまった人には、UWF は苦い過去かもしれません。
ですが、ある程度距離を置いていた人からすると、UWF とは、プロレスと総合格闘技の橋渡しだったと冷静に振り返ることができるでしょう。

かつて猪木は前田日明を批判して、「あいつも猪木という名前を利用して商売している」みたいなことを言いました。
今となってみるとそれは当たっているように思えます。
しかし猪木だって馬場という名前を利用して商売していた訳です。
つまり自分こそがリアルだと、誰かを批判することで商売していた。左翼政治運動家が、自分こそが真の革命家だと左に位置していることを主張していたようなものです。
ところが誰もリアルではなかったということですね。

武士は食わねど高楊枝と言いますが、残念ながら日本のプロレス界には武士はいなかったのかもしれません。
晩年高田延彦はリアルファイトをいくつかやって惨敗を喫しますが、実はあの姿が武士なのかもしれません。

この本は分厚い取材で成り立っていますが、さすがに前田に対するインタビューは掲載されていませんでした。
新生UWFで前田は「格闘王」としてこの世の春を謳歌していた訳ですが、あれは世間に向かって嘘をついていたとも言えます。
霊長類最強の男カレリンと試合をした時はテレビでニュースになったと記憶しています。
あの時代、世を欺いていたことを前田はどう考えていたのか、ぜひとも聞いてみたいものです。糸井重里さんなどは、本気で前田をリアルファイトと信じていたと思います。
著者は、「1976年のアントニオ猪木」では、ぎりぎりのところまでインタビューしているのですから。

大変読み応えのある一冊でした。しかしこれをもって、著者のプロレスシリーズは終了でしょう。
ちょっと技術的なことを付け加えれば、この本は「ナンバー」に連載された記事を書籍化したものです。そのために、表現の重複が何カ所かに見られました。
編集の段階でもう少し煮詰めてもよかったのではないでしょうか?
UWF という言葉に反応する人には、オススメの作品です。