アクセスカウンター
アクセスカウンター

大学教授がガンになってわかったこと (幻冬舎新書) 山口 仲美2017年01月08日 17時57分02秒

大学教授がガンになってわかったこと
一言で言って大変面白い本でした。
面白かった最大の理由は、著者の文章の力にあります。
大腸がんと膵臓がんの二つを経験した患者さんは、この世にいくらでもいますが、こんなに面白い闘病記を書けるのは、彼女の知性と表現力にあります。
「著者紹介」を見てみると、それも納得。エッセイの名手なんですね。

さて、この本は多くの人に勧めることができる良書ですが、敢えて医者の立場から異論を二つ書いておきます。
まず、膵臓がんの術後の抗がん剤治療。
外科医コウベイ先生とのコミニュケーションがうまくいかず、著者は病院を代えます。
コウベイ先生は外科医なので、抗がん剤治療は、専門家である内科医(専門医)に任せるべきだと著者は主張します。
総論としては僕もその意見に賛成します。
しかし、問題の核心は「外科医」であるとか「内科医」であるということにあるのではありません。
このコウベイ先生の医師としての態度が核心なんです。
今時、こんな医者がいるとは信じられない気持ちです。この先生はいったいどこの大学で医学教育を受け、どこの病院で修行を積んだのでしょうか?
コウベイ先生は膵臓がんの手術の名手とのことですが、医師としての基本ができていないのだから、手術の実力だったわかったものではありません。

ぼくは大学いた時、小児がんの「手術」も「抗がん剤治療」も「放射線治療の計画」も「末梢血幹細胞移植」も自分でやっていました。
そうしたスタイルを時代遅れと解釈する医師は今や多数派です。
それに反論するつもりはありません。
が、ぼくが一番重要だと考えるのは、「手術の腕前」とか「薬の知識」ではなくて、がんという病気の本質をどれだけ知っているかなんです。
小児がんで最も数の多い神経芽腫に関して、基礎医学から臨床医療まで、ぼくは知らないことな何もないと思っていました。
つまりこの病気に関して自分は日本で一番詳しいと思っていました(大学病院在籍当時)。
だから、家族からのどんな質問にも答えることができました。
「知らない」「わからない」と返事したことは一度もありません。
そうやって家族の疑問に答えることが、信頼関係を構築する土台になっていたとぼくは信じています。
だから、著者が、「抗がん剤治療を外科医に任せてはいけない」と書くと悲しい気持ちになるし、ぼくが治療してきた子どもたちの親も同じように感じると思います。

それから2回の手術で麻酔の副作用が違っていた点。
1回目は「大盛り」の麻酔薬を使われたみたいに著者は解釈していましたが、それはいくら何でもあり得ないと思います。
人間の体は1+1=2にならないので、計算通りの結果が得られないことはいくらでもあります。
麻酔医がオオガラだからと言って、薬の使い方が大雑把というのは、ちょっと麻酔科医に失礼ではないでしょうか?

しかしこの本にはいいことがたくさん書かれています。ぼくも命の関わる病気をしていますので、患者の気持ちはとてもよくわかります。
医者の言葉、看護師の態度で患者の精神状態がどれだけ変わるのか、まったく指摘の通りだと思います。
面白いし役に立つ本なので、多くの人に読んで欲しいと思いますが、若い医師や看護師にもぜひ勧めたいと思います。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック